「医療法人の出資持分を放棄するとどうなりますか?」
「父が持っている医療法人の持分を放棄すれば、相続税対策になりますか?」
「持分あり医療法人を持分なし医療法人へ変更したいのですが、贈与税がかかるのでしょうか?」
「認定医療法人制度を使えば贈与税はかかりませんか?」
「出資者3人のうち1人だけ持分を放棄するとどうなりますか?」
「医療法人M&Aの前に持分を放棄した方がいいでしょうか?」
持分あり医療法人の事業承継・相続対策で非常に重要になるのが、**「出資持分の放棄」**です。
結論からいうと、出資持分を放棄することによって、持分あり医療法人を最終的に持分の定めのない医療法人(持分なし医療法人)へ移行することは可能です。
しかし、
「持分を放棄すれば税金もなくなって簡単に持分なしへ移行できる」
という制度ではありません。
むしろ持分放棄では、
- 持分を放棄した本人
- 他の出資者
- 医療法人そのもの
それぞれについて課税関係を確認する必要があります。
特に注意したいのが、
一部の出資者だけが持分を放棄する場合
です。
例えば、
A医師:持分50%
B:持分30%
C:持分20%
という医療法人で、
A医師だけが持分50%を放棄した場合、
A医師が持っていた経済的価値が残りの出資者B・Cへ移転したと評価され、B・C側に贈与税が生じる可能性があります。
国税庁は、認定医療法人について、ある出資者が持分の全部または一部を放棄したことで、他の持分保有者に経済的利益が生じて贈与税が課される場合を前提とした贈与税の納税猶予制度を設けています。一定の要件を満たして認定移行計画の期限までにすべての持分を放棄した場合には、その猶予税額の全部または一部が免除される仕組みです。
さらに、持分放棄によって医療法人そのものへ経済的利益が帰属する場合には、一定の場合、相続税法第66条第4項による医療法人へのみなし贈与税が問題になります。
国税庁は、持分の定めのない法人へ財産の贈与等があった場合に、その贈与によって関係者の相続税・贈与税負担が不当に減少すると認められる場合、その法人を個人とみなして贈与税等を課する制度を示しています。
この税務上の問題を一定の要件の下で解決しながら、持分あり医療法人から持分なし医療法人への移行を促進する制度が、
認定医療法人制度
です。
厚生労働省の令和8年度税制改正資料では、認定医療法人制度に関連する相続税・贈与税の納税猶予等の特例について2029年12月31日まで延長されています。厚生労働省の現在の申請案内でも、認定医療法人制度を利用する場合は同日までに移行計画の認定を受ける必要があるとされています。
本記事では、医療法人・クリニック関係の行政手続きを専門的に取り扱う行政書士の立場から、
- 医療法人の出資持分とは何か
- 持分放棄とは何か
- 持分放棄と持分譲渡の違い
- 一部の出資者だけ放棄するとどうなるか
- 持分放棄と贈与税
- 医療法人へのみなし贈与税
- 持分なし医療法人への移行
- 認定医療法人制度
- 相続税・贈与税の納税猶予
- 持分なし移行後に何が変わるか
- M&A前に持分放棄すべきか
- 親族承継との関係
- よくある失敗
まで、2026年最新制度を踏まえて詳しく解説します。
持分あり医療法人の持分放棄について相談したい先生へ
持分放棄で最も危険なのは、
「もう持分はいらないので放棄します」
と、税務確認をせず先に書面を作成してしまうことです。
例えば出資持分評価額が、
2億円
ある医療法人で、持分50%を持つ父親がその持分を放棄する場合、
単純計算でも非常に大きな経済的価値が移動することになります。
持分放棄前に、
現在の持分評価
↓
誰が持分を持っているか
↓
誰が放棄するか
↓
放棄後誰に経済的価値が帰属するか
↓
認定医療法人制度を使うか
まで確認することが重要です。
そもそも「持分あり医療法人」とは?
持分あり医療法人とは、一般に、定款上、
- 社員退社時の出資持分払戻請求権
- 医療法人解散時の残余財産分配請求権
などの財産的権利を出資者が有する医療法人をいいます。
2007年4月1日以降、新たに持分あり医療法人を設立することはできなくなっています。
厚生労働省の2026年度税制改正資料によれば、平成19年度以降は持分あり医療法人の新規設立ができなくなり、既存の持分あり医療法人について持分なしへの移行が進められています。2024年度末時点でも、医療法人約5.9万法人のうち約3.6万法人、約61%がなお持分あり医療法人とされています。
出資持分とは?
出資持分は、持分あり医療法人の出資者が有する財産的権利です。
その価値は、
最初に出資した金額
と同じとは限りません。
例えば設立時に100万円しか出資していなくても、その後30年間にわたり利益が法人内部へ蓄積されれば、持分評価が数千万円、数億円になる可能性があります。
したがって、
「100万円出したから100万円の権利」
ではありません。
持分放棄とは?
持分放棄とは、出資者が自分の持っている出資持分について、
将来の払戻請求権・残余財産分配請求権などを放棄すること
です。
例えば、
A医師が医療法人の持分100%を有していて、
その持分をすべて放棄し、
定款も持分なしの内容へ変更すれば、
最終的に持分なし医療法人へ移行することを検討できます。
持分放棄と持分譲渡は違う
非常に重要なので比較します。
| 項目 | 持分放棄 | 持分譲渡 |
|---|---|---|
| 権利者 | 権利を消滅させる | 他者へ移す |
| 対価 | 原則なし | 通常は売買代金あり |
| 持分 | 減少・消滅 | 新しい所有者へ移転 |
| M&A | 持分なし移行等 | 持分ありのまま承継 |
| 税務 | 贈与税等に注意 | 譲渡所得等に注意 |
つまり、
放棄=売却
ではありません。
持分を放棄するとお金はもらえる?
通常、「放棄」そのものは対価を受け取らず権利を手放す行為です。
例えば、
持分評価1億円
を持っている人が、
「この1億円相当の権利を放棄する」
ということになります。
そのため、放棄された経済的価値がどこへ帰属するかが税務上非常に重要になります。
出資者全員が一斉に持分を放棄すればいい?
最終的に全持分を消滅させることが持分なし移行の重要な要素になります。
しかし、
誰が、いつ、どの順番で放棄するか
によって課税関係が変わる可能性があります。
特に複数の出資者がいる場合には注意してください。
1人だけ持分を放棄するとどうなる?
例えば、
A:50%
B:30%
C:20%
の持分を持つ医療法人で、
Aだけが50%を放棄するとします。
するとB・Cの相対的な経済的価値が大きくなる可能性があります。
税法上、このような場合に、
AからB・Cへ経済的利益が移転した
と評価され、B・Cに贈与税が課される可能性があります。
国税庁はまさにこのケースを想定し、認定医療法人で持分の全部または一部を放棄した結果、他の持分保有者に贈与税が生じる場合の納税猶予制度を設けています。
なぜ贈与税が発生するの?
税務上は、
現金を直接渡したか
だけでなく、
経済的利益を与えたか
も問題になります。
例えば、
Aが1億円相当の持分を放棄した結果、
Bの持分価値が5,000万円増えた、
と評価される場合、
Bはその経済的利益をAから受けたと考えられる可能性があります。
持分放棄すると本人に譲渡所得税はかかる?
一般的な持分放棄については、単純な有償譲渡とは性質が異なります。
国税庁は、持分なし医療法人への移行に伴う個人出資者の持分放棄について、株式の消却と同様に譲渡性が認められないことから、通常の意味での譲渡所得課税は生じないとの考え方を示しています。
ただし、個別のスキーム、対価の有無、他の取引との組合せ等によって税務判断は異なる可能性があるため、必ず税理士へ確認してください。
持分放棄すると医療法人にも贈与税がかかる?
ここが非常に重要です。
一定の場合には、医療法人そのものに贈与税が課される問題があります。
一般に法人に「贈与税」というと違和感がありますが、相続税法第66条第4項では、持分の定めのない法人への財産移転によって関係者の相続税・贈与税負担が不当に減少すると認められる場合、その法人を個人とみなして課税する制度があります。
国税庁も、持分の定めのない法人への贈与等によって親族等の相続税・贈与税負担が不当に減少する場合には、法人を個人とみなして贈与税等を課す仕組みを説明しています。
「医療法人へのみなし贈与税」とは?
例えば、
A医師が持分1億円を放棄し、
その1億円相当の経済価値が最終的に持分なし医療法人内部へ残ったとします。
その結果、
A医師やその親族が法人を私的に支配し続け、事実上その財産を利用できるなら、
相続税を払わず法人へ財産を移しただけではないか
という問題が生じます。
これを防止するための制度が相続税法第66条第4項です。
国税庁は、法人の社員・役員等や財産提供者・その親族との関係、法人が私的に支配されていないかなどを踏まえて判断する考え方を示しています。
では持分放棄は危険なの?
税務設計なしで行えば大きなリスクがあります。
しかし、国は持分あり医療法人を持分なしへ移行させる政策を進めています。
そこで一定の要件を満たした医療法人について、税負担を猶予・免除しながら持分なしへ移行できるよう設けられているのが、
認定医療法人制度
です。
持分放棄は、それだけで親族承継が完了する手続きではありません。
後継者への社員・理事・理事長等の承継と、出資持分という財産上の権利の整理を分けて考える必要があります。
医療法人全体を親から子へ承継する方法については「医療法人の親族承継完全ガイド」で詳しく解説しています。
認定医療法人制度とは?
認定医療法人制度とは、持分あり医療法人が、
持分なし医療法人へ移行する計画
を作成し、その計画について厚生労働大臣の認定を受ける制度です。
厚生労働省の2026年度税制改正資料では、この制度を利用して持分なしへ移行した場合の、
- 相続税納税猶予
- 出資者間の贈与税納税猶予
- 医療法人へのみなし贈与税の非課税措置
が示されています。
認定医療法人制度は2026年現在も利用できる?
利用可能です。
さらに重要な点として、令和8年度税制改正により関連する税制措置の期限が延長されました。
厚生労働省は現在、
認定医療法人制度の期限は2029年12月31日まで
と案内しています。
利用する場合には、同日までに移行計画の認定を受ける必要があります。
以前は2026年12月31日までではなかった?
はい。
従前の制度では2026年12月31日までとされていました。
国税庁の一部タックスアンサーには2026年12月31日までという旧期限が残っているページもありますが、厚生労働省の2026年度税制改正資料および現在の認定申請ページでは、2029年12月31日までの延長が明示されています。
2026年現在の記事では、最新制度として2029年12月31日を前提に確認する必要があります。
認定後は何年以内に持分なしへ移行する?
厚生労働省の2026年度税制改正資料では、
認定を受けた移行計画に基づき5年以内に持分なし医療法人へ移行
する仕組みが示されています。
したがって、
認定を受けた瞬間に持分がなくなる
わけではありません。
認定後、計画に従って持分放棄等を進めます。
認定医療法人のメリット① 相続税の納税猶予
持分を持っている出資者が死亡した場合、その持分は相続税の対象になる可能性があります。
認定医療法人で一定の要件を満たす場合、
相続した医療法人持分に対応する相続税について納税猶予
を受けることができます。
その後、認定移行計画の期限までに持分を放棄するなど要件を満たせば、猶予された税額の全部または一部が免除される仕組みがあります。国税庁もこの制度を案内しています。
相続がすでに発生している場合は急ぐ必要がある
厚生労働省は、既に相続が発生し納税猶予等を希望する場合には、
相続税申告期限=相続発生から10か月以内
までに認定を受ける必要があると案内しています。
つまり、
「相続税申告の直前に認定医療法人を検討しよう」
では間に合わない可能性があります。
メリット② 出資者間の贈与税納税猶予
複数の出資者がいる医療法人では、一人の持分放棄によって他の出資者に贈与税が生じることがあります。
認定医療法人では一定の要件の下で、その贈与税について納税猶予を受けることができます。
そして認定移行計画の期限までにすべての持分を放棄した場合などには、猶予税額の全部または一部について免除を受けられる制度があります。
メリット③ 医療法人へのみなし贈与税
認定医療法人制度の非常に大きなメリットです。
厚生労働省の2026年度税制改正資料では、認定医療法人について、
出資者の持分放棄に伴って医療法人へ課されるみなし贈与税の非課税措置
が制度上のメリットとして明示されています。
これが、通常の持分放棄と認定医療法人制度を利用した移行の大きな違いの一つです。
認定医療法人なら何をしても非課税?
いいえ。
認定を受ければ無条件で税金がなくなるわけではありません。
認定移行計画に従って適切に持分なしへ移行し、制度上の要件を満たし続ける必要があります。
認定後にも報告書類等が必要であり、厚生労働省は認定後の各種報告手続きを案内しています。
持分なし医療法人への移行を検討する場合には、認定医療法人制度を利用できるかどうかも重要な検討事項になります。
制度には要件や手続きがあるため、単純に「持分を放棄すればよい」と考えず、移行全体のスケジュールを確認する必要があります。
認定医療法人制度の要件・手続きについては「認定医療法人制度完全ガイド」で詳しく解説しています。
持分なし医療法人になると何が変わる?
最も大きいのは、
出資者個人が法人純資産に対して持分払戻しを請求する仕組みがなくなる
ことです。
つまり、法人に利益が蓄積して純資産が10億円になっても、
「自分は持分100%だから10億円を相続する」
という財産権は存在しなくなります。
持分なしになれば社員の議決権もなくなる?
なくなりません。
ここは非常に重要です。
持分=財産権
と、
社員=ガバナンス
は別です。
持分なし医療法人へ移行しても、
- 社員
- 社員総会
- 理事
- 理事長
という法人機関は存在します。
つまり、
持分をなくす=経営権をなくす
ではありません。
理事長はそのまま続けられる?
持分放棄だけを理由に理事長を辞任しなければならない制度ではありません。
例えば、
A医師:
持分100%
社員
理事長
から、
持分を放棄して、
A医師:
持分0
社員
理事長
という構成へ移行することは制度上検討できます。
ただし認定医療法人制度の要件との関係は個別に確認してください。
持分放棄=医療法人を国に渡すこと?
違います。
持分なし医療法人になっても、
医療法人の運営は社員総会・理事会・理事長等によって行われます。
単に、
個人に帰属する出資持分という財産権をなくす
ということです。
出資持分を放棄する前には、その持分にどの程度の経済的価値があるのかを把握することが重要です。
設立時の出資額が少額でも、法人に利益が蓄積している場合には持分評価額が高額になっている可能性があります。
出資持分の評価については「持分あり医療法人の出資持分評価完全ガイド」で詳しく解説しています。
解散時の残余財産はどうなる?
持分なし医療法人では、解散時の残余財産について個人出資者へ分配する仕組みではなくなります。
これが持分あり医療法人との大きな違いです。
持分なし移行の基本的な流れ
案件によりますが、概念的には、
STEP1 現行定款確認
↓
STEP2 出資者・持分割合確認
↓
STEP3 持分評価
↓
STEP4 税務シミュレーション
↓
STEP5 認定医療法人制度を利用するか判断
↓
STEP6 移行計画作成・認定申請
↓
STEP7 厚生労働大臣認定
↓
STEP8 持分放棄等
↓
STEP9 持分なし定款への変更
↓
STEP10 持分なし医療法人へ移行
↓
STEP11 必要な税務手続き・報告
という形になります。
定款変更も必要?
必要です。
持分あり医療法人と持分なし医療法人では、例えば、
- 退社時の持分払戻し
- 解散時の残余財産
等に関する定款規定が異なります。
そのため持分なしへ移行するには、所管行政庁への定款変更手続きを確認する必要があります。
持分を放棄しただけで持分なし医療法人になる?
持分放棄だけで手続き完了とは考えないでください。
持分権者がいなくなったことに加え、
定款上も持分の定めをなくす
必要があります。
法人の種類・現在の定款・行政庁の運用を確認します。
出資者が3人なら全員放棄する必要がある?
完全な持分なし医療法人へ移行するためには、最終的に持分を有する者が残らない状態にする必要があります。
したがって、
A:50%
B:30%
C:20%
なら、最終的にはすべての持分について整理する必要があります。
1人だけ持分を残したら?
その人物が持分を有している限り、通常の意味で完全な持分なし医療法人へ移行したとはいえません。
さらに先ほど説明したとおり、一部だけ放棄すると残存出資者への経済的利益移転による贈与税が問題になる可能性があります。
出資者が亡くなっている場合は?
相続関係を確認する必要があります。
例えば創業者Aが持分50%を持ったまま亡くなり、
相続手続きが終わっていない場合、
まず、
現在誰が持分権者なのか
を確定する必要があります。
認定医療法人制度で相続税納税猶予を利用する場合には、申告期限との関係にも注意してください。厚生労働省は、既に相続が発生している場合には相続税申告期限までに認定が必要と案内しています。
持分あり医療法人を子どもへ承継するなら放棄した方がいい?
一律には言えません。
例えば、
方法①
持分ありのまま子どもへ相続・贈与
方法②
認定医療法人制度を利用して持分なしへ移行してから承継
方法③
第三者M&A
などを比較します。
重要なのは、
相続税評価額
です。
持分評価が数億円ある場合には、持分なし移行のメリットが大きくなる可能性があります。
親族承継なら社員・理事長はそのまま引き継げる?
持分なし移行と社員・役員変更は別です。
例えば、
持分なしへ移行した後、
父:
社員・理事長
から、
息子:
社員・理事長
へ承継することも考えられます。
つまり、
財産権問題を先に解消してから、ガバナンスを次世代へ移す
という考え方です。
M&A前に持分放棄した方がいい?
一律にはおすすめできません。
これは非常に重要です。
持分あり医療法人のM&Aでは、
出資持分を売却することで売主がM&A対価を受け取る
スキームがあります。
しかし持分を放棄して持分なし医療法人へ移行すると、
売却対象となる出資持分そのものがなくなる
ため、M&Aの経済設計が変わります。
持分ありのまま売るメリット
売主にとって、
持分譲渡代金
という形でM&A対価を受け取れる可能性があります。
持分評価が高い医療法人では大きな金額になることがあります。
持分なしへ移行してからM&Aするメリット
一方で、
- 将来の持分払戻請求リスクがない
- 相続による持分分散リスクがない
- 買主が持分評価問題を抱えない
などのメリットがあります。
ただし売主へのM&A対価をどのように設計するかを別途検討する必要があります。
「売却予定ならとりあえず持分放棄」は避ける
M&Aを予定している場合、
持分ありのまま譲渡
と、
持分なしへ移行後に承継
では税務・契約・対価構造が全く異なります。
弁護士・税理士・M&A専門家等と比較してください。
出資額限度法人なら持分放棄しなくてもいい?
出資額限度法人も、基本的には持分の定めのある医療法人です。
したがって、
出資額限度法人=持分なし医療法人
ではありません。
最終的に持分なしへ移行するなら、別途手続きが必要です。
基金拠出型医療法人への移行になる?
持分なし医療法人には基金制度を採用するタイプがありますが、
持分あり医療法人から持分なしへ移行=必ず新たに基金を設定しなければならない
と単純に考えるべきではありません。
移行後の定款・財産構成・基金制度採用の有無を個別に設計します。
持分放棄後に「やっぱり返してほしい」はできる?
持分放棄は重大な財産権処分です。
適法に放棄が成立し、持分なし移行まで完了した後に、
「やはり持分を復活させてほしい」
と簡単に元へ戻せる制度ではありません。
そのため、相続対策だけを見て安易に放棄しないことが重要です。
持分放棄前に必ず評価額を知る
例えば、
「昔100万円出しただけだから」
と考えて放棄しようとしたところ、
税理士に評価してもらうと、
持分評価3億円
だったという可能性があります。
3億円の財産権を放棄する判断です。
必ず事前に評価してください。
持分評価に必要な主な資料
一般的には、
- 現行定款
- 出資者名簿
- 各出資額
- 持分割合
- 過去数期の決算書
- 固定資産台帳
- 不動産
- 現預金
- 借入金
- 有価証券
などを確認します。
持分評価は税理士等の税務専門家と連携します。
認定医療法人制度を利用する場合の重要ポイント
少なくとも、
- 持分あり医療法人であること
- 持分なしへの移行意思
- 移行計画
- 認定期限
- 認定後の移行期限
- 運営要件
- 税務要件
- 認定後の報告
を確認する必要があります。
厚生労働省は制度に関する個別相談窓口も設けています。
認定期限は2029年12月31日
2026年現在、ここは非常に重要な最新情報です。
厚生労働省の現在の認定申請ページでは、
本制度の期限は令和11年12月31日
と明記されています。
また令和8年度税制改正資料でも、
医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予制度等を2029年12月31日まで延長
するとされています。
期限直前に申請すればいい?
おすすめできません。
厚生労働省も、期限直前は申請が混み合う可能性があるため、早めに申請を検討するよう案内しています。
特に、
- 出資者多数
- 相続発生済み
- 高額持分
- 定款整理が必要
といった法人は早めに着手する方が安全です。
持分なし移行でよくある失敗① 出資額=持分価値と思う
100万円出資だから100万円の放棄とは限りません。
現在の持分評価を確認してください。
よくある失敗② 1人だけ先に持分放棄する
残存出資者に経済的利益が移転し、贈与税が問題になる可能性があります。
国税庁はこのケースを前提とした納税猶予制度を設けています。
よくある失敗③ 医療法人への贈与税を知らない
持分なし法人への財産移転については相続税法第66条第4項によるみなし贈与税問題があります。
よくある失敗④ 認定医療法人なら何でも非課税と思う
制度上の要件を満たして適切に移行する必要があります。
よくある失敗⑤ 期限を2026年12月31日だと思っている
制度は2029年12月31日まで延長されています。
よくある失敗⑥ 相続発生後にゆっくり検討する
相続税納税猶予を利用する場合、相続税申告期限までに認定が必要になるため注意してください。
よくある失敗⑦ M&A前に無条件で持分を放棄する
持分譲渡によるM&A対価を失う可能性があります。
M&Aスキームと比較してから判断してください。
よくある失敗⑧ 持分を放棄すれば社員資格もなくなると思う
持分と社員資格は別です。
よくある失敗⑨ 定款変更を忘れる
全員が持分を放棄しても、法人の定款を持分なしの内容へ変更する必要があります。
よくある失敗⑩ 税理士・行政書士・弁護士が別々に動く
持分なし移行は、
医療法+税務+承継
が一体となった手続きです。
専門家間でスケジュールを共有して進めることが重要です。
医療法人の持分放棄FAQ
Q1. 医療法人の持分放棄とは何ですか?
出資者が持つ出資持分に基づく財産的権利を放棄することです。
Q2. 持分を放棄するとお金はもらえますか?
通常、放棄は対価を受けずに権利を手放す行為です。
売却とは異なります。
Q3. 持分放棄と持分譲渡は違いますか?
違います。
放棄は権利を消滅させる方向、譲渡は権利を第三者へ移す方向です。
Q4. 持分を全部放棄すれば持分なし医療法人になりますか?
最終的には全持分を整理し、定款も持分なしの内容へ変更する必要があります。
単に放棄書だけ作れば完了するわけではありません。
Q5. 一人だけ持分を放棄できますか?
法律上・税務上の影響を十分確認する必要があります。
残存出資者に贈与税が生じる可能性があります。
Q6. 持分放棄した本人に譲渡所得税はかかりますか?
通常の有償譲渡とは異なります。
国税庁は持分なし移行に伴う個人出資者の放棄について、通常の譲渡所得課税は生じないとの考え方を示しています。
個別案件は税理士へ確認してください。
Q7. 他の出資者に贈与税がかかることがありますか?
あります。
一人の持分放棄によって他の持分保有者へ経済的利益が移転すると評価される場合があります。
Q8. 医療法人そのものにも贈与税がかかりますか?
一定の場合、相続税法第66条第4項によるみなし贈与税が問題になります。
Q9. 認定医療法人制度とは何ですか?
持分あり医療法人が持分なしへ移行する計画について厚生労働大臣の認定を受け、一定の税制上の措置を利用できる制度です。
Q10. 認定医療法人制度は2026年現在も使えますか?
使えます。
現在の制度期限は2029年12月31日です。
Q11. 2026年12月31日までではないのですか?
旧制度ではその期限でしたが、2026年度税制改正によって3年間延長されています。
現在は2029年12月31日です。
Q12. 認定後はいつまでに持分なしへ移行しますか?
厚生労働省の2026年度税制改正資料では、認定後5年以内に持分なし医療法人へ移行する仕組みが示されています。
Q13. 相続税も猶予されますか?
一定の要件を満たす認定医療法人では、持分に対応する相続税について納税猶予制度があります。
Q14. 最終的に持分を放棄すれば相続税は免除されますか?
認定移行計画の期限までに持分をすべて放棄するなど所定の要件を満たし、必要な届出を行った場合には、猶予税額の全部または一部が免除される制度があります。
Q15. 出資者間の贈与税も猶予できますか?
一定の要件の下で可能です。
Q16. 持分なしになれば相続税は二度とかかりませんか?
「医療法人の出資持分」という相続財産自体はなくなります。
ただし医師個人のその他の財産について通常の相続税がなくなるわけではありません。
Q17. 持分なしになっても理事長を続けられますか?
持分と理事長の地位は別です。
持分放棄だけを理由に自動退任する制度ではありません。
Q18. 持分なしになっても社員は必要ですか?
社団医療法人である以上、社員・社員総会というガバナンスは残ります。
Q19. M&A前に持分なしへ移行した方がいいですか?
一律ではありません。
持分ありのまま売却する方法と、持分なしへ移行してから承継する方法を比較してください。
Q20. 出資額限度法人は持分なし医療法人ですか?
違います。
出資額限度法人も持分あり医療法人です。
Q21. 認定医療法人制度の申請先はどこですか?
厚生労働省です。
厚生労働省は現在、認定申請・報告書類を原則としてメール提出する運用を案内しています。
Q22. 持分なし移行は行政書士に依頼できますか?
医療法人の定款変更、社員総会関係書類、認定医療法人制度に関する行政手続き等については、医療法人業務を取り扱う行政書士へ相談できます。
持分評価・相続税・贈与税等の税務判断は税理士、承継・M&A契約等は弁護士等と連携して進めることが重要です。
持分放棄前のチェックリスト
持分なし移行を検討するときは、最低限次を確認してください。
- 本当に持分あり医療法人か
- 現行定款
- 出資者名簿
- 出資者全員
- 持分割合
- 払込出資額
- 現在の持分評価額
- 出資者の年齢
- 相続発生状況
- 相続予定者
- 過去の持分譲渡
- 過去の持分放棄
- 出資額限度法人か
- 持分なし移行歴
- 認定医療法人利用の可否
- 出資者間贈与税
- 医療法人へのみなし贈与税
- 相続税
- M&A予定
- 親族承継予定
認定医療法人申請前のチェックリスト
さらに、
- 移行計画
- 移行時期
- 定款変更
- 法人運営体制
- 社員構成
- 理事・監事構成
- 関係者間取引
- 親族関係
- 認定後の報告体制
- 2029年12月31日の制度期限
を確認してください。
持分あり医療法人の理事長・出資者の先生へ
持分放棄について、
「相続税が高いから、とにかく持分をなくしたい」
という理由だけで進めるのはおすすめできません。
持分は、
現在の財産価値
でもあり、
場合によっては、
将来のM&A対価
にもなります。
一方、持分を保有し続ければ、
- 相続税
- 相続人への分散
- 払戻請求
- 後継者の納税資金
という問題が残ります。
そのため、
持分ありのまま親族承継する
認定医療法人制度を使って持分なしへ移行する
第三者へM&Aする
という3つを比較することが重要です。
当事務所では、医療法人・クリニック関係の行政手続きを専門分野として、
現行定款確認
→ 出資者・社員確認
→ 持分関係整理
→ 税理士との持分評価連携
→ 認定医療法人スキーム整理
→ 移行計画関係手続き
→ 社員総会議事録
→ 定款変更
→ 持分なし医療法人への移行
→ 親族承継・M&Aとの調整
までサポートしています。
「持分評価が高くなっている」
「父の持分をどうしたらいいか分からない」
「認定医療法人を使いたい」
「相続前に持分なしへ移行したい」
「M&Aと持分放棄のどちらが有利か比較したい」
という場合には、持分を実際に放棄する前にご相談ください。
【持分放棄・持分なし医療法人への移行について相談する】
まとめ|持分放棄は「相続税対策」だけでなく医療法人の所有構造を変える重大な手続き
最後に重要なポイントを整理します。
- 持分放棄は出資持分という財産権を手放す手続き
- 持分放棄と持分譲渡は別
- 払込出資額と現在の持分価値は同じとは限らない
- 持分放棄前に現在の評価額を確認する
- 一部の出資者だけが放棄すると他の出資者へ経済的利益が移転する可能性がある
- 他の出資者に贈与税が生じる可能性がある
- 医療法人自身へのみなし贈与税も問題になり得る
- 相続税法第66条第4項の確認が重要
- 持分なし移行を支援する制度が認定医療法人制度
- 認定医療法人制度は2026年現在利用可能
- 現在の制度期限は2029年12月31日
- 旧期限の2026年12月31日から延長された
- 認定後は原則として移行計画に基づき5年以内に移行する
- 認定制度では相続税の納税猶予制度がある
- 出資者間の贈与税にも納税猶予制度がある
- 所定の要件を満たせば猶予税額の免除制度がある
- 医療法人へのみなし贈与税についても非課税措置がある
- 相続発生済みの場合は相続税申告期限との関係に注意する
- 持分なしになっても社員・理事・理事長というガバナンスは残る
- 持分放棄=経営権放棄ではない
- 持分なし移行には定款変更も必要
- 出資者全員の持分を最終的に整理する必要がある
- 出資額限度法人も持分あり医療法人
- M&A前の安易な持分放棄は避ける
- 親族承継・認定医療法人・M&Aを比較して判断する
持分放棄で最も重要なのは、
「税金を減らせるか」だけではありません。
持分を放棄するということは、
医療法人に蓄積された財産について個人が有していた財産的権利を永久に手放す
という重大な意思決定です。
一方で、持分なし医療法人へ移行すれば、
将来の相続税・持分払戻請求・持分分散という経営リスクを大きく減らせる
可能性があります。
2026年現在、認定医療法人制度の期限は2029年12月31日まで延長されています。
持分評価が高額になっている医療法人ほど、
相続が発生してから考えるのではなく、理事長・出資者が元気なうちに「持分ありのまま承継」「持分なし移行」「M&A」の3つを比較する
ことが重要です。
参考となる公的情報・一次情報
本記事は、厚生労働省の認定医療法人制度案内、令和8年度税制改正資料、国税庁の医療法人持分に関する贈与税・相続税関係資料、相続税法第66条第4項関係通達等を基に、2026年8月時点の制度を整理しています。
厚生労働省は現在、認定医療法人制度について2029年12月31日までに移行計画の認定を受ける必要があると案内しています。また、既に相続が発生し納税猶予を利用する場合には、相続税申告期限までの認定が必要としています。
令和8年度税制改正資料では、医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予制度等について2029年12月31日まで延長し、認定医療法人制度について、相続税納税猶予、出資者間の贈与税納税猶予、持分放棄に伴う医療法人へのみなし贈与税の非課税措置を示しています。
国税庁は、認定医療法人の一部出資者が持分を放棄したことによって他の出資者に贈与税が生じる場合について、一定の要件の下で納税猶予を認め、期限までにすべての持分を放棄した場合等には猶予税額の全部または一部を免除する制度を案内しています。
また国税庁は、持分の定めのない法人への財産の贈与等により親族等の相続税・贈与税負担が不当に減少すると認められる場合、相続税法第66条第4項により法人を個人とみなして課税する考え方を示しています。
※持分放棄、持分評価、贈与税、相続税、認定医療法人制度の適用可否は個別法人の出資者構成、定款、財務内容、親族関係、運営体制等によって大きく異なります。具体的な税務判断は税理士、医療法人の定款変更・認定関係行政手続きは医療法人業務を取り扱う行政書士、M&A・契約等は弁護士等と連携して検討してください。
