一般社団法人でクリニックを開設する際、
「自由診療だけで開設できますか?」
「一般社団法人でも保険診療できますか?」
「美容皮膚科の自由診療と皮膚科の保険診療を同じクリニックでできますか?」
「同じ患者に保険診療と自由診療を行うと混合診療になりますか?」
「自由診療で診察した後に、保険診療へ切り替えることはできますか?」
「保険医療機関指定を取ったら自由診療ができなくなるのでしょうか?」
といったご相談があります。
結論からいうと、一般社団法人クリニックが自由診療と保険診療の両方を行うこと自体は可能です。
一般社団法人という法人形態だから、
自由診療しかできない
あるいは、
保険診療しかできない
という制度ではありません。
一般社団法人が診療所開設許可を取得し、さらに地方厚生局から保険医療機関指定を受ければ、保険診療を行うことができます。関東信越厚生局も、公的医療保険を適用した診療を行うには、あらかじめ地方厚生局長等による保険医療機関の指定を受ける必要があると案内しています。
一方、同じクリニックの中で自由診療を提供することもできます。
問題になるのは、
「一つの医療機関で保険診療と自由診療を取り扱うこと」ではなく、「一連の診療の中で保険診療と保険外診療を不適切に組み合わせること」
です。
これが、いわゆる混合診療の問題です。
厚生労働省は、保険診療と保険外診療を併用することを原則として認めておらず、保険で認められていない治療を一連の診療へ組み合わせる場合、原則として保険診療部分を含めて全体が自由診療になるという考え方を示しています。
ただし、
評価療養
患者申出療養
選定療養
など、法律上認められた保険外併用療養費制度の対象については、一定のルールのもとで保険診療と保険外負担を併用できます。
一般社団法人クリニックで、
美容医療
再生医療
オンライン診療
予防医療
自由診療内科
歯科自由診療
などを扱う場合、この整理は特に重要です。
この記事では、一般社団法人クリニックの自由診療・保険診療について、保険医療機関指定、混合診療、保険外併用療養費、料金・会計・カルテ、施設基準まで実務に沿って詳しく解説します。
一般社団法人クリニックは自由診療だけでも開設できる?
結論|自由診療専門クリニックとして開設することも可能
一般社団法人で診療所を開設するからといって、必ず保険診療を行わなければならないわけではありません。
例えば、
美容外科
美容皮膚科
再生医療
AGA
一部の予防医療
自由診療オンラインクリニック
など、自由診療を中心とするクリニックを一般社団法人で開設することも考えられます。
この場合、
一般社団法人設立
↓
診療所開設許可
↓
診療所開設
まで行い、保険診療をしないのであれば、必ずしも保険医療機関指定を受ける必要はありません。
ただし、自由診療だから医療法上の規制がなくなるわけではありません。
一般社団法人である以上、
- 非営利性
- 管理医師
- 診療所開設許可
- 医療広告
- 医薬品・医療機器
- 個人情報
- 再生医療であれば再生医療等安全性確保法
などを別途確認する必要があります。
一般社団法人でも保険診療できる?
保険医療機関指定を受ければ可能
一般社団法人で開設した診療所であっても、地方厚生局から保険医療機関指定を受ければ保険診療を行えます。
つまり、
法人形態
と、
保険診療をするかどうか
は別問題です。
一般社団法人だから保険診療ができない、ということではありません。
保健所の開設許可と保険医療機関指定は別
ここは非常に重要です。
一般社団法人クリニックではまず、
保健所等
→診療所開設許可
が必要です。
その後、保険診療を行いたい場合に、
地方厚生局
→保険医療機関指定
を受けます。
保健所から開設許可を受けただけでは、健康保険を使った診療はできません。
地方厚生局も、保険診療を行うためには開設者が保険医療機関指定を受ける必要があると明示しています。
保険医療機関指定を受けても自由診療できる?
できます
例えば、
皮膚科保険診療
+
美容皮膚科自由診療
内科保険診療
+
自由診療の予防医療
歯科保険診療
+
自由診療の審美歯科
などを同じクリニックで提供することはあります。
保険医療機関だから自由診療を一切してはいけないという制度ではありません。
ただし保険医療機関となった以上、保険診療については健康保険法や保険医療機関及び保険医療養担当規則等に従って適切に診療・請求する必要があります。
大阪府も、保険医療機関の指定を受けた医療機関は、健康保険法に定められた療養担当方針に従って診療を行う義務を負うと説明しています。
「自由診療と保険診療の併用」と「混合診療」は同じではない
ここがこの記事で最も重要なポイントです。
例えば一つの美容皮膚科クリニックで、
患者A
→湿疹を保険診療
患者B
→シミの美容レーザーを自由診療
とすること自体が問題なのではありません。
また、一人の患者が別々の疾病・目的について保険診療と自由診療を受けることも考えられます。
問題は、
同じ傷病・一連の治療について、保険診療と保険外診療を組み合わせること
です。
混合診療とは?
保険診療+保険外診療を一連の治療で行うこと
典型的には、
保険適用の診察
+
保険適用外の治療
を同じ一連の診療として実施するケースです。
厚生労働省は、
保険で認められている治療法
+
保険で認められていない治療法
という組み合わせについて、原則として保険診療と保険外診療の併用を禁止し、全体を自由診療として整理する考え方を示しています。
なぜ混合診療が原則禁止なのか
厚生労働省は主に二つの理由を挙げています。
一つは、
患者の負担が不当に拡大するおそれ
です。
本来保険診療で提供できる医療について、保険外費用を追加で請求することが一般化すると、患者負担が大きくなってしまいます。
もう一つは、
安全性・有効性が確認されていない医療が保険診療と一緒に行われるおそれ
です。
混合診療になりやすい典型例
例えば、
保険診療でニキビを診察
↓
同じニキビ治療の一環として保険外の特殊な施術を追加
↓
診察・投薬は保険請求、施術だけ自費請求
といった構造です。
同じ傷病に対する一連の治療として行われているのであれば、混合診療の問題が生じます。
単に、
会計を「保険」と「自費」に分けたから大丈夫
という話ではありません。
診療目的・治療内容そのものから判断する必要があります。
「保険診療部分だけ保険請求」はできないことがある
例えば、
通常の保険診療なら診察・検査・投薬で治療できる患者に対し、
診察=保険
検査=保険
投薬=保険
特殊治療だけ=自由診療
とすればよいのではないか、
という相談があります。
しかし、一連の治療について保険適用外の治療を追加した場合は、原則として保険診療部分を切り出して保険請求することができず、全体を自由診療として整理する必要が生じる可能性があります。
厚生労働省も、保険診療と保険外診療を併用した場合、法令上認められた例外を除き、保険診療部分も含め全額自己負担となる基本的な仕組みを示しています。
同じ日に保険診療と自由診療をしたら必ず混合診療?
「同日かどうか」だけでは判断しない
ここは誤解されやすいところです。
重要なのは、
同じ日かどうかではなく、同一の傷病・一連の診療なのか
という点です。
例えば、
全く別の疾病について行う保険診療
と、
医学的にも目的が異なる美容目的の自由診療
などについて、別個の診療として整理できるケースは考えられます。
ただし、
「診療科を分ければよい」
「カルテを2枚にすればよい」
「会計を別にすればよい」
という形式だけで混合診療を回避できるわけではありません。
実質的に同じ治療目的・傷病でないか
が重要です。
境界事例については、事前に管轄厚生局へ確認することをおすすめします。
美容皮膚科でよくあるケース
例えば、
ケース1|湿疹とシミ治療
患者が、
湿疹
→医学的必要性があり保険診療
シミ
→美容目的の自由診療
を希望する場合です。
傷病・診療目的が明確に別であるなら、それぞれ別の診療として整理できる余地があります。
ただし診療録、説明、請求内容を明確に分けることが重要です。
ケース2|同じニキビに保険治療+自費治療
ニキビに対し、
保険診療による投薬
+
同じニキビ改善目的の自費治療
を一連の治療として行う場合です。
これは混合診療の問題が生じやすいため、安易に、
「薬だけ保険で、施術だけ自費」
と請求しないよう注意してください。
ケース3|保険適用になる疾病を美容目的として全額自費診療
患者との契約・診療目的等によって自由診療となる場面はありますが、保険医療機関には療養担当規則上の義務があります。
保険適用可能な診療を患者・医療機関の都合だけで自由診療にすれば必ず適法、という単純なものではありません。
具体的運用については管轄厚生局への確認が必要です。
「患者が自費でいいと言ったから」は万能ではない
患者から、
「健康保険を使わなくてよいので自費にしてください」
と言われたとしても、それだけで保険医療機関のルールがなくなるわけではありません。
保険医療機関は指定を受けることにより、保険診療について療養担当規則等に従う立場となります。
特に、
本来の保険診療に追加料金を付けるために形式だけ自由診療にする
ような運用は避ける必要があります。
保険外併用療養費制度とは?
「保険診療と保険外診療は一切併用できないのか」
というと、そうではありません。
法律上認められた例外が保険外併用療養費制度です。
厚生労働省はこれを大きく、
評価療養
患者申出療養
選定療養
の3つに分類しています。
評価療養とは?
将来的な保険導入に向けて、評価を行う必要がある医療です。
例えば、
- 先進医療
- 医薬品等の治験
- 保険収載前の承認医薬品等
- 一定の適応外使用
- 一定の医療機器・再生医療等製品
などがあります。
この場合、
保険適用部分
→保険外併用療養費
評価療養部分
→患者が自己負担
という形で、法律上認められた併用ができます。
ただし、一般のクリニックが、
「これは先進的な自費治療だから評価療養です」
と自由に決められる制度ではありません。
対象となる療養・施設等について国の制度上の要件を満たす必要があります。
患者申出療養とは?
患者が未承認薬等の先進的医療を希望する場合に、患者の申出を起点として、安全性・有効性等を確認しながら実施可能性を検討する制度です。
患者申出療養は保険外併用療養費制度の一つであり、無制限に混合診療を認める制度ではありません。
一般的な美容クリニックで、
「患者が希望しているので、自費施術を患者申出療養にしよう」
という制度ではありません。
選定療養とは?
選定療養は、
保険導入を前提としない、患者の選択に基づく一定の療養
です。
2026年現在も、例えば、
- 特別の療養環境
- 予約診療
- 時間外診療
- 一定の大病院の初診・再診
- 制限回数を超える一定の医療行為
- 多焦点眼内レンズ
- 長期収載品
- 一定の歯科材料等
などが法令上定められています。
2026年度にも制度改正あり
2026年度診療報酬改定では、保険外併用療養費や療養の給付と直接関係しないサービスについても告示・通知が改正されています。
したがって、保険外料金を患者から徴収する場合には、最新の診療報酬改定・通知を確認する必要があります。
「自由診療」と「選定療養」は同じではない
これも重要です。
例えば美容レーザー治療のような通常の自由診療と、
法令上定められた選定療養
は同じ制度ではありません。
選定療養では、
保険給付部分
+
特別料金
という形が認められます。
一方、通常の自由診療を一連の保険診療へ追加しても、自動的に選定療養になるわけではありません。
「療養の給付と直接関係ないサービス」も別に考える
保険医療機関で患者からお金を徴収できるものは、自由診療だけではありません。
例えば、
- 一定の診断書
- 診療録開示手数料
- 日常生活上のサービス
- 一定の画像・動画提供
など、療養の給付と直接関係しないサービスについて別途料金を徴収できるケースがあります。
ただし、
「施設管理費」
「診療サポート料」
「保険診療システム料」
など曖昧な名前を付ければ自由に追加料金を徴収できるわけではありません。
厚生労働省は、「お世話料」「施設管理料」「雑費」等の曖昧な名目での徴収は認められないとしています。
保険診療患者から自由に「システム料」を取ってよい?
注意が必要です。
患者から別途費用を徴収できるかは、
診療報酬に含まれている費用なのか
療養の給付と直接関係ないサービスなのか
選定療養なのか
によって異なります。
厚生労働省は、療養の給付と直接関係ないサービス等について、
- 内容と料金を院内に掲示
- 原則ウェブサイトにも掲載
- 患者へ説明
- 同意確認
- 内容が分かる領収証を発行
- 社会的に妥当な料金とする
ことを求めています。
したがって、
「保険患者全員から一律3,000円のシステム管理費」
といった制度を導入する場合には、事前に厚生局へ確認することをおすすめします。
健康診断と保険診療の関係
健康診断は原則として治療目的の療養の給付とは別のものです。
しかし健診の結果、
疾病または疾病の疑いが発見された
場合には、その後必要となる診察・検査が保険診療になるケースがあります。
2026年度の取扱いでも、健診等の結果、疾病またはその疑いがあると診断され、その後治療方針確立等のために必要となる検査について、健診の一環としてあらかじめ予定されていたものではないことが客観的に明らかな場合には保険診療として算定できる旨が示されています。
つまり、
自費健診を受けたら、その後の診療もすべて自費
というわけではありません。
美容医療の自由診療と保険診療をどう分ける?
美容クリニックでは特に重要です。
例えば美容皮膚科で、
保険診療
- 湿疹
- アトピー性皮膚炎
- 一部のニキビ治療
- 感染症
- 医学的治療が必要な皮膚疾患
自由診療
- シミ
- 美容目的のレーザー
- ボトックス
- 美容目的のヒアルロン酸
- 医療脱毛
- 美容点滴
などを行うケースがあります。
この場合、
保険診療と美容診療の境界を院内ルールとして明確にすること
が重要です。
美容クリニックで作っておきたい院内ルール
例えば、
- 保険診療対象疾患
- 自由診療対象メニュー
- 同一傷病で自費施術を希望した場合の取扱い
- 保険から自費へ移行する場合の説明
- 自費料金表
- 同意書
- カルテ記載方法
- 会計処理
を決めておきます。
医師ごとに、
「この先生は保険、この先生は自費」
というバラバラな運用になると、診療報酬請求上のリスクが高くなります。
カルテを保険用・自費用に分ければ混合診療にならない?
いいえ。
形式的にカルテを二つに分けても、実質的に同じ傷病・一連の治療であれば問題は解決しません。
むしろ患者の診療情報が分散し、
- 重複処方
- 既往歴
- アレルギー
- 医療安全
の面で問題になる可能性があります。
基本的には一人の患者について必要な診療情報を一貫して管理し、その中で、
保険診療部分
自由診療部分
が明確に分かるよう記録することが重要です。
会計は明確に分ける
保険診療と自由診療を併設する場合、会計上も区別することをおすすめします。
例えば領収書に、
保険診療一部負担金 ○○円
自費診療 ○○円
などを明確に表示します。
療養の給付と直接関係ないサービス等についても、厚生労働省は他の費用と区別し、内容が分かる領収証を発行するよう求めています。
「診察代一式10,000円」は避ける
保険・自費を併設するクリニックで、
「診察代一式」
「クリニック利用料」
などとまとめると、何について患者から料金を徴収したのか分かりにくくなります。
請求根拠を明確にしてください。
自由診療料金は院内に掲示した方がよい?
はい。
自由診療では患者との料金トラブルを防ぐためにも、
- 初診料
- 再診料
- 検査料
- 施術料
- 薬剤料
- キャンセル料
等を明確にしておくことが重要です。
また、療養の給付と直接関係ないサービスについて別途料金を徴収する場合には、院内の見やすい場所への料金掲示や、原則ウェブサイトへの掲載が求められています。
自由診療のホームページにも注意
自由診療では価格を自由に設定できますが、広告表示まで自由という意味ではありません。
医療広告について、自由診療を紹介する際には、
- 通常必要な治療内容
- 費用
- 治療期間・回数
- 主なリスク・副作用
などについて、患者へ分かりやすく情報提供することが重要です。
厚生労働省も自由診療について、治療内容や費用を明確にし、患者を誤認させない表示を求めています。
再生医療クリニックでは特に混合診療に注意
一般社団法人による再生医療クリニックでは、
保険診療
+
自由診療の再生医療
を組み合わせるケースがあります。
再生医療が自由診療であるからといって、
関連する診察・検査を当然に保険請求できる
とは限りません。
同じ治療計画の中で自由診療の再生医療を行うのであれば、一連の診療全体を自由診療として整理しなければならないケースがあります。
また再生医療については、混合診療とは別に再生医療等安全性確保法への対応も必要です。
オンライン診療でも同じ考え方
オンライン診療だから混合診療ルールが変わるわけではありません。
例えば、
オンライン保険診療
↓
同じ疾患についてオンラインで自費薬処方
というスキームであれば、保険診療と自由診療の関係を慎重に検討する必要があります。
特にオンライン診療クリニックでは、
「診察料は保険、薬は自費」
「診察料は保険、システム利用料を全員から徴収」
などのモデルを検討するケースがあります。
こうした料金設計は、保険診療の療養担当規則、療養の給付と直接関係ないサービス、混合診療の観点を含めて事前確認をおすすめします。
歯科では保険外併用療養費の理解が特に重要
歯科では、
- 金属床総義歯
- 一部の歯科材料等
について選定療養が関係するケースがあります。
一方、
保険治療の一連の補綴治療に自由診療の材料を勝手に組み合わせ、
「保険部分+材料差額」
と請求してよいとは限りません。
歯科は材料選択と混合診療の境界が問題になりやすいため、厚生局の取扱いを確認してください。
保険診療を始めるには保険医療機関指定が必要
自由診療専門で開設していた一般社団法人クリニックが、
「半年後から保険診療も始めたい」
というケースもあります。
この場合には、保険診療開始前に保険医療機関指定を申請します。
2026年8月現在、関東信越厚生局では、保険医療機関の指定は原則として毎月1日付けで行い、申請締切日は各事務所ごとに設定しています。
したがって、
「来週から健康保険を使えるようにしたい」
と突然切り替えられるものではありません。
2026年4月以降は管理者要件にも注意
2026年4月1日から、新たに保険医療機関の管理者となる者について、新しい要件が導入されています。
関東信越厚生局も、管理者変更・新規指定時に保険医療機関の管理者に係る添付書類を求めています。
一般社団法人クリニックで、
自由診療専門
↓
保険診療も開始
とする場合には、現在の管理医師が保険医療機関の管理者要件を満たすかも確認してください。
2026年4月以降|外来医師過多区域の新規開業にも注意
2026年4月以降、都道府県が設定する外来医師過多区域で新たに無床診療所を開設し、保険医療機関指定を受けようとする場合には、医療法上、開設6か月前までの事前届出等が関係する制度が始まっています。
関東信越厚生局は、都道府県の要請・勧告に従わない場合、通常6年である保険医療機関指定について3年以内の期限付き指定となる場合があると案内しています。
これは、
一般社団法人
医療法人
医師個人
という法人形態だけでなく、新規無床診療所の保険指定全体に関わる重要な2026年改正です。
保険医療機関指定を取るべきかどうか
一般社団法人クリニックを開設する際、
自由診療専門にするか
保険診療も行うか
は最初に考えておいた方がよいでしょう。
保険診療を行うメリット
- 患者の自己負担が抑えられる
- 保険適用疾患の患者を幅広く診療できる
- 地域医療機関として利用されやすい
- 慢性疾患等の継続診療を行いやすい
保険診療を行う際の負担
- 保険医療機関指定
- 保険医登録
- 診療報酬ルール
- 施設基準
- レセプト請求
- 指導・監査
- 一部負担金徴収
- 混合診療への注意
などが必要になります。
美容クリニックは保険指定を取るべき?
これはクリニックの事業モデルによります。
例えば、
美容施術100%
なら、必ずしも保険医療機関指定は必要ありません。
一方、
皮膚科疾患の保険診療
+
美容皮膚科
を行うのであれば保険指定を検討します。
ただし、保険診療を行うことで、
どこまでが保険
どこからが自費
という院内ルールを厳格に整える必要があります。
「保険患者を集客して、その後自費施術へ誘導する」
というビジネスモデルだけを先に考えることはおすすめできません。
保険患者に自由診療を強く勧める場合の注意
医師が医学的選択肢を説明することは当然あります。
しかし、
「保険治療では治りません」
「自費治療を受けなければ診察できません」
など、患者に誤解を与えたり、保険診療を不当に制限したりするような説明には注意が必要です。
自由診療は、
患者への十分な説明
+
患者自身の選択
を基本として設計してください。
保険診療・自由診療の院内フロー例
例えば美容皮膚科併設型なら、
受付
患者の主訴を確認
↓
医師診察
疾病・診療目的を医学的に判断
↓
保険診療対象
保険診療として実施
↓
美容目的・保険適用外
自由診療について、
治療内容
料金
リスク
代替治療
を説明
↓
患者同意
同意書等を取得
↓
会計
保険診療と自由診療を明確に区分
という流れを整えておくとよいでしょう。
一般社団法人クリニックで作っておきたい「保険・自費判定マニュアル」
特に複数医師が勤務する場合にはおすすめです。
例えば、
| 項目 | 院内ルール |
|---|---|
| 保険診療対象 | 疾患・医学的必要性に基づく |
| 自由診療 | 美容・予防等の保険外診療 |
| 同一疾患での併用 | 原則混合診療に注意 |
| 保険→自費変更 | 医師判断・患者説明を記録 |
| 自費料金 | 料金表に明記 |
| カルテ | 診療目的・説明内容を記録 |
| 会計 | 保険・自費を区分 |
| 同意書 | 自費診療は必要に応じ取得 |
| 境界事例 | 厚生局へ事前確認 |
こうした内部ルールは、管理医師だけでなく受付・医療事務にも共有します。
レセプトと自費会計の整合性を確認する
例えばカルテに、
「美容目的のレーザー治療を実施」
とある一方で、
同じ日のレセプトで関連疾患について多数の保険診療を請求している
場合には、混合診療との関係を説明できる必要があります。
カルテ、レセプト、自費領収書の内容が矛盾しないようにしてください。
一般社団法人クリニックの自由診療・保険診療でよくある失敗
1. 一般社団法人は保険診療できないと思う
保険医療機関指定を受ければ可能です。
2. 保険医療機関指定を取れば自由診療できないと思う
同じ医療機関で自由診療を提供すること自体が禁止されているわけではありません。
3. 同じ患者へ保険と自費を請求すれば全部混合診療だと思う
患者単位ではなく、傷病・診療目的・一連の治療内容から判断します。
4. 会計を分ければ混合診療にならないと思う
形式ではなく実態で判断します。
5. 同じ病気の保険診療に自費治療を追加する
混合診療となり、全体を自由診療として整理しなければならない可能性があります。
6. 「患者が希望したから」自費分を追加徴収する
患者の同意だけで混合診療ルールを回避できるわけではありません。
7. 保険患者へ一律の「施設管理料」を請求する
厚生労働省は曖昧な「施設管理料」等の徴収を認めていません。
8. 自費料金を受付担当者ごとに変える
料金表、説明、領収書を統一してください。
9. 美容広告だけを重視して医療広告規制を確認しない
自由診療でも医療広告規制は適用されます。
10. 自由診療専門から保険診療へ即日切替えできると思う
保険医療機関指定が必要です。
11. 管理医師の2026年保険医療機関管理者要件を確認していない
新規指定前に確認してください。
12. 保険診療開始後に施設基準を確認する
算定したい診療報酬から逆算して、開設前から施設基準を確認することをおすすめします。
一般社団法人クリニックの自由診療・保険診療に関するFAQ
Q1. 一般社団法人クリニックは自由診療だけでも開設できますか?
可能です。
診療所開設許可を取得したうえで、保険診療をしないのであれば必ずしも保険医療機関指定を受ける必要はありません。
Q2. 一般社団法人でも健康保険を使った診療ができますか?
できます。
地方厚生局から保険医療機関指定を受ける必要があります。
Q3. 保険医療機関になっても美容医療はできますか?
自由診療を行うこと自体は禁止されていません。
ただし保険診療との区分・混合診療に注意する必要があります。
Q4. 同じクリニックで皮膚科保険診療と美容皮膚科をできますか?
可能です。
ただし個々の診療について、どこまでが保険診療でどこからが美容目的の自由診療かを明確にしてください。
Q5. 同じ患者に保険診療と自由診療を行えますか?
患者が同じというだけで直ちに禁止されるわけではありません。
重要なのは、同一傷病・一連の治療に保険診療と保険外診療を組み合わせていないかです。
Q6. 同じ日に保険診療と自由診療を行えますか?
「同日」という理由だけで一律に判断できません。
別の傷病・目的として明確に区別できるか、一連の診療ではないかを確認します。
境界事例は厚生局へ確認してください。
Q7. ニキビの保険治療と自費ピーリングを同時にできますか?
同じニキビという傷病に対する一連の治療として両方を組み合わせるのであれば、混合診療の問題が生じます。
安易に一部だけを保険請求しないよう注意してください。
Q8. 患者が「自費で構わない」と言えば混合診療になりませんか?
患者の同意だけで混合診療規制の例外になるわけではありません。
Q9. 保険外併用療養費なら保険と自費を併用できますか?
法令上対象となる評価療養・患者申出療養・選定療養について、所定の条件のもとで併用できます。
Q10. 美容医療は選定療養ですか?
通常の美容医療が自動的に選定療養になるわけではありません。
選定療養は法令で対象が定められています。
Q11. 保険患者から診断書代を取れますか?
公的保険給付と直接関係しない一定の診断書等については、別途費用を徴収できるものがあります。
Q12. 保険患者から「施設管理料」を取れますか?
厚生労働省は「施設管理料」「お世話料」「雑費」等の曖昧な名目による費用徴収を認めていません。
Q13. 健康診断で異常が見つかった後も自費ですか?
必ずしもそうではありません。
健診後に疾病またはその疑いが判明し、健診としてあらかじめ予定されていない必要な検査等を行う場合、保険診療として扱えるケースがあります。
Q14. 自由診療専門で開業した後、保険診療を追加できますか?
可能です。
ただし保険診療開始前に地方厚生局への保険医療機関指定申請が必要です。
Q15. 保険医療機関指定はいつから有効ですか?
関東信越厚生局では2026年現在、希望がない限り原則毎月1日付けで指定が行われています。
申請締切は各厚生局事務所で異なります。
Q16. 保険指定を取れば施設基準も自動的に取得できますか?
いいえ。
施設基準が必要な診療報酬については別途届出が必要です。
Q17. 再生医療を自由診療で行い、検査だけ保険請求できますか?
同じ再生医療の一連の治療に必要な検査であれば混合診療の問題が生じます。
具体的な診療内容を踏まえて確認してください。
Q18. オンライン診療でも保険と自費を併用できますか?
基本的な混合診療の考え方は対面診療と同じです。
診察料・薬剤料・システム利用料等の設計について、個別に療担規則等を確認する必要があります。
Q19. 自由診療の料金はいくらでも設定できますか?
保険診療のような全国一律の診療報酬ではありませんが、患者への十分な説明、医療広告、消費者保護等のルールに注意する必要があります。
Q20. 保険・自費の線引きは誰に確認すればよいですか?
診療報酬・混合診療に関する具体的な取扱いについては、所在地を管轄する地方厚生局へ事前確認することをおすすめします。
まとめ|一般社団法人クリニックは自由診療と保険診療を両方できる。ただし「一連の治療」を混ぜない
一般社団法人クリニックは、
自由診療専門
として開設することも、
保険医療機関指定を取得して保険診療を行う
こともできます。
さらに、
保険診療+自由診療
を同じクリニックで提供すること自体も可能です。
最も重要なのは、
「同じ院内に保険と自費があるか」ではなく、「一連の治療に保険診療と保険外診療を混ぜていないか」
です。
厚生労働省は、保険診療と保険外診療の併用について原則禁止としており、法令上の例外を除き、保険外診療が一連の治療へ入った場合には保険診療部分を含め全体が自由診療となる考え方を示しています。
一方、
評価療養
患者申出療養
選定療養
については、保険外併用療養費制度として一定の条件のもと保険診療との併用が認められています。
一般社団法人クリニックで特に注意したいのは、
美容皮膚科
再生医療
オンライン診療
歯科
予防医療
など、保険と自費の境界が生じやすい診療です。
実務上は、
① 診療目的を明確にする
② 保険適用の有無を医師が判断する
③ 同一傷病の一連の治療か確認する
④ 自費診療の内容・料金を説明する
⑤ カルテへ判断根拠を記録する
⑥ 保険と自費の会計を明確にする
⑦ 境界事例は厚生局へ確認する
という運用が重要です。
また、一般社団法人クリニックが自由診療専門から保険診療へ参入する場合には、
保険医療機関指定
管理者要件
オンライン資格確認
施設基準
診療報酬請求
まで新たに対応する必要があります。
2026年4月以降は、新規保険医療機関について管理者要件や外来医師過多区域に関する新制度も始まっていますので、保険診療開始直前ではなく、開設計画段階から確認することをおすすめします。
一般社団法人クリニックの自由診療・保険診療をご検討の方へ
一般社団法人クリニックでは、
- 自由診療専門で開設するか
- 保険医療機関指定を取得するか
- 美容と保険診療をどう区分するか
- どこから混合診療になるか
- 保険外併用療養費を利用できるか
- 自費料金をどう表示するか
- カルテ・領収書をどう整理するか
- 施設基準を何から届け出るか
まで、開院前に整理しておくことが重要です。
特に、
「保険皮膚科+美容皮膚科」
「保険内科+自由診療」
「保険診療+再生医療」
「オンライン保険診療+自費処方」
などを予定している場合には、開設後に請求方法を考えるのではなく、事業計画の段階で保険診療・自由診療の線引きを設計しておくことをおすすめします。
地域や具体的な診療内容によって判断が分かれるケースもあるため、混合診療に該当する可能性がある場合には、管轄地方厚生局へ事前確認してから運用を開始することが重要です。
