一般社団法人でクリニックを開設しようとするとき、最初に作成する重要書類の一つが「定款」です。
一般社団法人そのものは比較的設立しやすいため、
「インターネットにある一般社団法人の定款ひな型を使えばいいですよね?」
「司法書士に普通の一般社団法人を作ってもらって、その後に保健所へ申請すればよいですか?」
と考える方も少なくありません。
しかし、一般社団法人でクリニックを開設する場合には注意が必要です。
「一般社団法人として登記できる定款」
と、
「一般社団法人を開設者として診療所開設許可を取得することを前提とした定款」
は、同じではありません。
一般社団法人法上は問題なく法人を設立できても、診療所開設許可の段階で、
- 法人の目的
- 社員の議決権
- 理事・代表理事
- 管理医師
- 剰余金
- 残余財産
- MS法人等との関係
について保健所等から修正を求められることがあります。
特に2026年7月31日、厚生労働省は「一般社団法人が開設する医療機関の非営利性の確認のポイント」を正式に通知しました。
この通知では、一般社団法人クリニックについて、定款を確認して、
- 医療機関の開設・経営目的が非営利的であること
- 剰余金を配当しないこと
- 残余財産の帰属先が限定されていること
- 一社員一議決権であること
などを確認し、要件を満たしていない場合には定款変更を求める方針が明確に示されています。
さらに、クリニックの管理医師を一般社団法人の理事に加えることも確認事項となりました。
つまり2026年以降は、
「法人を先に作り、定款は後から考える」
という進め方は、以前にも増しておすすめできません。
この記事では、一般社団法人クリニックの定款について、目的、社員、理事・代表理事、基金、剰余金、残余財産、定款変更まで行政実務の観点から詳しく解説します。
一般社団法人クリニックにとって定款が重要な理由
定款は法人の「基本ルール」
定款とは、一般社団法人の目的や組織、意思決定方法などを定めた法人の基本規則です。
一般社団法人を設立するときには、設立時社員が定款を作成し、公証人の認証を受けたうえで法人設立登記を行います。
一般社団法人は設立登記によって成立します。
通常の一般社団法人であれば、
「法律上必要な事項が記載されているか」
という点がまず重要になります。
しかし、クリニックの開設者となる一般社団法人では、それだけでは足りません。
保健所は「定款から非営利性を見る」
一般社団法人による診療所開設は、医師個人の開設届とは異なり、医療法上の事前の開設許可が必要です。
医療法では、営利を目的として診療所等を開設しようとする者については、開設許可を与えないことができる仕組みになっています。
そのため、一般社団法人の定款も、
「この法人は何のためにクリニックを運営するのか」
を判断する重要資料になります。
2026年7月31日の通知では、定款そのものについて具体的な確認方法まで示されました。
一般社団法人の定款に必ず記載する7項目
一般社団法人法第11条では、定款の必要的記載事項として次の7項目を定めています。
- 目的
- 名称
- 主たる事務所の所在地
- 設立時社員の氏名または名称及び住所
- 社員の資格の得喪に関する規定
- 公告方法
- 事業年度
このうち一つでも欠ければ、一般社団法人の基本的な定款として問題があります。
しかし一般社団法人クリニックでは、これら7項目に加えて、
非営利性を確保するための条項
をどのように設計するかが非常に重要です。
最重要①|「目的」はどう書けばよい?
2026年以降は「地域医療」「公衆衛生」が重要
一般社団法人クリニックの定款で最も重要な条項の一つが目的です。
2026年7月31日の厚生労働省通知では、一般社団法人が医療機関の経営を主たる事業とする場合、
- 「地域医療の確保」
- 「公衆衛生の向上」
- またはこれに類する目的
が記載されていることを確認すると明示されています。
満たしていなければ変更を求める運用です。
したがって、例えば単に、
「診療所の経営」
だけを書くより、
地域医療の確保及び公衆衛生の向上に寄与することを目的として、診療所を開設・運営する
という趣旨が分かる定款にすることが重要になります。
定款目的のイメージ
実際の案件では管轄行政庁との調整が必要ですが、考え方としては例えば、
当法人は、地域における医療の確保及び公衆衛生の向上に寄与することを目的として、医療法に基づく診療所の開設及び運営を行う。
といった方向性が考えられます。
ただし、この文章をそのまま全国で使用すれば必ず許可されるという意味ではありません。
診療内容、法人構成、自治体の運用に応じて定款目的を設計することが重要です。
一般社団法人がクリニックを開設する場合は、定款の文言だけでなく、実際の法人運営についても非営利性が確保されていることが重要です。詳しくは、「一般社団法人クリニックの非営利性完全ガイド」で解説しています。
「美容クリニックだから地域医療は関係ない」は通用する?
美容外科・美容皮膚科など自由診療中心のクリニックでも、一般社団法人が医療機関を開設する以上、医療法上の非営利性が求められます。
「美容サービスを提供して利益を最大化する」
といった株式会社的な事業目的だけでは、一般社団法人による医療機関開設の説明としては不十分です。
美容医療であっても、
医療機関としてどのような医療を提供し、公衆衛生・医療提供にどう寄与するのか
という観点から目的を整理する必要があります。
目的欄に何でも入れるのは危険
2026年通知では「営利追求型の文言」も確認される
2026年通知では、医療機関の開設・経営について、
- 物品販売
- 賃貸
- 事業企画
- 請負
- 代行
など、営利を追求する内容が目的に記載されていないことを確認するとされています。
例えば、
「医療機関の経営及びこれに関する商品の販売、事業企画、コンサルティング、業務代行その他一切の営利事業」
といった目的を無造作に入れることはおすすめできません。
MS法人で行う事業まで一般社団法人へ詰め込まない
特に美容クリニックでは、
- 広告
- コンサルティング
- 医療機器賃貸
- 採用支援
- システム提供
- 不動産
- 物販
などをMS法人が行うケースがあります。
これらを、
「将来使うかもしれないから」
という理由で一般社団法人の目的欄へ大量に入れると、クリニック開設者としての非営利性を説明しにくくなることがあります。
医療機関運営と周辺の営利事業をどの法人で行うかを先に整理することが重要です。
診療所の名称・所在地も定款に入れる必要がある?
一般社団法人法上の絶対的記載事項には、個々の診療所の名称・所在地は含まれていません。
必要なのは法人の「主たる事務所の所在地」です。
これは、診療所名・所在地を定款へ必ず記載する医療法人の定款とは考え方が異なります。
ただし、一般社団法人による診療所開設許可では、法人の目的や実際に行う事業との整合性が確認されます。
そのため、
診療所名・所在地まで定款へ書くかどうかは、管轄保健所の運用や将来の多店舗展開・移転可能性も踏まえて決める
のがよいでしょう。
必要以上に具体的な住所を定款へ固定すると、移転のたびに定款変更が必要になる可能性があります。
最重要②|「社員」とは誰のこと?
社員=従業員ではない
一般社団法人の「社員」は、クリニックで勤務する従業員ではありません。
法人の構成員として、社員総会で重要事項について議決権を行使する者です。
例えば、
- 理事を誰にするか
- 定款を変更するか
- 法人を解散するか
など、法人の根幹に関わる意思決定を行います。
したがって、一般社団法人クリニックでは、
理事以上に「社員を誰にするか」が重要になることがあります。
一般社団法人の社員は何人必要?
一般社団法人設立時には、設立時社員2名以上が必要です。
設立後に1名となっても直ちに解散するわけではありませんが、社員が0名になると一般社団法人は解散事由に該当します。
つまり、
設立時:2名以上必要
設立後:1名でも存続可能
0名:解散
という整理です。
ただし、クリニック開設法人で実際に社員を何名にするかは、単に法律上の最低人数だけで判断するべきではありません。
M&A、事業承継、代表理事変更、ガバナンスまで考えて設計します。
最重要③|2026年以降は「一社員一議決権」
一般社団法人法の原則では、社員は各1個の議決権を持ちますが、一般論としては定款で別段の定めを設ける余地があります。
しかし、医療機関を開設する一般社団法人では事情が異なります。
2026年7月31日の厚生労働省通知では、
一社員一議決権であること
が非営利性の確認項目として明記されました。
定款に一社員一議決権の例外が設けられている場合には、定款変更を求めるとされています。
出したお金によって議決権を変えない
例えば、
A社員:5,000万円拠出 → 90票
B社員:100万円拠出 → 5票
C社員:100万円拠出 → 5票
といった株式会社的な設計は、一般社団法人クリニックでは適切ではありません。
基金拠出額・貸付額と社員の議決権は切り離す
ことが重要です。
社員の入社・退社も定款で決まる
定款の必須記載事項の一つが、
社員の資格の得喪
です。
つまり、
- 誰が社員になれるのか
- どのように入社するのか
- どのように退社するのか
を定款で定めます。
一般社団法人法上、社員は原則としていつでも退社できますが、定款で一定のルールを設けることも可能です。死亡・解散・除名等も法定退社事由です。
M&Aを考えるなら社員規定は特に重要
一般社団法人には株式会社のような株式がありません。
そのためM&A・事業承継では、
旧社員の退社
+
新社員の加入
によって法人の構成員を変更するケースがあります。
定款の社員加入規定が曖昧だと、承継時に手続きが複雑になることがあります。
将来のM&Aまで考えるのであれば、設立時から社員資格・入退社手続を明確にしておくことをおすすめします。
最重要④|理事は誰にする?
一般社団法人には最低1名の理事が必要
一般社団法人には、社員総会のほか、少なくとも1名の理事が必要です。
理事会を設置する場合は、理事3名以上が必要で、さらに監事も置かなければなりません。
したがって組織構成としては、例えば、
理事会を置かない小規模型
社員2名
理事2名
代表理事1名
といった構成を検討できます。
理事会設置型
社員3名
理事3名以上
監事1名以上
代表理事1名
といった構成になります。
どちらが適切かは、クリニック規模、複数院展開、社員・理事構成、M&A方針等によります。
管理医師は理事に入れる
ここは2026年以降、特に重要です。
2026年7月31日の厚生労働省通知では、
一般社団法人が開設した医療機関等の管理者が理事に加えられていること
が非営利性の確認事項として明記されています。
したがって、
代表理事=非医師
理事=非医師2名
管理医師=理事ではない雇用医師
という構成で一般社団法人を先に登記してしまうと、診療所開設許可の段階で役員構成の見直しが必要になる可能性があります。
現在は、
管理医師を理事に加えることを前提に法人設計する
のが重要です。
管理医師は「社員」にもする必要がある?
理事と社員は別の立場です。
2026年通知では、管理医師を理事に加えることが明示されていますが、これだけをもって管理医師が必ず社員でなければならないという整理ではありません。
そのため、
社員=A・B
理事=A・B・管理医師C
という構成も制度上検討できます。
ただし、実際の社員・理事構成については管轄行政庁の審査運用や非営利性を踏まえて設計する必要があります。
管理医師を理事に加える場合には、医療法上の管理者としての地位と、一般社団法人の理事としての地位、さらに勤務医としての雇用関係を分けて整理することが重要です。詳しくは、「一般社団法人クリニックの管理医師との契約完全ガイド」で解説しています。
代表理事は医師でなければならない?
一般社団法人法上、代表理事に医師資格を要求する一般的な規定はありません。
したがって、
代表理事=非医師
管理医師=医師
という設計自体は検討できます。
しかし、クリニックの場合は、
- MS法人との関係
- 資金提供者
- 人事権
- 管理医師の権限
- 法人の実質的支配者
まで確認される可能性があります。
特に2026年通知では、一般社団法人の役員が医療機関の開設・経営上利害関係にある営利法人等の役職員を兼務する場合の確認が強化されています。
したがって、
非医師代表理事になれるか
だけでなく、
その人物を代表理事にした状態で医療機関の非営利性を説明できるか
まで考える必要があります。
MS法人の代表者を理事・代表理事にしてよい?
一律に「絶対不可」とまでは整理されていません。
しかし2026年通知では、
- 法人役員が原則として医療機関の開設・経営上利害関係のある営利法人等の役職員を兼務していないこと
- 原則として、法人と関係する特定の営利法人の役員が代表的立場や役員として参画していないこと
が確認事項として示されています。
例えば、
一般社団法人代表理事=A氏
MS法人代表取締役=A氏
で、
MS法人が、
- 物件を貸す
- 医療機器を貸す
- 広告を受託する
- バックオフィス業務を受託する
という構造なら、慎重な検討が必要です。
定款だけでなく、実際の取引金額や経営への影響まで含めて確認されます。
なお、設立後に社員・理事・代表理事を変更する場合には、社員の入退社、社員総会、理事の選任・辞任、代表理事変更、登記などを個別に整理する必要があります。詳しくは、「一般社団法人クリニックの社員・理事・代表理事を変更する方法」をご確認ください。
理事会を設置した方がよい?
これは案件によります。
理事会を設置しないメリット
- 必要理事数を抑えやすい
- 法人運営が比較的シンプル
- 小規模クリニックでは運営しやすい
理事会を設置するメリット
- 意思決定手続が明確
- 複数理事によるガバナンスを構築できる
- 多店舗展開やM&Aで管理しやすい場合がある
ただし理事会を設置すると、
理事3名以上+監事
が必要になります。
「クリニックだから必ず理事会設置型」というわけではありません。
法人規模と将来計画を踏まえて決めることが重要です。
最重要⑤|「剰余金を分配しない」と明記する
一般社団法人はもともと、株式会社のように社員へ剰余金を配当する法人ではありません。
一般社団法人法でも、社員に剰余金や残余財産の分配を受ける権利を与える定款規定は効力を有しないとされています。
しかし、一般社団法人クリニックでは一歩進んだ対応が必要です。
2026年通知では定款に明記することを確認
厚生労働省は2026年通知で、
定款に「剰余金の配当をしないこと」が定められているかを確認する
と明示しています。
記載がなければ、原則として変更を求める運用です。
したがって、
当法人は、剰余金の分配を行わない。
といった条項を明確に設けておくことが重要です。
「一般社団法人法上もともと配当できないから書かなくてよい」は危険
一般社団法人法だけを見れば一定の説明はできます。
しかし現在の一般社団法人クリニックの開設審査では、
定款そのものに不分配を明記する
ことが重要になっています。
古い定款ひな型を使用している場合は、一度確認することをおすすめします。
役員報酬は定款で禁止しなくてよい?
「剰余金を配当できない」ということと、
理事に適正な役員報酬を支払うこと
は別です。
理事が実際に法人運営の職務を行っているのであれば、法令・定款・社員総会決議等に従って役員報酬を支給することは可能です。
ただし、
「利益が3,000万円出たので、代表理事へ3,000万円の臨時報酬を支払う」
など、実質的な利益分配と評価されるような仕組みは問題になります。
定款の報酬規定も、クリニックの非営利性を踏まえて設計してください。
最重要⑥|残余財産は誰に帰属させる?
社員・代表理事へ渡す定款は不可
一般社団法人を解散した際、
借金等をすべて支払っても財産が残ることがあります。
これを「残余財産」といいます。
一般社団法人法上も、社員に残余財産の分配を受ける権利を与える定款規定は効力を有しません。
さらに、一般社団法人が医療機関を開設する場合には、2026年通知で残余財産の帰属先がさらに具体的に限定されています。
2026年の定款チェックでは帰属先まで見る
厚生労働省は、解散時の残余財産の帰属先について、
- 国
- 地方公共団体
- 一定の医療法人
- 公的医療機関の開設者等
- 一定の非営利型一般社団法人・一般財団法人
などの中から選定して定款へ明記するよう示しています。
明記されていない場合には定款変更を求める運用です。
例えば「社員総会で自由に決める」だけでは不十分
例えば、
残余財産は社員総会の決議により決定した者へ帰属する。
だけでは、最終的に個人や営利企業を指定できる余地が残ります。
一般社団法人クリニックでは、
帰属可能な法人等の範囲そのものを定款で限定する
ことが重要です。
残余財産規定のイメージ
実際の定款文言は税務上の法人区分等も確認する必要がありますが、考え方としては、
当法人が清算する場合において有する残余財産は、社員総会の決議を経て、国、地方公共団体又は法令上認められた非営利法人等に贈与するものとする。
といった方向性になります。
ただし、2026年通知は帰属先を具体的に限定していますので、「非営利法人等」という抽象的な表現だけで済ませず、管轄行政庁と確認して規定することをおすすめします。
最重要⑦|基金を使うなら定款規定が必要
基金は一般社団法人独自の制度
一般社団法人には株式会社の「資本金」はありません。
その代わり、任意に基金制度を採用できます。
法務省は基金について、
一般社団法人へ拠出された金銭等で、法人が拠出者に対して法律及び合意に従って返還義務を負うもの
と説明しています。
基金制度の採用は任意です。
基金を利用するなら定款に定める
基金制度を利用したい場合には、
基金を募集することができる旨
などを定款へ設けます。
例えば、
開設時基金1,000万円
↓
一般社団法人の運転資金・医療機器等に使用
という方法を検討できます。
基金拠出者と社員の地位は別です。
つまり、
基金を1億円出した人だから議決権が増える
という制度ではありません。
基金は普通の借入金と違う
基金は返還可能ですが、自由にいつでも返せるわけではありません。
一般社団法人法では、
- 一定の返還可能額の範囲
- 定時社員総会決議
- 基金への利息禁止
- 返還額と同額の代替基金
などのルールが定められています。
したがって、
「代表理事が1,000万円入れて、半年後に返したい」
という資金であれば、基金ではなく通常の貸付の方が目的に合う場合もあります。
基金を定款へ入れるかどうかは、開設時の資金計画まで考えて決めます。
一般社団法人の開業資金は基金だけで準備する必要はなく、金融機関借入、代表理事貸付、関係者からの借入等を組み合わせる方法もあります。詳しくは、「一般社団法人クリニックの資金調達完全ガイド」をご確認ください。
基金を使わない場合は定款に基金規定は不要?
基金制度は任意なので、利用しないのであれば一般社団法人法上、基金規定を必ず設ける必要はありません。
ただし、クリニック開設後に、
「2院目を作るため追加基金を入れたい」
となる可能性があるなら、最初から基金制度を定款へ入れておく方法も考えられます。
後から基金制度を導入すると、定款変更が必要になります。
公告方法は何を選ぶ?
一般社団法人の定款では「公告方法」も必須記載事項です。
一般的には、
- 官報
- 日刊新聞紙
- 電子公告
等から選択します。
小規模な一般社団法人では官報を選択するケースもあります。
公告方法そのものが一般社団法人クリニックの非営利性を左右する主要事項ではありませんが、法定の必要記載事項なので漏らすことはできません。
事業年度はクリニック運営まで考えて決める
事業年度も定款の必須項目です。
例えば、
毎年4月1日から翌年3月31日
毎年1月1日から12月31日
などです。
一般社団法人クリニックでは、2026年度事業分から、公益社団法人を除き、事業報告書、貸借対照表、損益計算書等を行政へ届け出る新しい制度が導入されています。実際の届出は2027年4月1日以降に始まります。
そのため、事業年度は単に設立登記だけでなく、
決算・税務・行政への毎年度報告
まで考えて設定するとよいでしょう。
「税務上の非営利型法人」と医療法上の非営利性は別
ここは非常に重要です。
一般社団法人には法人税法上、
非営利型法人
に該当する法人と、そうでない法人があります。
税務上の非営利型法人には、
- 定款に剰余金を分配しない旨がある
- 残余財産の帰属先が一定範囲に限定されている
- 特定の個人・団体へ特別な利益を与えない
- 理事の親族等の割合が一定以下
などの要件があります。
しかし、
税務上の非営利型法人かどうか
と、
医療法上、診療所の開設者として非営利性を満たしているか
は同じ審査ではありません。
税務上の判断は税理士、医療法上の開設許可は管轄保健所・都道府県等の問題です。
両者を混同しないようにしてください。
一般社団法人クリニック向け定款の主要チェック項目
2026年現在、少なくとも次の項目を確認することをおすすめします。
| 項目 | チェックポイント |
|---|---|
| 目的 | 地域医療・公衆衛生等の目的があるか |
| 医療事業 | 診療所の開設・運営が明確か |
| 営利的目的 | 医療機関経営について営利追求型文言がないか |
| 社員 | 資格・加入・退社方法が明確か |
| 議決権 | 一社員一議決権か |
| 理事 | 必要人数を満たしているか |
| 管理医師 | 理事に加える設計になっているか |
| 代表理事 | 選定方法が明確か |
| 理事会 | 設置の有無が明確か |
| 監事 | 理事会設置の場合など必要性を確認 |
| 役員報酬 | 決定方法が明確か |
| 剰余金 | 不分配を明記しているか |
| 基金 | 採用する場合は基金規定があるか |
| 残余財産 | 帰属先が2026年基準に適合するか |
| 公告 | 公告方法があるか |
| 事業年度 | 明記されているか |
一般社団法人クリニックの定款でよくある失敗
1. インターネットの無料ひな型をそのまま使用する
一般社団法人として設立できても、医療機関の非営利性を前提に作成された定款とは限りません。
2. 法人を登記してから保健所へ相談する
定款修正が必要になると、
社員総会
↓
定款変更
↓
必要に応じて変更登記等
が必要になり、開設スケジュールが遅れます。
3. 目的を「診療所経営」だけにする
2026年以降は地域医療の確保、公衆衛生の向上等の目的が重要です。
4. MS法人の事業を大量に目的へ入れる
物販、賃貸、企画、請負、代行等の営利的文言と医療機関運営を混在させると補正につながる可能性があります。
5. 社員の議決権に差をつける
一般社団法人クリニックでは2026年通知により、一社員一議決権が明確な確認事項になっています。
6. 管理医師を理事に入れていない
現在は管理医師を理事へ加えることが明確な確認事項です。
7. 剰余金不分配規定がない
2026年通知では定款へ剰余金を配当しない旨を定めるよう明示されています。
8. 残余財産を「社員総会で決める」だけにする
帰属先の範囲そのものを限定する必要があります。
9. 基金と借入金を混同する
基金には返還制限や利息禁止等、通常の借入とは異なるルールがあります。
10. 診療所所在地を必要以上に定款へ固定する
将来の移転・多店舗展開時に定款変更が増える可能性があります。
定款を後から変更することはできる?
可能です。
一般社団法人は成立後、社員総会決議によって定款を変更できます。
ただし定款変更は通常の社員総会決議より重い決議要件です。
法律上、原則として、
総社員の半数以上で、総社員の議決権の3分の2以上
に当たる多数による決議が必要です。定款でさらに厳しい要件を定めることもできます。
したがってM&A等で社員関係が悪化している法人では、
定款を変更したくても必要な賛成を集められない
ということがあります。
最初の定款設計が重要な理由の一つです。
「保健所に言われてから定款を直す」でよい?
おすすめしません。
例えば保健所から、
「管理医師を理事にしてください」
「残余財産条項を修正してください」
「一社員一議決権へ変更してください」
と指摘された場合、すでに法人設立後であれば、社員総会決議等による定款・役員構成の変更が必要になります。
その結果、
クリニック開設日
保険医療機関指定日
テナント開業日
までずれる可能性があります。
【一般社団法人クリニックの定款・開設許可について相談する】
一般社団法人でクリニックを開設する場合は、法人登記前に、定款案・社員構成・理事構成・管理医師・MS法人との関係を管轄行政庁の運用に合わせて整理しておくことが重要です。
一般社団法人クリニックの定款に関するFAQ
Q1. 普通の一般社団法人の定款でクリニックを開設できますか?
必ずしもできるとは限りません。
一般社団法人として設立可能な定款と、診療所開設許可の非営利性審査に適した定款は別問題です。
Q2. 定款には「診療所の開設」と書いた方がよいですか?
医療機関の開設・経営を行う法人であることが明確になるよう設計する必要があります。
2026年通知では、地域医療の確保、公衆衛生の向上等の目的が記載されていることも確認されます。
Q3. 美容クリニックでも「公衆衛生の向上」と書く必要がありますか?
2026年通知では、「地域医療の確保」「公衆衛生の向上」またはこれに類する目的を求めています。
具体的な目的表現は診療内容や管轄行政庁との協議を踏まえて作成してください。
Q4. 一般社団法人の社員は最低何名ですか?
設立時には2名以上必要です。
設立後に1名となっても法人は存続できますが、0名になると解散事由となります。
Q5. 社員は医師でなければなりませんか?
一般社団法人法上、社員を医師に限定する一般的な規定ではありません。
ただしクリニックの非営利性・運営主体を踏まえて人選する必要があります。
Q6. 社員と理事は同じ人でもよいですか?
兼任は可能です。
ただし社員と理事は法的には別の地位なので、それぞれの権限を理解して設計します。
Q7. 管理医師は理事にしなければなりませんか?
2026年7月31日の厚生労働省通知では、一般社団法人が開設する医療機関の管理者が理事に加えられていることが確認事項となっています。
Q8. 管理医師は社員にもする必要がありますか?
管理医師を理事に加えることは明示されていますが、それだけをもって必ず社員にもする必要があるという規定ではありません。
案件ごとに法人構成を検討します。
Q9. 非医師を代表理事にできますか?
一般社団法人法上は検討可能です。
ただし、MS法人との関係や実質支配、非営利性について別途審査される可能性があります。
Q10. MS法人社長を代表理事にできますか?
一律不可とはいえませんが、2026年以降は営利法人との役員兼務が重要な確認事項です。
MS法人との取引規模・内容まで踏まえて事前確認をおすすめします。
Q11. 基金は必ず定款に入れなければなりませんか?
いいえ。
基金制度は任意です。
利用する場合には定款に基金制度を設けます。
Q12. 基金を出した人は社員になりますか?
基金拠出者と社員は別の地位です。
基金を拠出しただけで社員になるわけではありません。
Q13. 基金額によって議決権を増やせますか?
一般社団法人クリニックではおすすめできません。
2026年通知では一社員一議決権が明確な確認事項です。
Q14. 剰余金不分配の条項は必要ですか?
一般社団法人クリニックでは明記しておくべき重要条項です。
2026年通知でも定款への記載が確認され、なければ変更を求めることとされています。
Q15. 解散時に財産を代表理事へ渡せますか?
一般社団法人クリニックの残余財産については、国、地方公共団体、一定の医療法人・非営利法人等に帰属先を限定することが求められています。
Q16. 定款は後から変更できますか?
可能です。
原則として総社員の半数以上かつ総議決権の3分の2以上に当たる多数による社員総会決議が必要です。
Q17. 診療所を2院・3院に増やすたびに定款変更が必要ですか?
一般社団法人の定款に個別診療所の名称・所在地をどこまで記載しているか等によります。
医療法人とは制度が異なりますが、分院開設自体については各診療所ごとの開設許可等が必要になります。
多店舗展開を予定している場合は、最初から将来を想定した定款設計をおすすめします。
Q18. 税務上の非営利型一般社団法人にすれば開設許可は必ず取れますか?
いいえ。
法人税法上の非営利型法人の要件と、医療法上の医療機関の非営利性審査は別です。
Q19. 公証人が認証した定款なら保健所も認めてくれますか?
そうとは限りません。
公証人による定款認証と、医療法上の診療所開設許可審査は別の手続きです。
Q20. 定款作成はいつ保健所へ相談すればよいですか?
法人設立前をおすすめします。
特に2026年以降は、定款そのものについて具体的な確認基準が示されています。
まとめ|一般社団法人クリニックは「登記できる定款」ではなく「開設許可まで考えた定款」を作る
一般社団法人の設立そのものは、医療法人と比べれば比較的シンプルです。
しかし、
一般社団法人を作れること
と、
その一般社団法人でクリニックを開設できること
は別問題です。
一般社団法人クリニックの定款では、少なくとも、
目的
社員
一社員一議決権
理事
管理医師
代表理事
剰余金の不分配
基金
残余財産
を一体として設計する必要があります。
特に2026年7月31日の厚生労働省通知によって、
定款のどこを行政が確認するのか
が以前より明確になりました。
重要なのは次の5点です。
① 医療機関の開設・経営について、地域医療の確保・公衆衛生の向上等を目的とする
② 管理医師を理事に加える
③ 剰余金を配当しない旨を定款へ明記する
④ 残余財産の帰属先を一定の非営利主体へ限定する
⑤ 一社員一議決権とする
これらに加え、MS法人等との関係がある場合には、役員兼務や実質的な利益移転についても注意が必要です。
一般的な一般社団法人のひな型を先に公証役場で認証し、
「法人を作ったので、次は保健所へ行こう」
という進め方をすると、後から定款変更・役員変更が必要になることがあります。
一般社団法人クリニックでは、法人設立の前に保健所等との事前協議を行い、その結果を定款へ反映してから法人を設立する
という順番をおすすめします。
一般社団法人クリニックの定款・法人設立をご検討の方へ
一般社団法人でクリニックを開設する場合には、
- なぜ一般社団法人なのか
- どのような医療を提供するのか
- 社員を誰にするのか
- 理事・代表理事を誰にするのか
- 管理医師をどのように理事へ加えるのか
- 基金を利用するのか
- MS法人とどのような関係になるのか
- 解散時の残余財産をどう定めるのか
まで、法人設立前に決める必要があります。
定款は、単なる法人設立書類ではありません。
診療所開設許可・将来の多店舗展開・役員変更・M&Aまで左右する一般社団法人クリニックの設計図です。
地域によって行政運用や必要書類が異なるため、定款認証・設立登記を先に進める前に、管轄保健所・都道府県等へ事前確認することをおすすめします。
