【2026年最新版】医療法人の親族承継完全ガイド|父から子へ社員・理事長・出資持分を引き継ぐ方法

「父が理事長をしている医療法人を、医師である息子へ承継したい」

「理事長を息子へ変更すれば医療法人の事業承継は完了しますか?」

「父が持っている出資持分も息子へ移す必要がありますか?」

「医療法人の社員はどうやって父から子へ変更するのでしょうか?」

「出資持分を相続すると相続税はいくらかかりますか?」

「持分あり医療法人のまま子どもへ承継するのと、持分なしへ移行してから承継するのはどちらがいいですか?」

医療法人の院長・理事長が高齢になってくると、必ず考えなければならないのが医療法人の事業承継です。

特に、

父から医師・歯科医師である息子・娘へ医療法人を承継する

親族承継は、医療法人では非常に重要なテーマです。

しかし、医療法人の親族承継は株式会社のように、

「株式を息子へ全部渡せば終わり」

という仕組みではありません。

医療法人では、

社員

理事

理事長

管理医師

出資持分または基金

という複数の地位・権利が存在し、それぞれを分けて整理する必要があります。

特に持分あり医療法人では、

出資持分=財産権

である一方、

社員=社員総会におけるガバナンス

です。

厚生労働省は、出資持分のある医療法人であっても、社員の地位と出資持分は結合しておらず、出資持分を全く持たない社員も存在し得ると説明しています。

つまり、

父の出資持分を100%息子へ移しただけでは、息子が自動的に社員になるわけではありません。

逆に、

息子を社員・理事長にしても、父の出資持分が息子へ移るわけではありません。

したがって医療法人の親族承継では、

経営権の承継

と、

財産権の承継

を分けて考え、その両方を矛盾なく次世代へ移す必要があります。

本記事では、医療法人・クリニック関係の行政手続きを専門的に取り扱う行政書士の立場から、

  • 医療法人の親族承継とは何か
  • 理事長だけ変更すればよいのか
  • 社員を父から子へ変更する方法
  • 理事・理事長変更
  • 管理医師変更
  • 出資持分の承継
  • 相続・贈与
  • 持分評価
  • 持分なし医療法人への移行
  • 認定医療法人制度
  • 基金拠出型医療法人の場合
  • 親族承継のタイミング
  • よくある失敗

まで、2026年時点の制度を踏まえて詳しく解説します。



医療法人を子どもへ承継したい先生へ

医療法人の親族承継で最も多い誤解が、

「理事長を息子へ変えれば承継完了」

というものです。

例えば承継前が、

  • 社員
  • 理事
  • 理事長
  • 本院管理医師
  • 出資持分100%

だったとします。

そして息子を、

新理事長

に変更したとします。

しかし、

社員:父・母・叔父

出資持分:父100%

のままであれば、

理事長だけ息子

という状態になります。

この場合、

法人代表者は息子でも、

社員総会のガバナンスや財産権は父世代に残っています。

完全な親族承継を目指すのであれば、

理事長

社員

出資持分

まで一体として確認する必要があります。

【医療法人の親族承継について相談する】


目次

医療法人の親族承継とは?

医療法人の親族承継とは、現在医療法人を運営している理事長等から、

  • 子ども
  • 配偶者
  • その他親族

へ、医療法人の経営を引き継ぐことです。

典型的には、

父医師 → 息子医師

父歯科医師 → 娘歯科医師

という承継です。

医療法人そのものは同じ法人として存続しながら、

経営者・ガバナンス・財産関係を次世代へ変更

していきます。


医療法人の承継では4つのものを分けて考える

親族承継を理解するうえで、まず次の4つを分けてください。

項目意味
社員社員総会を構成する法人の構成員
理事医療法人の業務執行に関与
理事長医療法人の代表者
出資持分持分あり医療法人の財産的権利

さらに診療所を運営する場合には、

管理医師

も関係します。

これらはすべて別の制度です。


「社員」とは従業員ではない

医療法人の社員とは、

一般企業でいう従業員ではありません。

社団医療法人の構成員です。

社員総会で医療法人の重要事項を決定します。

東京都の2026年医療法人制度資料でも、役員の選任は社員総会で決議すること、社員には役員のような任期がないことが示されています。

つまり、

誰が社員なのか

は医療法人のガバナンスに直結します。

親族承継では、後継者を理事長にすることだけでなく、医療法人の社員構成をどのように引き継ぐかも重要です。

社団医療法人では社員総会が重要な意思決定機関となるため、後継者の社員入社と旧社員の退社を適切な順序で進める必要があります。
社員の入社・退社や社員名簿の変更については「医療法人の社員変更完全ガイド」で詳しく解説しています。


理事長とは?

理事長は医療法人を代表する者です。

しかし、

理事長=医療法人の所有者

ではありません。

理事長は理事の中から選出される法人代表者です。

したがって理事長を父から息子へ変更しても、それだけで社員資格や出資持分が移動するわけではありません。

親から子へ医療法人を承継する場合でも、理事長の地位が自動的に承継されるわけではありません。

後継者の理事就任、理事長選任、変更登記、行政への届出などを順序立てて進める必要があります。


親族承継に伴う理事長交代の具体的な手続きについては「医療法人の理事長変更完全ガイド」で詳しく解説しています。


出資持分とは?

持分あり医療法人における出資持分とは、定款に基づいて出資者が有する財産的権利です。

代表的には、

  • 退社時の持分払戻請求
  • 解散時の残余財産分配

などが関係します。

厚生労働省は、長期間利益を蓄積した持分あり医療法人では持分評価額が高額となり、創業者の相続時に後継者へ多額の相続税負担が生じる可能性を事業承継上の課題として指摘しています。

持分あり医療法人を親族へ承継する場合には、出資持分の現在価値を把握することが重要です。

長期間にわたり法人内部に利益が蓄積している場合、設立時の出資額と現在の持分評価額が大きく異なることがあります。


相続・贈与・第三者承継を検討する際の出資持分評価については「持分あり医療法人の出資持分評価完全ガイド」で詳しく解説しています。


出資持分と社員は同じではない

ここが親族承継で最も重要です。

例えば、

父:持分100%

でも、

社員が、



息子

の3名なら、

社員総会の構成員は3名です。

厚生労働省も、出資持分のある医療法人でも社員資格と持分は結合しておらず、持分を全く持たない社員が存在し得るとしています。

したがって、

持分100%=議決権100%

とは考えないでください。


親族承継は「経営権」と「財産権」の2本立て

分かりやすく整理すると、

経営権

社員

理事

理事長

財産権

出資持分

です。

持分なし医療法人であれば出資持分はありませんが、

社員・理事・理事長というガバナンスはあります。


理事長だけ息子へ変更する方法

例えば現在、

父:理事長
息子:理事

である場合、

定款・医療法に基づいて理事会で息子を新理事長へ選出することで理事長交代を行います。

その後、

  • 理事長変更登記
  • 役員変更届
  • 登記事項の届出
  • 必要に応じて厚生局等の変更届

を行います。

東京都の2026年運営手引でも、理事長に関する登記事項変更と役員変更届等の手続きが案内されています。


息子がまだ理事でない場合は?

理事長は理事であることが前提です。

したがって、

息子をまず理事へ選任

し、

その後、

理事長へ選出

します。

一般的な流れは、

社員総会

息子を理事へ選任

理事会

息子を理事長へ選出

です。

東京都の2026年医療法人制度資料でも、役員選任は社員総会で決議するとされています。


父をすぐ理事長から外す必要はある?

承継方法によります。

例えば、

一気に交代する方法

父:理事長退任
息子:理事長就任

段階的承継

父:一定期間理事として残る
息子:理事長就任

という方法も考えられます。

特に、

  • 患者への引継ぎ
  • スタッフへの引継ぎ
  • 金融機関
  • 取引先

との関係から、段階的承継を選ぶケースがあります。


父を社員として残すこともできる?

可能なケースがあります。

例えば、

承継後

社員:父・息子・第三者

理事長:息子

という状態です。

ただし、社員である限り父は社員総会の構成員としてガバナンスへ関与します。

完全な世代交代を目指すなら、

父をいつ社員から退社させるか

も検討してください。


医療法人の社員を父から息子へ変更する方法

社員変更は、現行定款に従って行います。

例えば、

承継前



叔父

承継後

息子

第三者

へ変更するケースです。

一般的には、

新社員加入

必要な社員総会

旧社員退社

社員名簿更新

という流れを検討します。


旧社員を全員先に退社させてはいけない

親族承継でも注意が必要です。

父・母・叔父が社員で、

3人全員を先に退社させてしまうと、

社員0人

となり、次の社員を誰が適切に加入させるのかという問題が生じます。

そのため、

法人の意思決定機能に空白を作らない

ように新旧社員の入退社順序を設計します。


社員変更は登記する?

社員個人は通常、医療法人の登記事項ではありません。

そのため、

父社員→息子社員

という変更を法務局へ登記する仕組みではありません。

しかし社員は医療法人の重要なガバナンス構成員です。

登記されないから重要ではない、という意味ではありません。


社員名簿を必ず更新する

親族承継後には、

現在の社員が誰なのか

を社員名簿へ反映します。

M&A・定款変更・分院開設等の後続手続きでは社員関係資料が重要になるため、承継時に整理しておくことをおすすめします。


管理医師も父から息子へ変更する場合

父理事長が本院管理医師も兼ねている場合、

息子へ、

理事長+管理医師

の両方を承継するケースがあります。

この場合、

理事長変更とは別に、

診療所の管理者変更

を行います。

また、医療法人が開設する診療所等の管理者は原則として理事になる必要があります。東京都の2026年制度資料もこの原則を示しています。


父が診療を続け、息子だけ理事長になることもできる?

ケースによって可能です。

例えば、

父:本院管理医師・理事
息子:理事長

という役割分担です。

理事長と管理医師は別の役職なので、

理事長交代=管理医師交代

ではありません。


親族承継で最も大きな問題「出資持分」

持分あり医療法人の場合、

親族承継で最大の課題になりやすいのが出資持分です。

例えば、

父:

出資持分100%

評価額:

3億円

という医療法人を息子へ承継するとします。

この3億円相当の財産権を、

  • 生前贈与する
  • 相続させる
  • 売却する
  • 放棄して持分なしへ移行する

という複数の選択肢があります。


出資100万円でも評価額3億円になることはある

持分価値は払込出資額そのものとは限りません。

医療法人内部に利益・不動産等が長期間蓄積すると、持分評価が高額になることがあります。

厚生労働省も、創業者理事長の持分評価が高額となり、後継者の相続税負担が事業承継を危うくする可能性を指摘しています。


方法① 父の持分を息子へ相続させる

最も自然に見える方法です。

父が亡くなった際、

息子が医療法人の出資持分を相続します。

ただし、出資持分は相続税の対象となり得ます。

国税庁は、認定医療法人の持分を相続・遺贈によって取得した場合について、一定の要件を満たすと相続税納税猶予を受けられる制度を設けています。


相続税が払えないケースもある

例えば、

父の持分評価額3億円

でも、

息子が現金3億円を受け取るわけではありません。

相続するのは、

医療法人に対する財産権

です。

一方で相続税は現金で納付する必要が生じるため、

相続財産は多いのに納税資金がない

という問題が起こる可能性があります。

厚生労働省もこの問題を持分あり医療法人の事業承継上の重要課題として示しています。


方法② 生前に持分を贈与する

父が生前に息子へ出資持分を贈与する方法です。

しかし、持分評価が高額なら贈与税も高額になる可能性があります。

単純に、

「相続前に息子へ名義変更しておけばいい」

という話ではありません。

必ず税理士による持分評価・税務シミュレーションを行ってください。


毎年少しずつ贈与すればいい?

持分評価、贈与税、持分割合の変化などを総合的に考える必要があります。

単純に少額ずつ移せば必ず有利というものではありません。

特に他の出資者が存在する場合には、経済的利益の移動についても税務上の確認が必要です。


方法③ 父から息子へ持分を売却する

父の持分を息子へ有償で譲渡する方法も考えられます。

この場合、

父には譲渡所得課税、

息子には取得資金の問題などが生じます。

親族間で著しく低い価格を設定すれば別の税務問題につながる可能性もあるため、税理士へ確認してください。


方法④ 持分を放棄して持分なしへ移行する

もう一つの大きな選択肢が、

持分なし医療法人への移行

です。

父が出資持分を子どもへ移すのではなく、

出資持分そのものをなくす

という考え方です。

この場合、

息子が将来相続する医療法人出資持分そのものがなくなるため、相続問題を大きく変えることができます。

親族承継を契機として、出資持分をそのまま次世代へ承継するのではなく、持分放棄や持分なし医療法人への移行を検討する場合もあります。

ただし、持分放棄には税務上の問題が生じる可能性があるため、行政手続きだけで判断することはできません。


持分放棄や持分なし医療法人への移行については「医療法人の持分放棄完全ガイド」で詳しく解説しています。


認定医療法人制度

持分あり医療法人から持分なしへ円滑に移行するため、

認定医療法人制度

があります。

認定医療法人の持分を相続した場合には、一定の要件のもとで相続税納税猶予を受け、移行期限までにすべての持分を放棄するなど要件を満たした場合には、猶予税額の全部または一部が免除される制度があります。


認定医療法人は親族承継と相性がいい?

案件によりますが、

  • 父の持分評価が高額
  • 息子が医療法人を長期間承継する
  • M&A売却を予定していない
  • 相続税負担を抑えたい

という場合には検討価値があります。

一方、

近い将来に第三者M&Aで持分を売却したい

という場合には、持分放棄によって売却対象となる財産権がなくなるため、M&Aとの比較が必要です。


相続が起きてからでも認定医療法人を使える?

一定の条件を満たす場合には、相続後の認定制度利用も検討できます。

国税庁は、相続人が認定医療法人の持分を相続・遺贈によって取得し、相続税の申告期限において認定医療法人である場合に一定要件のもとで納税猶予を受ける制度を案内しています。

ただし相続税申告期限との関係があるため、相続発生後にゆっくり検討するのではなく早期に専門家へ相談する必要があります。


親族承継は相続前に始める方がよい

医療法人承継は、

相続が起きてから考える

より、

理事長が元気なうちに計画する

方が選択肢が増えます。

例えば、

  • 理事長変更時期
  • 社員変更
  • 管理医師変更
  • 出資持分対策
  • 金融機関
  • 従業員
  • 患者

を数年かけて整理できます。


5年前から考える親族承継モデル

例えば父65歳、息子35歳の場合、

5年前

息子を理事へ就任

3年前

息子を社員へ加入

2年前

患者・スタッフへの引継ぎ開始

1年前

出資持分・相続税対策を確定

承継時

息子を理事長へ変更

必要に応じて

父を社員・理事から段階的に退く

という方法も考えられます。


役員任期満了を承継タイミングに利用する

医療法人の役員任期は2年を超えることができません。

東京都の2026年医療法人制度資料でも、役員任期は2年以内で、任期ごとに社員総会・理事会を開き改選する必要があると案内されています。

そのため、

次回役員改選時に父から息子へ理事長を交代

する方法は非常に自然です。


例えば次回重任時に交代する

現在:

父:理事長
息子:理事

次回役員任期満了時:

社員総会

父・息子を理事に再任

理事会

息子を新理事長へ選出

という方法です。

手続きのタイミングが明確になります。


親族承継と管理医師

父が、

理事長+本院管理医師

であるケースは非常に多いです。

承継時には、

パターンA

息子:

理事長+管理医師

パターンB

息子:

理事長

父:

管理医師

パターンC

息子:

管理医師

父:

理事長

などを検討できます。

ただし管理医師として実際に医療機関を管理できる勤務実態が必要です。


息子が別の病院に勤務中でも承継できる?

承継そのものは検討できますが、

息子が管理医師も兼ねるなら、

  • 勤務日
  • 診療時間
  • 他院勤務
  • 常勤性
  • 実際の管理体制

を確認する必要があります。

理事長就任と管理医師就任は別々に考えてください。


息子が医師でない場合は?

ここは重要です。

医療法人の理事長は原則として医師または歯科医師である理事から選出されるため、

医師・歯科医師資格を持たない息子へそのまま理事長職を承継する

ことは通常の形ではできません。

一方、

医師でない子どもが、

  • 社員
  • 出資持分の相続人

となる可能性はあります。

つまり、

財産は子が相続するが、理事長は別の医師

という状況も起こり得ます。


後継者が医師でない場合の問題

例えば、

父:医師・理事長・持分100%

子:医師ではない

というケースです。

父が死亡すると、

子が出資持分を相続する可能性があります。

しかし子自身が通常の理事長にはなれません。

そのため、

財産権の承継者

と、

医療法人の経営者

が分離する可能性があります。

このような場合こそ、相続前から承継計画を作る必要があります。


医師である勤務医を理事長にして、子どもを社員にする方法

案件によっては、

子ども:

社員・出資持分権者

勤務医A:

理事長

という構成が考えられます。

ただし、

経営権と財産権が分離するため、

将来のガバナンス・利益相反等まで含めて慎重に設計してください。


親族承継と銀行借入

父理事長が銀行借入の個人保証人になっているケースがあります。

理事長を息子へ変更しても、

父の個人保証が自動的に外れるわけではありません。

金融機関と、

  • 保証人変更
  • 息子への切替
  • 保証解除
  • 借換え

等を協議します。


親族承継と不動産

診療所の土地・建物が父個人所有の場合にも注意してください。

医療法人を息子へ承継しても、

不動産所有権は父個人のまま

です。

そのため、

  • 父から医療法人への賃貸継続
  • 息子への相続
  • 生前贈与
  • 売買

などを別途検討します。


MS法人も一緒に確認する

父が、

  • 医療法人理事長
  • MS法人株主
  • MS法人代表者

を兼ねているケースがあります。

例えば、

診療所建物:MS法人所有
医療機器:MS法人所有

なら、

医療法人だけ息子へ承継しても、事業資産は父側MS法人へ残ります。

親族承継では、

医療法人+MS法人+不動産

をまとめて確認してください。


配偶者・兄弟姉妹との関係

親族承継では相続人全体を考える必要があります。

例えば、



長男(医師・後継者)
次男

という家族で、

父の財産の大部分が医療法人持分だった場合、

長男へ持分を集中させると、

他の相続人との遺産分割にも影響します。

出資持分だけでなく父個人の全財産を含めて相続設計を行う必要があります。


「医師の長男だから全部承継」で終わらせない

医療法人承継では事業継続のため後継医師へ持分を集中させたい場合があります。

しかし、

  • 遺留分
  • 他の相続人
  • 納税資金
  • 個人所有不動産

などの民事・税務問題が関係します。

遺言・遺産分割等については弁護士・司法書士・税理士等と連携してください。


持分なし医療法人なら相続は簡単?

持分あり医療法人と比べると、

医療法人出資持分という相続財産

がないため大きな問題の一つは解消されます。

しかし、

  • 社員
  • 理事
  • 理事長
  • 管理医師
  • 個人所有不動産
  • MS法人株式

などの承継は依然として必要です。

つまり、

持分なし=何もしなくてよい

ではありません。


基金拠出型医療法人の場合

基金拠出型の持分なし医療法人では、出資持分はありません。

一方で、

基金返還請求権

が財産権として存在することがあります。

例えば父が基金1,000万円の返還請求権を持っている場合、

その権利について相続・承継を確認します。

社員・理事長の承継とは別問題です。


親族承継の基本的な流れ

一例として、持分あり医療法人を父から医師である息子へ承継する場合、

STEP1 現状調査

  • 定款
  • 社員
  • 理事
  • 理事長
  • 管理医師
  • 出資持分
  • 不動産
  • 借入

を確認します。


STEP2 後継者を決める

息子が、

  • 理事長
  • 管理医師

を兼務するのか決めます。


STEP3 息子を社員・理事へ加入

必要に応じて承継前から法人運営へ参加させます。


STEP4 出資持分評価

税理士等へ依頼して現在の持分価値を確認します。


STEP5 持分承継方法を決める

  • 相続
  • 贈与
  • 売買
  • 持分放棄・持分なし移行

を比較します。


STEP6 理事長変更

社員総会・理事会等の適切な手続きを経て息子を理事長へ変更します。


STEP7 管理医師変更

必要な場合に保健所関係手続きを行います。


STEP8 父世代社員の退社

完全承継を希望する場合には旧世代社員の退社を検討します。


STEP9 各種行政届出・登記

  • 理事長変更登記
  • 役員変更届
  • 登記事項届
  • 厚生局
  • 公費等

を確認します。


STEP10 持分・相続対策を完了

承継後に旧理事長へ多額の持分が残らないか最終確認します。


親族承継の理想的な時期

可能であれば、

理事長が健康なうち

に開始してください。

理由は、

  • 本人の意思確認ができる
  • 社員変更できる
  • 理事長変更できる
  • 贈与・持分なし移行も検討できる
  • 金融機関と交渉できる
  • 患者・スタッフを引き継げる

からです。


相続発生後では選択肢が減る

父が突然死亡した場合、

  • 理事長後任
  • 管理医師
  • 出資持分相続
  • 相続税
  • 社員構成
  • 金融機関

を短期間に同時処理しなければならなくなる可能性があります。

持分が高額なら相続税納税問題も生じます。

厚生労働省も持分の高額化が円滑な医業承継を阻害し得ることを指摘しています。


親族承継でよくある失敗① 理事長変更だけで終わる

最も多い誤解です。

社員・出資持分が父世代へ残っていないか確認してください。


よくある失敗② 持分100%を息子へ渡せば経営権も移ると思う

出資持分と社員資格は別です。

厚生労働省も両者が結合していないことを明示しています。


よくある失敗③ 社員を変更しない

理事長を息子へ変更しても、社員総会が父世代のままになることがあります。


よくある失敗④ 父を先に社員から退社させる

新社員加入の順序を確認してください。

意思決定機能に空白を作らないことが重要です。


よくある失敗⑤ 持分評価を出資額だけで考える

出資100万円でも持分評価が高額になっている可能性があります。


よくある失敗⑥ 相続税を計算しない

持分評価が高額なら、後継者の納税資金問題につながります。


よくある失敗⑦ とりあえず生前贈与する

高額な贈与税が発生する可能性があります。

必ず事前に税務シミュレーションしてください。


よくある失敗⑧ 認定医療法人制度を検討しない

持分評価が高額な場合、持分なし移行という選択肢も比較してください。

国税庁は認定医療法人の持分相続について納税猶予・免除制度を案内しています。


よくある失敗⑨ 管理医師変更を忘れる

父が理事長兼院長なら、息子へ管理医師も変更するのか整理します。


よくある失敗⑩ 不動産・MS法人を見ない

医療法人だけ承継しても事業資産が父個人・MS法人へ残ることがあります。


よくある失敗⑪ 父の個人保証を忘れる

理事長変更しても個人保証が自動解除されるわけではありません。


よくある失敗⑫ 相続発生まで何もしない

親族承継は、生前に計画するほど選択肢が増えます。


医療法人の親族承継FAQ

Q1. 父から息子へ医療法人を承継できますか?

可能です。

社員、理事、理事長、管理医師、出資持分等を整理して承継します。


Q2. 理事長を息子へ変更すれば承継完了ですか?

必ずしもそうではありません。

社員構成や出資持分等が父世代へ残っていないか確認してください。


Q3. 父の持分100%を息子へ移せば経営権も移りますか?

自動的には移りません。

出資持分と社員資格は別です。


Q4. 息子を社員にする必要がありますか?

完全なガバナンス承継を行う場合には、社員構成をどのようにするか検討することが重要です。


Q5. 息子が理事でない場合でも理事長にできますか?

理事長は理事である必要があります。

まず理事へ選任したうえで理事長へ選出します。


Q6. 父を理事として残せますか?

可能な場合があります。

段階的承継として一定期間父を理事へ残すケースも考えられます。


Q7. 父を社員として残せますか?

可能な場合があります。

ただし社員として社員総会の意思決定へ関与し続けることになります。


Q8. 息子が医師でなければ理事長になれますか?

通常の医療法人では理事長は原則として医師または歯科医師である理事から選出します。


Q9. 医師でない息子でも出資持分を相続できますか?

出資持分は財産権なので、医師資格とは別に相続関係が問題になります。


Q10. 持分を相続すると相続税がかかりますか?

出資持分は相続税評価の対象となり得ます。

認定医療法人では一定の要件を満たした場合の納税猶予制度があります。


Q11. 出資100万円なら相続評価も100万円ですか?

そうとは限りません。

法人内部の純資産等によって持分評価が大きく上昇している場合があります。


Q12. 生前贈与した方が相続より有利ですか?

一律には判断できません。

持分評価・贈与税・相続税等を比較してください。


Q13. 父から息子へ持分を売却できますか?

検討できます。

譲渡価格・譲渡所得・親族間取引の税務等を確認してください。


Q14. 持分なし医療法人へ移行してから承継できますか?

可能です。

持分評価が高額な場合には重要な選択肢です。


Q15. 認定医療法人制度を使えますか?

要件を満たす持分あり医療法人であれば検討できます。

相続税の納税猶予・免除制度等があります。


Q16. 持分なしになったら息子は医療法人を承継できませんか?

承継できます。

持分がなくなっても社員・理事・理事長というガバナンスは残ります。


Q17. 基金拠出型なら何を承継しますか?

社員・理事長等に加え、基金返還請求権がある場合にはその財産関係も確認します。


Q18. 父の個人所有不動産も医療法人と一緒に引き継がれますか?

引き継がれません。

医療法人と父個人の財産は別です。


Q19. MS法人も承継する必要がありますか?

医療法人の事業運営に重要な資産・契約がMS法人側にある場合には、MS法人の承継も含めて検討する必要があります。


Q20. 理事長交代時に管理医師も変更する必要がありますか?

必ず同時に変更するわけではありません。

理事長と管理医師は別の役職です。


Q21. 役員任期満了に合わせて承継できますか?

良いタイミングの一つです。

東京都の2026年資料でも役員は2年以内の任期ごとに改選する仕組みが示されています。


Q22. 何年前から親族承継を考えるべきですか?

法人の規模・持分評価等にもよりますが、数年前から計画的に準備することをおすすめします。

特に高額持分がある場合には早いほど選択肢が増えます。


Q23. 親族承継は行政書士へ相談できますか?

医療法人の社員・理事・理事長変更、定款、管理医師、保健所・行政庁関係手続き等については医療法人業務を取り扱う行政書士へ相談できます。

出資持分評価、相続税・贈与税は税理士、登記は司法書士、遺言・遺産分割等の法的助言は弁護士等と連携して進めます。


親族承継前に確認する30項目

法人ガバナンス

  1. 現行定款
  2. 現在の社員
  3. 社員名簿
  4. 理事
  5. 監事
  6. 理事長
  7. 役員任期
  8. 管理医師
  9. 分院管理医師
  10. 次回役員改選時期

財産関係

  1. 持分あり・なし
  2. 出資者
  3. 持分割合
  4. 現在の持分評価
  5. 基金の有無
  6. 基金返還請求権
  7. 個人所有不動産
  8. MS法人
  9. 借入金
  10. 個人保証

承継関係

  1. 後継者が医師・歯科医師か
  2. 息子を社員へ加入させる時期
  3. 息子を理事へ加入させる時期
  4. 理事長変更時期
  5. 管理医師変更時期
  6. 父をいつ退任させるか
  7. 父をいつ社員から退社させるか
  8. 持分をどう処理するか
  9. 相続税・贈与税
  10. 持分なし移行の要否

親族承継を5段階に分ける

医療法人承継を分かりやすく整理すると、

第1段階 後継者育成

息子を医療法人運営へ参加させる。

第2段階 ガバナンス参加

社員・理事へ加える。

第3段階 経営承継

息子を理事長へ変更する。

第4段階 財産承継

出資持分等を整理する。

第5段階 完全承継

父世代の社員・役員・保証・資産関係を整理する。

という考え方ができます。

一度にすべて行う必要はありません。


「経営承継」と「相続」を別日にすることもできる

例えば、

父65歳で、

理事長だけ息子へ承継し、

出資持分は父がその後も保有する方法もあります。

しかし、この状態では、

経営は息子

財産権は父

です。

父が死亡すると結局持分相続が発生するため、その後の計画まで作っておく必要があります。


理事長交代後に父の持分を放置しない

理事長交代が無事終わると安心してしまい、

父が持分100%を持ったまま10年間放置するケースは避けたいところです。

その間に法人純資産が増えれば、持分評価がさらに高くなる可能性があります。

将来の相続まで見据えてください。


親族承継・持分なし移行・M&Aを比較する

後継者がいるからといって必ず親族承継が最善とは限りません。

比較するべき選択肢は、

方法主な特徴
親族承継家族内で経営継続
持分なし移行+親族承継持分相続問題を軽減
第三者M&A売却対価を得て第三者へ承継

です。

例えば息子が医師でも、

「本当は継ぎたくない」

という場合には無理な親族承継を行うべきではありません。


医療法人の親族承継を検討している先生へ

医療法人の親族承継で本当に引き継ぐべきものは、

「理事長という肩書」だけではありません。

父が長年築いてきた医療法人には、

  • 社員総会というガバナンス
  • 理事長という代表権
  • 管理医師としての診療体制
  • 出資持分という財産権
  • 職員
  • 患者
  • 不動産
  • 借入
  • MS法人
  • 地域での信用

があります。

これらを一つずつ次世代へ引き継いで初めて、

本当の医療法人承継

になります。

特に持分あり医療法人では、

理事長変更だけ先に終わらせ、出資持分を放置する

ことには注意が必要です。

持分評価が高額になれば、

後継者へ大きな相続税負担が生じる可能性があります。厚生労働省もこの問題を円滑な医業承継上の重要課題として整理しています。

当事務所では、医療法人・クリニック関係の行政手続きを専門分野として、

現行定款確認
→ 社員・役員確認
→ 親族承継スケジュール設計
→ 後継者の社員・理事就任
→ 社員総会・理事会
→ 理事長変更
→ 管理医師変更
→ 司法書士との登記連携
→ 行政庁・保健所等の手続き
→ 税理士との持分・相続対策連携
→ 必要に応じ持分なし移行

までサポートしています。

「父の医療法人を息子へ承継したい」

「いつ理事長を交代すればよいか分からない」

「出資持分評価が高くなっている」

「相続と生前贈与のどちらがよいか検討したい」

「持分なしへ移行してから承継したい」

という先生は、相続が発生する前の段階からご相談ください。

【医療法人の親族承継について相談する】


まとめ|医療法人の親族承継は「経営権+財産権」を引き継ぐ

最後に重要なポイントを整理します。

  1. 医療法人の親族承継は理事長変更だけではない
  2. 社員・理事・理事長・管理医師・持分を分けて考える
  3. 社員は従業員ではない
  4. 社員は社員総会を構成する
  5. 理事長は法人代表者
  6. 出資持分は財産権
  7. 社員資格と出資持分は別
  8. 持分100%を移しても自動的に社員にはならない
  9. 理事長変更しても持分は自動的に移らない
  10. 親族承継では経営権と財産権の両方を整理する
  11. 息子が理事でなければまず理事へ選任する
  12. 社員構成も次世代へ移すか検討する
  13. 旧社員を全員先に退社させない
  14. 管理医師変更は理事長変更とは別
  15. 持分あり医療法人では相続税問題が重要
  16. 出資額と現在の持分評価額は同じとは限らない
  17. 生前贈与・相続・売買を比較する
  18. 持分なし医療法人への移行も選択肢
  19. 認定医療法人には一定の相続税納税猶予制度がある
  20. 持分なしになっても社員・理事・理事長は存在する
  21. 基金拠出型では基金返還請求権も確認する
  22. 個人所有不動産は法人承継と別
  23. MS法人も確認する
  24. 借入・個人保証も整理する
  25. 医師でない後継者の場合は経営者と財産承継者が分離する可能性がある
  26. 役員任期満了は承継タイミングとして利用できる
  27. 数年前から段階的に承継する方法がある
  28. 相続発生後より生前準備の方が選択肢が多い
  29. 親族承継・持分なし移行・第三者M&Aを比較する
  30. 理事長が健康なうちに承継計画を作ることが重要

医療法人の親族承継で最も大切なのは、

「誰を次の理事長にするか」

だけではありません。

本当に重要なのは、

「誰に医療法人の意思決定を任せ、誰に財産権を引き継ぎ、いつ旧世代から完全に移行するか」

です。

つまり、

社員によるガバナンス

理事長による代表権

出資持分による財産権

をそれぞれ整理し、

次世代へ矛盾なく引き継ぐことが、医療法人の親族承継を成功させる最大のポイントです。


参考となる公的情報・一次情報

本記事は、医療法、厚生労働省の医療法人・持分なし移行関係資料、東京都の2026年版医療法人制度・運営資料、国税庁の医療法人持分に関する相続税制度等を基に、2026年8月時点の制度を整理しています。

厚生労働省は、持分あり医療法人でも社員資格と出資持分は結合しておらず、出資持分を全く有しない社員も存在し得ると説明しています。

また、持分あり医療法人では法人内部に利益が蓄積することにより出資持分評価が高額化し、創業者理事長の相続時に後継者へ多額の相続税負担が生じ、円滑な医業承継を阻害する可能性があることも厚生労働省資料で指摘されています。

国税庁は、相続人が認定医療法人の持分を相続・遺贈によって取得した場合について、一定の要件を満たせば持分に対応する相続税の納税猶予を受けられ、移行期限までに持分のすべてを放棄した場合などには猶予税額の全部または一部について免除を受けられる制度を案内しています。

東京都の2026年医療法人制度資料では、理事・監事の選任は社員総会で決議すること、役員任期は2年を超えることができないこと、医療法人が開設する診療所等の管理者は原則として理事へ就任することなどが示されています。

※具体的な出資持分評価、贈与税、相続税、遺産分割等については税理士・弁護士等、理事長変更登記は司法書士、医療法人の社員・役員変更、定款・管理医師等の行政手続きについては医療法人業務を取り扱う行政書士等と連携して個別に検討してください。


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この記事を書いた人

カミーユ行政書士事務所 代表・行政書士 井上卓也
慶應義塾大学卒業後、東証プライム上場企業を経て行政書士事務所を開業。300社以上の実績。医療法人関係、補助金申請に専門特化。趣味は週7日の筋トレ。

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