医療法人を経営している医師・歯科医師の先生から、相談を受けました。医療法人分院開設についてです。
「2院目のクリニックを開設したい」
「医療法人分院開設を進めるには何から始めればいいですか?」
「分院長は理事にしなければいけませんか?」
「定款変更認可にはどのくらい時間がかかりますか?」
「分院の保険医療機関指定はいつ申請すればいいですか?」
というご相談をいただくことがあります。
結論からいうと、医療法人の分院開設は、物件を契約して保健所へ開設届を出せば終わる手続きではありません。
多くのケースでは、
分院計画
↓
管理医師の確保
↓
社員総会等の法人内部手続き
↓
医療法人の定款変更認可
↓
変更登記
↓
診療所開設許可等の保健所手続き
↓
保険医療機関指定申請
↓
施設基準等の届出
↓
分院開院
という複数の行政手続きを、順番を間違えず進める必要があります。
特に重要なのが定款変更認可のスケジュールです。
例えば東京都では、診療所を新規開設する場合、事前に医療法人の定款変更認可を受け、法人登記を済ませておく必要があり、仮申請から認可まで約3か月を要すると案内しています。
大阪府でも定款変更認可申請について、仮申請から本申請を経て認可まで約3か月を要すると案内されています。
つまり、
「3か月後に分院をオープンしたいので、今から申請したい」
では、すでにスケジュール的に厳しい場合があります。
本記事では、医療法人・クリニック関係の行政手続きを専門的に取り扱う行政書士の立場から、2026年最新の制度・公的情報を踏まえて、
- 医療法人の分院とは何か
- 分院開設に定款変更が必要な理由
- 定款変更認可には何か月かかるのか
- 分院長・管理医師はどう決めるのか
- 分院長は理事にする必要があるのか
- 理事定数を変更する必要があるケース
- 分院物件を契約するときの注意点
- 分院開設に必要な資金
- 診療所開設許可・届出
- 保険医療機関指定
- 施設基準
- 開院日から逆算したスケジュール
- 分院開設でよくある失敗
まで詳しく解説します。
医療法人の分院開設について相談したい先生へ
分院開設では、
「物件」「管理医師」「定款変更」「保健所」「厚生局」
を別々に考えないことが非常に重要です。
例えば、
「良いテナントが見つかったので6か月後に開院したい」
と思っていても、
- 医療法人の定款変更認可に約3か月
- 保健所との事前相談
- 内装工事
- 開設許可
- 保険医療機関指定
- 施設基準
などを考えると、決して余裕があるとは限りません。
さらに、
「分院長候補が理事に就任できるか」
「現在の定款上の理事定数で足りるか」
「MS法人から物件を借りても問題ないか」
「理事長所有物件を分院として使用する場合の賃料は適正か」
など、医療法人特有の論点もあります。
分院開設を検討している場合には、物件契約・内装工事を進める前の段階から行政手続き全体を確認することをおすすめします。
医療法人の「分院」とは?
一般的に「分院」と呼ばれていますが、医療法上は、本院とは別に医療法人が新たな病院・診療所を開設することを意味します。
例えば、
現在、
医療法人○○会
○○クリニック
を運営している法人が、
医療法人○○会
△△クリニック
を別の場所に開設するケースです。
医療法人が複数の診療所を開設すること自体は可能です。
ただし、医療法人の定款には通常、
- 開設する診療所の名称
- 所在地
等が記載されています。
そのため、新しい診療所を追加する場合には、通常、定款変更認可申請が必要となります。
医療法人が分院を出すには定款変更が必要?
原則として必要です。
厚生労働省も、医療法人が新しい分院を実際に開設する場合には、その具体的な分院について必要な書類を添付して定款変更手続きを行う考え方を示しています。
医療法人の定款には通常、
本社団の開設する診療所の名称及び開設場所は、次のとおりとする。
といった形で、具体的な医療機関が記載されています。
したがって、2院目を追加するなら、
既存の本院
+
新しい分院
という内容に定款を変更します。
医療法人が新たな診療所を開設する場合には、定款に分院を追加するための定款変更が必要になることがあります。
定款変更認可の時期は、分院開設全体のスケジュールにも影響します。
定款変更認可・届出の違いや必要書類については「医療法人の定款変更完全ガイド」で詳しく解説しています。
「適宜分院を設けることができる」と定款に書けば毎回認可不要?
ここは誤解されやすいところです。
厚生労働省は過去の通知で、
「適宜分院を設けることができる」
という一般的な条項を定款へ加えること自体と、具体的な分院を実際に新設することは別であるとの考え方を示しています。
具体的な病院・診療所を新設する段階では、改めて必要な添付書類を伴う定款変更手続きが必要になるという整理です。
したがって、
「定款に分院を出せると書いてあるから、自由に2院目を出せる」
というわけではありません。
分院開設の全体的な流れ
一般的には、次のような順序で進めます。
STEP1 分院計画を作る
まず、
- 診療科
- 所在地
- 開院予定日
- 管理医師
- 人員
- 設備
- 投資額
- 資金調達
- 収支予算
などを整理します。
STEP2 分院物件の候補を決める
物件を決める際には、
- 医療用途として使用可能か
- 保健所の構造設備基準を満たせるか
- 建築基準法・消防法上問題ないか
- 医療法人名義で賃借できるか
- 定款変更認可まで賃貸条件を維持できるか
などを確認します。
STEP3 管理医師を決める
分院には原則として管理者となる医師・歯科医師が必要です。
管理医師が決まらなければ、分院開設計画そのものが成立しません。
STEP4 社員総会等で分院開設を決議する
分院開設・定款変更について、医療法人内部で必要な決議を行います。
通常は社員総会議事録等を作成します。
STEP5 定款変更認可申請
都道府県へ定款変更認可申請を行います。
ここが分院開設手続きの中心です。
STEP6 定款変更認可
行政庁の審査・補正を経て認可を受けます。
STEP7 変更登記
必要な登記事項について法務局で変更登記を行います。
東京都は、新しい診療所の開設手続きをするには、事前に定款変更認可を受け、法人登記を済ませる必要があると案内しています。
STEP8 保健所で診療所開設手続き
分院を管轄する保健所等で診療所の開設許可等の手続きを進めます。
STEP9 保険医療機関指定申請
保険診療を行う場合は、管轄する地方厚生局・事務所へ保険医療機関指定申請を行います。
STEP10 施設基準等
算定予定の診療報酬に応じて、必要な施設基準等を確認・届出します。
STEP11 分院開院
すべての準備・行政手続きを整えた上で診療を開始します。
分院開設には何か月かかる?
一律ではありませんが、少なくとも数か月単位で考えるべき手続きです。
特に定款変更認可だけで約3か月を要する自治体があります。
東京都は、
定款変更の仮申請から認可書受領まで約3か月
と案内しています。
大阪府も、
仮申請:約2~2.5か月
本申請:約2週間
合計:約3か月
を目安として案内しています。
しかもこれは、
書類に大きな補正がない場合の目安
です。
東京都も、添付書類不足や補正事項が多い場合にはさらに時間がかかる可能性があると明示しています。
分院開院は何か月前から準備すべき?
当事務所としては、少なくとも、
開院希望日の6か月前程度
には行政手続き全体を確認することをおすすめします。
案件によってはさらに早い方が安心です。
例えば、
開院6~8か月前
- 分院計画
- 管理医師候補
- 物件候補
- 資金計画
- 行政手続き確認
開院5~6か月前
- 物件確定
- 保健所事前相談
- 社員総会
- 定款変更資料作成
開院4~5か月前
- 定款変更仮申請
開院1~2か月前
- 認可
- 登記
- 保健所手続き
- 内装完成
開院前
- 保険医療機関指定
- 施設基準
- 各種公費等
というイメージです。
実際の時期は自治体・厚生局の締切に応じて調整します。
分院の管理医師とは?
分院には、その診療所を管理する**管理者(管理医師)**が必要です。
管理医師は単なる「雇われ院長」という肩書ではありません。
医療法上、診療所の管理者として、
- 医療安全
- 従業者の監督
- 医薬品管理
- 診療体制
- 法令遵守
等に重要な責任を負う立場です。
したがって、
「名義だけ借りる」
ということはできません。
分院の管理医師については、医療法人の理事との関係も確認する必要があります。
また、本院・分院の管理医師を兼務できるかどうかは個別の勤務実態等を含めて検討が必要です。
詳しくは「医療法人の理事長・管理医師兼務完全ガイド」をご覧ください。
分院長は理事にしなければならない?
原則として、医療法人が開設する診療所の管理者は理事に加えなければなりません。
厚生労働省の社団医療法人定款例でも、法人が開設する病院・診療所等の管理者は必ず理事に加えなければならないとされています。
したがって、
分院長=管理医師
であれば、原則としてその医師・歯科医師を医療法人の理事に加える必要があります。
これは分院開設で非常に重要なポイントです。
分院長が退職したら理事も辞める?
管理者として理事に加えられている場合、この点も注意が必要です。
厚生労働省の定款例では、管理者として理事になった者について、
管理者の職を退いたときは理事の職を失う
という考え方が示されています。
したがって、
分院長退職
↓
管理者変更
↓
理事変更
が連動する場合があります。
分院長の退職は、単なる従業員の退職だけでは済まないことがあります。
管理医師は非常勤でもいい?
「週3日だけ分院へ勤務する医師を管理医師にしたい」
「別のクリニックにも勤務している医師を分院長にしたい」
という相談があります。
管理者には、その医療機関を実際に管理できる勤務実態が求められます。
兼務の可否や必要な勤務状況については、診療形態、診療日数、他院での勤務状況、地域の保健所運用などを踏まえて個別に判断されます。
したがって、
「週○日なら全国一律でOK」
という考え方は危険です。
管理医師候補の勤務状況は、物件契約や定款変更申請前に管轄行政庁へ確認しておくことをおすすめします。
理事長が本院と分院両方の管理医師になれる?
これも個別判断が必要な論点です。
管理者は、その医療機関の管理業務を適切に遂行できなければなりません。
本院・分院の診療時間、距離、勤務実態等によっては兼務が困難と判断される可能性があります。
したがって、
「理事長だから全院の管理者になれる」
とは考えない方が安全です。
原則として、それぞれの診療所で適切に管理できる医師・歯科医師を確保することを前提に計画します。
分院長を決めるときに確認すること
少なくとも次の事項を確認しましょう。
- 医師・歯科医師免許
- 臨床研修修了登録等
- 現在の勤務先
- 他院で管理医師になっていないか
- 勤務曜日・時間
- 分院への通勤可能性
- 就任予定日
- 医療法人の理事就任可否
- 他法人との役員兼務
- MS法人等との関係
管理医師だけでなく、医療法人の理事として適格かという視点も必要です。
分院長を理事にすると理事定数オーバーになることがある
ここは非常に実務的に重要です。
例えば現在の定款が、
理事3名以上5名以内
となっており、
すでに、
- 理事長
- 理事A
- 理事B
- 理事C
- 理事D
の5名で運営しているとします。
そこに分院長を理事として1名追加すると、
理事6名
となり、定款上の上限を超えます。
その場合、
分院追加だけでなく理事定数の変更
も定款変更に含める必要があります。
東京都も診療所新設等の定款変更手続きに関連して、役員定数変更が必要か確認するよう案内しています。
分院長を理事にするタイミングは?
このタイミングも重要です。
- 定款変更認可前
- 認可日
- 分院開設日
など、案件によって法人内部手続きとの整合を取る必要があります。
分院管理者として就任する人物について、
管理者就任日と理事就任日が矛盾しないように設計する
ことが重要です。
分院開設には社員総会が必要?
通常、必要です。
分院の追加によって定款を変更するため、社員総会で定款変更等について決議します。
例えば、
- 分院開設
- 新診療所の名称
- 新診療所の所在地
- 定款変更
- 事業計画変更
- 予算変更
- 管理者予定者
- 必要に応じ理事定数変更
などを決議します。
東京都も定款変更認可申請様式として、社員総会議事録の記載例等を公開しています。
分院開設後に院長・管理医師が退職する場合には、単なる人事異動ではなく、管理医師変更、必要に応じた理事変更、保健所・地方厚生局への手続きを確認する必要があります。
詳しくは「医療法人の分院長変更完全ガイド」で解説しています。
分院の名称は自由に決められる?
一定の範囲で決められますが、
- 医療広告上の問題
- 同一・類似名称
- 法人定款との整合
- 保健所の運用
などを確認する必要があります。
医療法人名と診療所名は同じである必要はありません。
例えば、
医療法人社団○○会
が、
銀座○○クリニック
を開設することは制度上考えられます。
分院物件を契約するときの注意点
分院計画では、行政手続きより先にテナント契約を進めてしまうことがあります。
しかし、契約前に確認しておきたい点があります。
① 医療用途として使用できるか
賃貸借契約や建物用途を確認します。
② 医療法人名義で契約できるか
分院の開設者は医療法人です。
原則として医療法人が適切に使用権限を有している状態にします。
③ 内装工事後に保健所基準を満たせるか
診察室、待合室、処置室、X線設備等について、予定する診療内容に応じた構造設備を確認します。
④ 定款変更認可が遅れた場合どうなるか
例えば、
2027年4月1日から家賃発生
なのに、
定款変更認可が2027年5月
となれば、開院前に無駄な賃料を支払う期間が生じます。
条件付き賃貸借契約も検討する
案件によっては、
医療法人の定款変更認可を条件とする
などの停止条件・解除条件を契約上検討する方法もあります。
もっとも、契約内容については貸主・仲介会社・弁護士等との調整が必要です。
重要なのは、
「テナント契約をした後で行政手続きを調べる」
のではなく、
「行政スケジュールを確認してから契約条件を決める」
ことです。
開設後に分院を別の場所へ移転する場合には、単なる住所変更ではなく、定款、保健所、保険医療機関指定等への影響を確認する必要があります。
診療所移転については「医療法人の診療所移転完全ガイド」で詳しく解説しています。
理事長個人の物件を分院に使える?
制度上検討可能ですが、注意が必要です。
例えば理事長個人が所有する建物を、医療法人へ賃貸して分院として使用するケースです。
この場合、
- 賃貸借契約
- 賃料
- 周辺相場
- 利益相反
- 社員総会・理事会
- 税務
などを確認します。
特に賃料が周辺相場と比べて著しく高い場合、
医療法人から理事長個人へ利益を移転しているのではないか
という疑義につながる可能性があります。
賃料設定の根拠を説明できるようにすることが重要です。
MS法人から分院物件を借りる場合は?
MS法人からテナント、医療機器、事務サービス等を提供してもらうケースもあります。
MS法人との取引自体が直ちに禁止されているわけではありません。
ただし、
- MS法人の代表者と医療法人役員の関係
- 賃料
- 医療機器リース料
- 業務委託費
- 利益相反
- 医療法人の非営利性
- 実質的支配関係
などを確認する必要があります。
特に前の記事で解説したとおり、自治体によっては医療法人と取引関係にある営利法人の役職員について、医療法人役員への就任を厳しく確認する運用があります。
分院開設にはいくら資金が必要?
分院開設についても、
全国一律で○○万円必要
という制度ではありません。
ただし定款変更認可審査では、新規事業を安定して運営できるかについて、
- 初期投資
- 設備費
- 内装費
- 敷金・保証金
- 人件費
- 家賃
- 医薬品・材料費
- 広告費
- 運転資金
- 借入金
などを踏まえて事業計画・予算を作成します。
分院開設の資金は銀行借入でもいい?
金融機関から融資を受けて分院開設資金を調達すること自体は一般的に検討される方法です。
ただし、
- 融資承認
- 金銭消費貸借契約
- 返済予定
- 借入金額
- 資金使途
などを行政申請上説明できるよう整理する必要があります。
分院開設の定款変更認可申請では、事業計画と資金調達計画が一致していることが重要です。
分院の収支予算は現実的に作る
例えば、
「開院初月から1日100人来院する」
という予算を作っても、合理的な根拠がなければ説明が難しくなります。
分院の予算では、
- 診療科
- 診療日数
- 診療時間
- 1日患者数
- 診療単価
- 保険診療・自由診療割合
- 人件費
- 家賃
- 広告費
などを現実的に設定します。
特に美容クリニックなど自由診療中心の場合には、患者数・客単価の根拠を質問されることがあります。
分院を別の都道府県に出すことはできる?
可能です。
例えば、
東京都に主たる事務所がある医療法人が、神奈川県に分院を出す
という形も制度上考えられます。
ただし、
- 医療法人を所管する行政庁
- 分院所在地の保健所
- 分院所在地を管轄する地方厚生局等
など、複数の行政機関との調整が必要になります。
厚生労働省も、2以上の都道府県区域に病院等を開設する医療法人に関する手続き等を示しています。
分院開設には「開設届」だけでいい?
医療法人による診療所開設は、医師・歯科医師個人が自己名義で診療所を開設するケースとは手続きが異なります。
例えば東京都の案内でも、医師・歯科医師が個人名義で診療所を開設する場合は医療法第8条に基づく開設届の対象とされています。
これに対し、医療法人など非医師・非歯科医師個人以外の者が診療所を開設する場合には、原則として開設許可が必要となります。
具体的な申請順序、立入検査の有無、必要書類等は所在地の保健所へ事前確認してください。
分院の保健所手続きでは何を確認される?
一般的には、
- 開設者
- 管理者
- 診療科
- 診療時間
- 医師・看護師等の従事者
- 平面図
- 各室の用途
- 医療機器
- X線設備
- 医薬品保管
- 廃棄物
- 診療所名称
- 広告・掲示
などを確認します。
内装完成後に初めて保健所へ相談すると、
「この構造では認められません」
となるリスクがあります。
必ず設計段階で事前相談することをおすすめします。
分院開設と保険医療機関指定
保険診療を行う場合、分院についても保険医療機関の指定を受ける必要があります。
医療法人本院がすでに保険医療機関であっても、
「法人として一度指定を受けているから分院も自動的に保険医療機関になる」
わけではありません。
新しい分院について、管轄する地方厚生局等への指定申請が必要です。
関東信越厚生局は2026年3月時点の案内で、保険医療機関の指定申請手続き・必要添付書類等を公開しています。
保険医療機関指定には締切がある
ここが非常に重要です。
地方厚生局では、新規指定に関する申請締切や指定日が設定されています。
したがって、
保健所の開設許可が出たから、翌日から保険診療開始
とは限りません。
開院予定日から逆算し、
定款変更
↓
保健所
↓
厚生局
のスケジュールを一体で組む必要があります。
指定が間に合わないとどうなる?
保険医療機関指定前に保険診療を行うことはできません。
したがって、
「4月1日開院」と広告しているのに、
保険医療機関指定が5月1日になれば、
4月中の診療体制について重大な問題が生じます。
分院開設では、
開院日=テナントが完成する日
ではなく、
行政手続き・保険指定まで完了して診療可能になる日
として設定することが重要です。
遡及指定は使える?
一定の場合に保険医療機関指定の遡及が認められる制度があります。
関東信越厚生局は、例えば、
- 開設者変更
- 個人から法人への組織変更
- 病院と診療所間の組織変更
- 至近距離への移転
などで、患者が引き続き診療を受ける一定の場合を遡及対象として案内しています。
しかし、まったく新しい分院の開設について当然に遡及指定が使えるわけではありません。
新規分院は原則として、通常の新規指定スケジュールを前提に計画するのが安全です。
分院開設後に施設基準の届出も必要?
算定したい診療報酬によっては必要です。
例えば、
- 医療DX関係
- 在宅療養関係
- 外来診療関係
- 手術・検査設備
- 歯科施設基準
など、診療内容によってさまざまな届出があります。
本院で届出済みだからといって、
分院にも自動的に適用されるとは限りません。
分院ごとに必要な届出を確認してください。
オンライン資格確認も忘れない
保険医療機関として開設する場合、オンライン資格確認等についても準備が必要です。
関東信越厚生局も、新規指定を受けようとする医療機関のオンライン資格確認に関する手続きを案内しています。
システム会社・電子カルテ会社との調整にも時間がかかるため、開院直前ではなく早めに進めることが重要です。
分院開設時に本院の定款も見直す
分院開設は、定款全体を確認する良いタイミングです。
例えば、
- 理事定数
- 主たる事務所
- 診療所名称
- 所在地
- 事業内容
- 公告方法
などが現在の法人実態と一致しているか確認します。
長期間運営している医療法人では、過去の変更が定款へ適切に反映されているか確認が必要なケースもあります。
分院開設でよくある失敗
よくある失敗① テナント契約を先にしてしまう
最も多い失敗の一つです。
例えば、
「4月1日から家賃200万円」
で契約した後に、
「定款変更認可には3か月以上かかります」
と判明するケースです。
毎月高額な空家賃が発生します。
よくある失敗② 管理医師が決まっていない
「求人中ですが、そのうち決まると思います」
という状態で分院計画を進めるのは危険です。
管理者予定者は定款変更や保健所申請でも重要な存在です。
よくある失敗③ 分院長を理事にすることを忘れる
分院管理者は原則として理事に加える必要があります。
分院長の人事だけ決め、医療法人の理事変更を忘れないよう注意してください。
よくある失敗④ 理事定数を確認していない
分院長を理事へ追加した結果、
定款上の上限人数を超えてしまう
ということがあります。
よくある失敗⑤ 保険医療機関指定の締切を確認していない
定款変更・保健所手続きばかりに意識が向き、厚生局の申請期限を忘れるケースです。
よくある失敗⑥ 内装完成後に保健所へ相談する
設計変更が必要になれば、
- 工事費増加
- 開院延期
- 家賃増加
につながります。
設計段階で相談してください。
よくある失敗⑦ 分院収支予算が楽観的すぎる
行政審査だけでなく、実際の法人経営にも影響します。
患者数・単価・人件費・広告費等を現実的に設定してください。
よくある失敗⑧ MS法人との契約を整理していない
物件、設備、広告、事務業務等をMS法人へ委託する場合には、契約内容・金額・人的関係を整理します。
よくある失敗⑨ 開院日を先に広告してしまう
広告会社・求人媒体・ホームページ制作会社が先行し、
「○月1日開院」
と公表してから行政スケジュールが間に合わないことに気づくケースがあります。
開院日確定は、行政スケジュールを確認してから行うのが安全です。
よくある失敗⑩ 行政書士への相談が遅い
「定款変更書類だけ作ってください」
と相談を受けた時点で、
- 物件契約済み
- 内装工事中
- 管理医師未定
- 理事定数不足
- 開院広告済み
となっていることがあります。
分院開設では、申請書作成より前の設計段階が非常に重要です。
美容クリニックの分院開設で注意すること
美容クリニックは分院展開の多い分野ですが、特有の注意点があります。
例えば、
- 高額医療機器
- 自由診療中心の収支予算
- 広告費
- MS法人との取引
- 院長報酬
- 複数法人間の人員
- 管理医師の勤務実態
などです。
特に、
実質的なオーナーが営利法人側にいて、医療法人・管理医師が名目的な存在になっていないか
という点は慎重に設計する必要があります。
歯科医院の分院開設で注意すること
歯科医療法人でも基本的な流れは同じです。
ただし、
- 歯科ユニット
- X線設備
- CT
- 技工関係
- 歯科医師・歯科衛生士配置
- 施設基準
など、歯科特有の設備・届出があります。
分院長となる管理歯科医師の理事就任も忘れないようにしてください。
分院を閉院するときも定款変更が必要?
分院を廃止する場合も、定款に記載されている診療所を削除する必要があるため、定款変更手続きが必要となることがあります。
さらに、
- 診療所廃止
- 保険医療機関廃止
- 施設基準
- 理事変更
- 登記
などを整理します。
分院設置だけでなく、分院廃止も医療法人手続きの一つです。
分院を移転するときは?
分院の所在地が定款に記載されているため、移転についても定款変更認可が必要になることがあります。
東京都も診療所の新規開設や移転について、事前の定款変更認可・法人登記が必要であると案内しています。
したがって、
同じ区内の近距離移転だから簡単
とは限りません。
医療法人の分院開設FAQ
Q1. 医療法人は何院まで分院を出せますか?
全国一律に「○院まで」という単純な上限が設定されている制度ではありません。
ただし、各診療所を適切に運営できる管理体制、資金、人員等が必要です。
Q2. 分院を出すには定款変更が必要ですか?
通常は必要です。
新たに開設する診療所の名称・所在地等を定款へ追加し、都道府県知事の定款変更認可を受けます。
Q3. 定款変更認可には何か月かかりますか?
自治体によります。
東京都・大阪府では約3か月を目安として案内しています。
補正内容によってはさらに時間を要します。
Q4. 分院長は理事にする必要がありますか?
分院長が管理者であれば、原則として医療法人の理事に加える必要があります。
Q5. 分院長は社員にもする必要がありますか?
管理者を理事に加える規定と、社員になることは別の問題です。
理事だから必ず社員にしなければならないわけではありません。
Q6. 分院長が退職したら理事も退任しますか?
管理者として理事に就任している場合、管理者の職を退いたときに理事の職も失うという定款例の規定があります。
Q7. 理事長が本院と分院の管理医師を兼任できますか?
診療時間、勤務実態、距離等によって個別判断が必要です。
必ず管轄行政庁へ確認してください。
Q8. 分院長は非常勤医師でもいいですか?
管理者として診療所を適切に管理できる勤務実態が必要です。
一律に週○日なら可という全国共通基準だけで判断せず、個別に確認することをおすすめします。
Q9. 分院を別の都道府県に出せますか?
制度上可能です。
ただし医療法人所管庁、分院所在地の保健所、地方厚生局等との調整が必要です。
Q10. 本院が保険医療機関なら分院も自動的に保険医療機関になりますか?
なりません。
分院について新たに保険医療機関指定を受ける必要があります。
Q11. 分院の保険医療機関指定を遡及できますか?
新規分院について当然に遡及できるわけではありません。
地方厚生局が示す遡及指定の対象ケースは限定されています。
Q12. 分院開設に診療所開設許可は必要ですか?
医療法人による診療所開設では、原則として保健所等で開設許可手続きが必要となります。
具体的な手続きは所在地を管轄する保健所へ確認してください。
Q13. 内装工事をしてから保健所に相談してもいいですか?
おすすめしません。
構造設備基準等に適合しない場合、工事のやり直しが必要になる可能性があります。
設計段階で事前相談してください。
Q14. 分院物件を理事長個人から借りても大丈夫ですか?
制度上検討可能ですが、適正賃料、利益相反、法人内部手続き、税務等を確認する必要があります。
Q15. MS法人から物件を借りてもいいですか?
一律禁止ではありませんが、取引条件・役員関係・実質的支配関係等を確認する必要があります。
Q16. 分院の開設資金は銀行融資でもいいですか?
融資を利用することは検討可能です。
ただし、定款変更認可申請時の事業計画・予算・資金調達計画との整合性が重要です。
Q17. 分院追加で理事定数を変更する必要がありますか?
分院長を理事へ追加した結果、現在の定款上の理事上限を超える場合には、理事定数の変更も検討します。
Q18. 分院の名称は本院と同じにする必要がありますか?
必ずしも同じである必要はありません。
ただし医療法上の名称・広告規制、保健所確認等が必要です。
Q19. 自由診療だけの美容クリニックでも同じですか?
医療法人による診療所である以上、基本的な医療法人・保健所手続きは必要です。
保険医療機関指定は、保険診療を行わないのであれば不要です。
Q20. 開院日を先に決めてもいいですか?
行政手続き全体を確認してから決定することをおすすめします。
定款変更認可・保健所・厚生局の期限を踏まえて開院日を設定してください。
医療法人の分院開設を検討している先生へ
医療法人の分院開設で最も大切なのは、
「定款変更認可申請だけを考えない」
ことです。
分院を実際に開院するためには、
医療法人
+
管理医師
+
物件
+
保健所
+
地方厚生局
+
施設基準
を一つのプロジェクトとして管理する必要があります。
例えば、
① 分院の事業計画
↓
② 管理医師確保
↓
③ 物件確認
↓
④ 社員総会
↓
⑤ 定款変更認可
↓
⑥ 理事追加
↓
⑦ 登記
↓
⑧ 診療所開設許可等
↓
⑨ 保険医療機関指定
↓
⑩ 施設基準
↓
⑪ 開院
という流れです。
どこか一つが遅れるだけでも、開院予定日が後ろ倒しになる可能性があります。
特に、
- テナント家賃が高額
- 内装費が高額
- 医療機器リースが始まる
- スタッフをすでに採用している
- 広告で開院日を告知している
という状態で開院延期になると、経営への影響も大きくなります。
当事務所では、医療法人・クリニック関係の行政手続きを専門分野として、
分院開設の事前相談
→ 医療法人定款変更認可
→ 社員・役員関係手続き
→ 診療所開設許可等
→ 保険医療機関指定
→ 施設基準
まで一連の手続きをサポートしています。
「2院目を出したい」
「いつから準備すれば間に合う?」
「分院長を理事にする方法が分からない」
「別の都道府県に分院を出したい」
「美容クリニックを多店舗展開したい」
「歯科医院を2院、3院と増やしたい」
という医療法人の先生は、物件契約前の段階からご相談ください。
【医療法人の分院開設について相談する】
まとめ|分院開設は「開院日から逆算」して進める
最後に、医療法人の分院開設で重要なポイントを整理します。
- 医療法人は複数の診療所を開設できる
- 新しい分院を追加する場合は通常、定款変更認可が必要
- 「適宜分院を設置できる」と定款に書くだけでは具体的分院の認可手続きは省略できない
- 東京都・大阪府では定款変更認可に約3か月が目安
- 補正が多いと3か月以上かかる可能性がある
- 分院には管理医師が必要
- 分院の管理者は原則として医療法人の理事に加える
- 分院長退職時は理事変更も確認する
- 分院長追加前に定款上の理事定数を確認する
- 分院開設は社員総会等で適切に決議する
- 物件契約前に保健所・行政手続きを確認する
- 設計段階から保健所へ相談する
- 分院開設資金と運転資金を事前に確保する
- 別都道府県への分院展開も可能
- 医療法人による診療所開設には保健所の許可等が必要
- 本院が保険医療機関でも分院は別途指定が必要
- 保険医療機関指定の締切から逆算する
- 新規分院では遡及指定を当然の前提にしない
- 必要な施設基準は分院ごとに確認する
- 開院予定日はすべての行政スケジュールを確認してから確定する
医療法人の分院開設では、
「どこに出店するか」
と同じくらい、
「いつ・どの順番で行政手続きを進めるか」
が重要です。
物件、管理医師、定款変更、保健所、厚生局の手続きを開院日から逆算し、余裕を持ったスケジュールで進めることが、分院開設を成功させるポイントです。
参考となる公的情報・一次情報
本記事は、医療法、厚生労働省の医療法人関係通知・社団医療法人定款例、東京都・大阪府等が公表している医療法人定款変更関係資料、地方厚生局が公表する保険医療機関指定関係資料を基に、2026年8月時点の制度・運用として作成しています。
厚生労働省は、医療法人が分院を設置する場合の定款変更について、抽象的な分院設置規定と、実際に具体的な診療所を追加する際の手続きを区別しています。また社団医療法人の定款例では、法人が開設する診療所等の管理者を理事に加える旨が示されています。
東京都は、診療所の新規開設・移転を行う際、事前に医療法人の定款変更認可を受けて法人登記を済ませる必要があり、仮申請から認可書受領まで約3か月を要すると案内しています。
大阪府も、定款変更認可申請について仮申請から本申請を含め約3か月を標準的な期間として案内しています。
保険診療を行う場合には、分院について地方厚生局等への保険医療機関指定申請が必要です。地方厚生局では指定申請の手続き・添付書類・締切等を公表しているため、必ず開院予定日から逆算して最新スケジュールを確認してください。
※医療法人の定款変更、診療所開設許可、管理者、保険医療機関指定等の具体的な取扱いは、都道府県・保健所・地方厚生局・個別案件によって異なる場合があります。実際の分院開設に際しては、各管轄行政庁の最新情報をご確認ください。
