一般社団法人でクリニックを開設しようとする方から、非常によく聞かれるのが「非営利性」に関する質問です。
例えば、
「一般社団法人は利益を出してはいけないのですか?」
「代表理事に役員報酬を払うことはできますか?」
「非医師オーナーはクリニックから報酬を受け取れますか?」
「MS法人へ家賃や業務委託料を支払っても大丈夫ですか?」
「クリニックの利益をMS法人へ移すことはできますか?」
「一般社団法人から関連会社へ貸付をしてもよいですか?」
といった相談です。
結論からいうと、一般社団法人クリニックが利益を出すこと自体は禁止されていません。
問題になるのは、クリニックで生じた利益を社員、役員、実質的オーナー、MS法人その他の第三者へ不適切に移転・分配することです。
つまり、一般社団法人クリニックにおける「非営利」とは、
利益を出してはいけない
という意味ではなく、
医療機関の利益を特定の個人・法人へ配当その他これに類する方法で還流させてはいけない
という考え方を中心に理解すると分かりやすいでしょう。
法務省も、一般社団法人が収益事業を行い、その利益を法人活動に充てること自体には問題がない一方、株式会社のように社員等へ剰余金を分配する法人ではないと説明しています。
さらに、一般社団法人が医療機関を開設する場合には、一般社団法人法だけではなく医療法上の非営利性が強く求められます。
特に2026年7月31日、厚生労働省は「一般社団法人が開設する医療機関の非営利性の確認のポイント」を正式に通知しました。
この通知では、
- 法人の目的
- 剰余金の配当
- 土地・建物・設備の賃料
- 医療機器リース
- 給与・各種費用
- 関係事業者との取引
- 営利法人との役員兼務
- 残余財産
- 社員の議決権
などを、開設許可時だけでなく、開設後の決算書や立入検査等によって確認する仕組みが具体化されています。
一般社団法人クリニックを開設・運営するのであれば、今後は「定款だけ非営利型にしておけばよい」という考え方では不十分です。
実際のお金の流れまで含めて非営利性を説明できる状態にすることが重要になります。
この記事では、一般社団法人クリニックの非営利性について、2026年の最新制度を踏まえて行政実務の観点から詳しく解説します。
一般社団法人クリニックの「非営利性」とは?
結論|「利益を出さないこと」ではない
一般社団法人がクリニックを運営し、
売上1億円
経費8,000万円
利益2,000万円
となったとしても、2,000万円の利益が発生したこと自体が直ちに問題になるわけではありません。
クリニックには、
- 医療機器の購入
- スタッフ採用
- 内装更新
- 新規分院
- 運転資金
- 将来の設備投資
- 不測の事態への備え
などのために内部留保が必要です。
一般社団法人は「利益を一切出してはいけない法人」ではありません。
法務省も、一般社団法人が収益事業を行い、その利益を活動経費に使用することは差し支えないと明示しています。
問題になるのは「利益を誰に移すか」
一方、医療機関としての非営利性では、
クリニックで生じた利益を特定の人や会社へ流していないか
が重要になります。
厚生労働省は従来から、医療機関の運営上生じる剰余金を役職員や第三者に配分しないことを求めています。
2026年7月31日の通知でも、
剰余金の配当をしていないこと
剰余金に類するものも同様に配当していないこと
が明確な確認項目となりました。
したがって非営利性を見るときは、
「利益があるか」ではなく「利益がどこへ行ったか」
を見ることが重要です。
一般社団法人クリニックでは、誰を社員・理事・代表理事とするかによって、法人の意思決定や非営利性の説明にも影響します。設立後の退任・辞任・選任・代表理事変更については、「一般社団法人クリニックの社員・理事・代表理事を変更する方法」をご確認ください。
一般社団法人クリニックは利益を内部留保できる?
利益を法人内に残すことは可能
一般社団法人で生じた利益を、
- 預金として残す
- 医療機器を購入する
- スタッフ給与に充てる
- 分院開設資金として積み立てる
- 借入金返済に使用する
- 診療環境改善に使用する
ことは、通常の法人運営として考えられます。
むしろ2026年の非営利性確認では、貸借対照表について、
現預金が法人の財政規模に比して過小でないか
も確認項目とされています。
つまり、
「非営利法人だから毎年利益をゼロにしなければならない」
という考え方は適切ではありません。
無理に利益を使い切るため、年末に関連会社へ多額の業務委託費を支払うような運用の方が、むしろ非営利性の観点から問題になり得ます。
「非営利」と「無報酬」は違う
理事へ役員報酬を払うことはできる
一般社団法人の理事だから無報酬でなければならない、ということではありません。
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第89条では、理事の報酬について、定款に額が定められていない場合には社員総会の決議によって定めるとされています。
したがって、
代表理事や理事へ適正な役員報酬を支払うこと自体は可能
です。
重要なのは、
- 実際に職務を行っていること
- 適切な法人手続きで決定されていること
- 職務内容に照らして合理的な金額であること
- 剰余金分配の代替として支払われていないこと
です。
役員報酬と利益分配は別物
例えば、
代表理事が実際に法人経営、採用、財務、人事、行政対応等を担当し、その職務対価として月額50万円の役員報酬を受け取る
というケースと、
法人に2,000万円の利益が出たため、年度末に代表理事へ2,000万円の臨時報酬を支払う
というケースでは意味が大きく異なります。
後者のように、法人利益に連動して特定の人物へ多額の金銭が流れる仕組みは、実質的な利益分配ではないかという問題が生じます。
2026年通知でも、事業費用のうち給与が財政規模に比して過大ではないか、その他の各費用にも不適切に高額なものがないかを確認することとされています。
したがって、役員報酬についても、
「払えるかどうか」だけではなく「なぜその金額なのか」
を説明できることが重要です。
一般社団法人クリニックの非営利性は、実際の運営だけでなく、法人の目的、社員の議決権、剰余金、残余財産など定款の内容にも反映させる必要があります。具体的な定款設計については、「一般社団法人クリニックの定款完全ガイド」で詳しく解説しています。
非医師オーナーは一般社団法人クリニックから報酬を受け取れる?
非医師だから報酬を受け取れないわけではない
一般社団法人を利用した美容クリニック等では、
代表理事=非医師
管理医師=医師
という法人構成を検討するケースがあります。
非医師であることだけを理由に、一般社団法人の理事として適正な報酬を受け取れないわけではありません。
実際に代表理事として法人経営の職務を行っているのであれば、その職務に対する役員報酬を設定することは考えられます。
ただし、ここで注意したいのが**「オーナー利益」という発想**です。
株式会社の株主配当のような利益取得はできない
株式会社では、株主が出資割合に応じて配当を受けることがあります。
一般社団法人には、このような株主配当の仕組みはありません。
法務省も、一般社団法人は剰余金の分配を目的としない法人であり、定款によって社員等へ剰余金の分配を受ける権利を与えることもできないと説明しています。
したがって、
「自分が事実上のオーナーなので、クリニック利益の30%を毎年受け取る」
といった仕組みは、一般社団法人クリニックの非営利性との関係で重大な問題になります。
報酬は「出資のリターン」ではなく「仕事の対価」
考え方としては、
出資したから受け取る
→問題になりやすい
職務を行ったから適正な対価を受け取る
→検討可能
という違いです。
一般社団法人クリニックでは、この区別を明確にすることが重要です。
MS法人との取引はできる?
結論|MS法人との取引自体は禁止されていない
一般社団法人クリニックとMS法人との取引がすべて禁止されているわけではありません。
美容クリニック等では、MS法人が、
- 不動産を所有する
- 医療機器を保有する
- 広告業務を行う
- 人材採用支援を行う
- システムを提供する
- コールセンターを運営する
- バックオフィス業務を担当する
といったケースがあります。
こうした取引そのものではなく、
取引に実態があるか
金額が適正か
MS法人へ不当に利益を移転していないか
が重要になります。
2026年7月31日の通知では、関係事業者との取引について、世間相場と比べ取引金額が過大ではないかを確認することが明示されています。
MS法人への家賃は支払える?
適正な家賃であれば検討可能
例えば、MS法人がクリニック物件を所有または賃借し、一般社団法人へ転貸するケースがあります。
こうした不動産賃貸自体が直ちに禁止されるわけではありません。
ただし厚生労働省は、
- 借料の額
- 契約期間
- その他の契約内容
が適切であることを求めています。
さらに非常に重要なのが、
借料を医療機関収入の一定割合としないこと
です。
「売上の20%を家賃」とする契約は要注意
例えば、
月商3,000万円なら家賃600万円
月商5,000万円なら家賃1,000万円
というような、売上連動型の賃料契約は非営利性の観点から問題になり得ます。
MS法人側からすると「売上に応じた経営参加」に近い構造となり、クリニック利益が外部へ移転する仕組みになりやすいためです。
家賃については、
近隣相場
物件面積
築年数
設備
契約条件
などから合理的に説明できる固定額を基本に検討するのが安全です。
医療機器をMS法人から借りることはできる?
可能ですが、家賃と同じ考え方です。
2026年通知では、医療機器の購入・リース契約についても確認対象とされています。
行政側は、
- リース料
- 契約期間
- 契約内容
- 法人規模とのバランス
などを確認できます。
例えば市場価格1,000万円の医療機器をMS法人が購入し、一般社団法人へ年間2,000万円で貸し出すような契約であれば、当然、
なぜそのリース料なのか
という問題になります。
関連会社取引は第三者取引以上に、価格の客観性を説明できる資料を残しておくことが重要です。
MS法人への業務委託料はどこまで認められる?
実際の業務が存在することが前提
一般社団法人からMS法人へ、
広告費
事務代行費
採用支援費
IT管理費
コールセンター費
経営支援費
などを支払うことがあります。
この場合、まず必要なのが実際の業務実態です。
契約書に、
「経営コンサルティング一式 月額500万円」
とだけ書かれていても、
誰が
何を
何時間
どのように
提供しているか説明できなければ、実態のない利益移転ではないかという疑義が生じます。
2026年から委託費・支払手数料も確認対象が明確化
2026年通知では、附属明細書等を通じ、
委託費や支払手数料など外部業者への支払費目のうち、財政規模に比して高額なものがないか
を確認することが示されています。
つまり今後は、
「契約書があるから大丈夫」
ではありません。
契約書+業務実態+金額の合理性
まで確認される可能性があります。
売上連動型の業務委託料は大丈夫?
一般論として非常に慎重に検討すべきです。
例えば、
クリニック売上の30%をMS法人へ経営支援料として支払う
とします。
売上1億円なら3,000万円、2億円なら6,000万円です。
MS法人が負担する業務量がほぼ変わらないにもかかわらず、クリニック売上に比例して報酬だけが大幅に増えるのであれば、
「業務対価」というより、
クリニック利益をMS法人へ移転する仕組み
と見られるリスクがあります。
少なくとも、
- 業務内容
- 人員
- 工数
- 市場相場
- 原価
- 他社見積
- 算定根拠
などから金額を説明できる状態が必要です。
関連記事「一般社団法人クリニックとMS法人の取引完全ガイド」でも詳しく解説しています。
非医師オーナーが所有するMS法人との取引は特に注意
例えば、
一般社団法人代表理事=A氏
MS法人代表取締役=A氏
というケースです。
あるいは、
一般社団法人代表理事=A氏
MS法人代表取締役=A氏の配偶者
といったケースもあります。
2026年通知では、役員本人や近親者、その者が代表者である法人等との一定の取引を「関係事業者」として確認する仕組みが具体化されています。
一定規模以上の取引については、
- 相手方
- 関係性
- 取引内容
- 取引金額
- 取引条件
- 条件の決定方針
- 債権債務残高
などを確認できる仕組みになっています。
そのため、MS法人取引では、
「身内の会社だから自由に金額を決められる」
という運用は避ける必要があります。
登記上は一般社団法人が開設者となっていても、実際には第三者やMS法人が、人事、資金、契約、管理医師の選任などを支配している場合には、別の問題が生じます。詳しくは、「一般社団法人クリニックの名義貸し・実質支配とは?」で解説しています。
一般社団法人とMS法人の役員兼務はできる?
一律禁止ではないが重要な審査項目
2026年通知では、
一般社団法人の役員が、原則として医療機関の開設・経営上利害関係にある営利法人等の役職員を兼務していないこと
が確認事項として示されています。
兼務している場合には、医療機関の非営利性へ影響を与えない規模の取引であるか等を確認することとされています。
さらに、
一般社団法人と関係する特定の営利法人の役員が理事長に就任したり、役員として参画していないこと
も原則的な確認事項です。
したがって、非医師オーナー型の一般社団法人クリニックでは、
「MS法人社長をそのまま一般社団法人の代表理事にする」
という構成について、取引関係まで含めて慎重な検討が必要です。
役員兼務だけを見て一律に可否判断するのではなく、
誰が意思決定しているか
どの会社へいくら支払っているか
管理医師の独立性が確保されているか
まで含めて考えます。
管理医師と非営利性はどう関係する?
2026年から「管理医師を理事に加える」ことが明確な確認項目に
2026年通知では、一般社団法人が開設する医療機関の管理者を法人の理事に加えていることが確認事項として明記されています。
これは非常に重要な変更です。
例えば、
代表理事=非医師オーナー
理事=非医師関係者のみ
管理医師=雇用されているだけ
という構成ではなく、
管理医師を法人の理事として法人運営にも関与させる
ことが求められます。
医療機関が単なる投資ビジネスとなり、診療に責任を負う医師が法人運営から完全に切り離されることを防ぐ趣旨とも考えられます。
関連記事「一般社団法人クリニックの管理医師完全ガイド」もあわせて確認してください。
一般社団法人からMS法人へ貸付はできる?
「法律上できるか」だけで判断しない
一般社団法人に多額の現預金がある場合、
「余っている資金をMS法人へ貸せないか」
という相談があります。
この点は慎重な判断が必要です。
2026年通知では、事業報告書について、
- 投機的取引
- 高利の融資
- 法人の社会的信用を維持する上でふさわしくない事業
などを行っていないか確認するとされています。
さらに関係事業者との一定規模以上の資金貸借についても確認対象として具体化されています。
したがって関連MS法人への貸付については、
「貸付契約を作れば大丈夫」
というものではありません。
特に問題になりやすいケース
例えば、
一般社団法人預金5,000万円
↓
MS法人へ4,500万円貸付
として、クリニック側にはほとんど資金が残らない場合です。
2026年通知では、一般社団法人の現預金が財政規模に比して過小でないか、債権・債務が過大でないかも確認事項になっています。
医療機関の運転資金を大きく減らして関連会社へ資金を移す構造は、
医療提供より関連会社への資金移転を優先しているのではないか
と疑われる可能性があります。
貸付の必要性、金額、金利、返済能力、法人目的、医療機関への影響等を総合的に検討する必要があります。
MS法人から一般社団法人へ資金を貸すことはできる?
これは比較的よくあるケースです。
一般社団法人の開設初期には、
- 内装費
- 医療機器
- 敷金
- 広告費
- 運転資金
などが必要になるため、関連会社や関係者から借入を行うことがあります。
第三者から資金提供を受けること自体が直ちに禁止されるものではありません。
ただし厚生労働省は従来から、第三者から資金提供を受ける場合には、その第三者が医療機関の開設・経営を実質的に左右するおそれがないことを確認するとしています。
例えば、
「MS法人が1億円を貸す代わりに、クリニックの人事・診療方針・銀行口座をMS法人が決定する」
という構造であれば問題があります。
資金を出すことと、医療機関の実質的支配をすることは別
という整理が重要です。
一般社団法人の利益を「経営コンサル料」でオーナー会社へ移すのは?
非常に危険な考え方です。
例えば一般社団法人クリニックの年間利益が3,000万円出そうなので、
MS法人へのコンサル料を年末だけ3,000万円増額し、法人利益をほぼゼロにする
とします。
契約書が存在していたとしても、
- 業務量が増えていない
- 人員も増えていない
- 相場より著しく高額
- 利益額に合わせて委託料を調整
- 関連MS法人だけが利益を得る
という状況であれば、実質的な利益移転を疑われる可能性があります。
2026年通知では、
事業規模に比して事業費用が過大でないこと
および、
関係事業者との取引金額が世間相場と比べて過大でないこと
を確認すると明示されています。
一般社団法人の利益を毎年関連会社へ吸い上げるようなスキームは、非営利性の観点から極めて慎重に考えるべきです。
一般社団法人の残余財産は誰のもの?
解散してもオーナーへ配れない
もう一つ重要なのが残余財産です。
一般社団法人を解散し、債務をすべて支払った後に財産が残ったとしても、
事実上のオーナーや社員へ自由に分配できるわけではありません。
一般社団法人が医療機関を開設する場合、2026年通知では残余財産の帰属先を、
- 国
- 地方公共団体
- 一定の医療法人
- その他一定の非営利法人
など所定の範囲から選定し、定款へ明記することを確認するとされています。
つまり、
「クリニックを10年間運営して5億円貯め、最後に法人を解散して社員が受け取る」
という出口戦略は基本的に想定されていません。
これは株式会社との非常に大きな違いです。
社員の議決権も非営利性の確認対象
原則「一社員一議決権」
一般社団法人では、株式会社のように出資金額に応じて議決権を増やす制度ではありません。
2026年通知では、
一社員一議決権であること
が非営利性の確認項目として明確に示され、定款に例外規定がある場合には変更を求めるとされています。
例えば、
A社員:議決権90%
B社員:議決権5%
C社員:議決権5%
といった設計は、医療機関を開設する一般社団法人では問題となる可能性があります。
非医師オーナー一人へ法人支配権を集中させる目的で、特殊な議決権設計を行うことは避けるべきです。
「医療法上の非営利」と「税務上の非営利型法人」は別
ここは非常によく混同されます。
一般社団法人には税務上、
非営利型法人
と、
非営利型法人以外の一般社団法人
があります。
国税庁によれば、法人税法上の非営利型法人に該当する一般社団法人は公益法人等として扱われ、収益事業から生じた所得が課税対象となります。
一方、非営利型法人の要件を満たさない一般社団法人は普通法人として扱われ、原則としてすべての所得が課税対象です。
しかしこれは法人税法上の分類です。
医療法上、
「医療機関として非営利性を満たしているか」
という問題とは別に判断されます。
したがって、
税務上普通法人だから医療機関を開設できない
とも、
税務上非営利型法人だから医療法上も必ず問題ない
とも限りません。
税務上の法人区分については税理士と確認する必要があります。
2026年7月31日通知で何が変わった?
一般社団法人クリニックの経営実態まで確認される
これまで一般社団法人クリニックでも非営利性の確認は行われていました。
しかし2026年の制度改正によって、これまで以上に開設後の経営実態を継続的に確認する仕組みが明確になりました。
厚生労働省の2026年7月31日通知は、一般社団法人による医療機関について、
- 開設目的
- 定款
- 事業報告書
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 附属明細書
- 財産目録
- 関係事業者との取引状況
- 監査報告書等
を用いて非営利性を確認する方法を示しています。
新規開設はすでに新基準で確認
2026年7月31日の通知発出後に新たに医療機関を開設する一般社団法人については、開設許可申請時から新しい確認ポイントを踏まえて審査するとされています。
したがって、これから一般社団法人でクリニックを開設する場合には、最初から新基準を前提に、
定款
役員構成
管理医師
MS法人契約
資金計画
を設計する必要があります。
既存クリニックも2027年度から本格的な確認へ
すでに一般社団法人で医療機関を開設している場合についても、2027年度から新しい確認ポイントを踏まえた確認が始まります。
2026年に新設された事業報告書、貸借対照表、損益計算書等の届出制度については、実際の届出が2027年4月1日以降開始されます。
そのため既存の一般社団法人クリニックも、
「開設許可を取ったので昔の契約のままで大丈夫」
ではありません。
MS法人との契約、役員構成、定款、賃料、委託費等を一度点検することをおすすめします。
非営利性を満たさないとどうなる?
新規開設では開設許可が下りない可能性
2026年通知では、診療所開設許可申請時の非営利性確認によって要件を満たさないと判断される場合、医療法第7条第7項に基づき開設許可を与えないことができるとされています。
つまり、
「一般社団法人を登記できた」
ことと、
「診療所を開設できる」
ことは別です。
開設後も改善命令・業務停止等の可能性
開設後についても、毎年度の書類確認や立入検査で非営利性が徹底されていないと判断された場合には、
- 改善措置命令
- 業務停止命令
等の対象となる可能性があります。
さらに命令に違反した場合には、開設許可の取消しや閉鎖命令につながる制度となっています。
非営利性は「開設許可のときだけ整えておけばよい条件」ではありません。
開設後も継続して守る必要がある運営ルールです。
一般社団法人クリニックの非営利性チェックリスト
開設前・運営中に、少なくとも次の項目を確認しておくことをおすすめします。
| 確認項目 | 主なチェックポイント |
|---|---|
| 法人目的 | 地域医療・公衆衛生等の目的が明確か |
| 定款 | 営利追求を目的とする内容がないか |
| 剰余金 | 社員等へ分配する規定・運用がないか |
| 管理医師 | 理事に加えられているか |
| 役員報酬 | 職務・規模に比して適正か |
| MS法人家賃 | 市場相場と比べ妥当か |
| 売上連動賃料 | 収入の一定割合となっていないか |
| 医療機器リース | 価格・期間が合理的か |
| 業務委託費 | 実態・算定根拠があるか |
| 関係会社取引 | 相場より過大ではないか |
| 役員兼務 | 営利法人との利害関係に問題がないか |
| 貸付 | 医療機関の財政を毀損していないか |
| 現預金 | 財政規模に比して過小ではないか |
| 残余財産 | 定款の帰属先が適切か |
| 議決権 | 一社員一議決権となっているか |
一般社団法人クリニックの非営利性に関するFAQ
Q1. 一般社団法人クリニックは利益を出してはいけませんか?
いいえ。
利益を出すこと自体は禁止されていません。
重要なのは、利益を社員・役員・関連会社等へ剰余金として分配しないことです。
Q2. 利益を法人の銀行口座に残しても大丈夫ですか?
可能です。
運転資金や設備投資等のために内部留保することは考えられます。
むしろ法人規模に比して現預金が過小でないかも2026年以降の確認事項です。
Q3. 代表理事に役員報酬を払えますか?
可能です。
一般社団法人法では、理事報酬は定款に定めるか、定款に定めがなければ社員総会の決議によって定めます。
ただし、職務内容に比して過大な報酬は避ける必要があります。
Q4. 非医師の代表理事に報酬を払えますか?
非医師であることだけを理由に報酬を支払えないわけではありません。
実際の法人経営上の職務に対する適正な報酬として設計します。
Q5. 非医師オーナーが利益の30%を受け取ることはできますか?
株主配当のように利益を受け取る仕組みは適切ではありません。
一般社団法人は剰余金分配を目的とする法人ではなく、医療機関についてはさらに第三者への利益移転が厳しく確認されます。
Q6. MS法人へ家賃を払えますか?
可能ですが、金額・契約期間等が適正でなければなりません。
また家賃をクリニック収入の一定割合とする契約は、厚生労働省の確認ポイント上、避ける必要があります。
Q7. MS法人へ業務委託料を払えますか?
業務実態があり、金額が適正であれば検討可能です。
2026年以降は委託費・支払手数料等が法人規模に比して高額でないかも確認されます。
Q8. 売上の30%をMS法人へ支払う契約はできますか?
非常に慎重な検討が必要です。
業務内容と報酬額の合理的な対応関係がなく、単にクリニック利益をMS法人へ移転する仕組みであれば非営利性の問題が生じます。
Q9. MS法人と一般社団法人の代表者が同じでもよいですか?
一律に不可とはいえませんが、2026年通知では利害関係にある営利法人との役員兼務が重要な確認事項となっています。
取引規模や法人運営への影響を含め、管轄保健所等への事前確認が必要です。
Q10. MS法人から一般社団法人へ貸付できますか?
可能性はあります。
ただし資金提供者が医療機関の経営を実質的に支配する構造にならないことが重要です。
Q11. 一般社団法人からMS法人へ貸付できますか?
貸付自体だけで一律に判断するのではなく、法人目的、必要性、金額、財務への影響、関係事業者取引等を総合的に検討する必要があります。
特にクリニック資金の大部分を関連会社へ移すような貸付は慎重な判断が必要です。
Q12. 管理医師は一般社団法人の理事になる必要がありますか?
2026年7月31日の確認ポイントでは、一般社団法人が開設する医療機関の管理者を理事に加えていることが確認項目となっています。
Q13. 一般社団法人の社員に配当できますか?
できません。
一般社団法人は剰余金を社員へ分配することを目的とする法人ではありません。
Q14. 解散時の財産を代表理事へ渡せますか?
医療機関を開設する一般社団法人では、残余財産の帰属先が一定の国・地方公共団体・医療法人その他所定の非営利法人等に限定されることが確認されます。
Q15. 税務上の「非営利型法人」でなければクリニックを開設できませんか?
必ずしもそうではありません。
法人税法上の「非営利型法人」と、医療法上の医療機関の非営利性は別の制度です。
税務上の区分については税理士への確認が必要です。
Q16. すでに開設済みの一般社団法人クリニックにも2026年の新ルールは関係しますか?
はい。
既存の一般社団法人クリニックについても、2027年度から新しい確認ポイントに基づく確認が本格的に行われます。
Q17. 開設後にMS法人との契約額を変更してもよいですか?
変更自体が禁止されているわけではありませんが、なぜ金額を変更したのか、変更後の価格が適正かを説明できるようにしておく必要があります。
特に関連会社への支払額が大幅に増える場合には注意が必要です。
まとめ|一般社団法人クリニックの「非営利性」はお金を稼がないことではない
一般社団法人クリニックにおける非営利性は、
利益を出してはいけない
という意味ではありません。
クリニックが適正な診療を行った結果として利益を計上し、その利益を法人内部に留保したり、設備投資・人材採用・分院開設等へ使用したりすることは考えられます。
一方で問題になるのは、
クリニックで生じた利益を、社員・役員・非医師オーナー・MS法人その他の第三者へ不当に移転すること
です。
特に確認したいのは、
- 役員報酬が過大ではないか
- MS法人への家賃が相場より高くないか
- 売上連動型賃料になっていないか
- 業務委託料に実態があるか
- 委託料が法人規模に比して高額ではないか
- 関連会社への貸付で法人資金が流出していないか
- 営利法人関係者が法人経営を実質的に支配していないか
- 剰余金を配当していないか
- 残余財産の帰属先が適切か
- 一社員一議決権となっているか
です。
2026年7月31日の厚生労働省通知によって、一般社団法人クリニックの非営利性は、これまで以上に**「実際の決算・契約・資金の流れ」を確認する制度**へ変わっています。
これから一般社団法人でクリニックを開設する場合には、法人登記の前に、
社員・理事・代表理事
+
管理医師
+
定款
+
MS法人
+
資金計画
を一体として設計することが重要です。
また、すでに一般社団法人クリニックを運営している場合にも、2027年度からの確認強化を見据えて、現在の定款・役員構成・MS法人契約・賃料・委託料等を一度点検しておくことをおすすめします。
一般社団法人クリニックの非営利性・MS法人取引をご検討の方へ
一般社団法人クリニックでは、
「このMS法人との契約は問題ないのか」
「非医師を代表理事にしてよいのか」
「役員報酬はいくらまでなら大丈夫なのか」
「関連会社への家賃・委託料をどのように設計すればよいのか」
といった点は、法律の条文だけを読んでも判断しにくい部分です。
特に2026年以降は、開設許可時だけでなく、開設後の事業報告書・貸借対照表・損益計算書や関係事業者取引まで確認される制度になっています。
物件契約、MS法人との契約、法人設立を先に進めてから修正すると、開設スケジュールや法人運営へ大きく影響することがあります。
地域によって具体的な行政運用が異なるため、一般社団法人による診療所開設やMS法人取引を検討している場合には、管轄保健所・都道府県等への事前確認を行ったうえで進めることをおすすめします。
