「医療法人を設立するには、現金はいくら必要ですか?」
「医療法人設立には1,000万円必要と聞きましたが、本当ですか?」
「基金は最低いくらにすればいいのでしょうか?」
「医療機器や医業未収金も医療法人へ引き継げますか?」
「個人開業時の借入金が残っていますが、医療法人化できますか?」
さて、医療法人設立のご相談で、非常によく聞かれるのが「資産・基金・運転資金」に関する質問です。
結論からいうと、
医療法人を設立するために、全国一律で「現金1,000万円以上」「基金1,000万円以上」と定められているわけではありません。
医療法上、医療法人には、その業務を行うために必要な資産を有することが求められています。
そのため実際の設立認可申請では、
- 現金・預金
- 医業未収金
- 医療機器
- 什器・備品
- 保証金
- 土地・建物
- 借入金
- リース債務
- 毎月の医業費用
- 法人化後の運転資金
などを総合的に確認し、医療法人設立後も診療所を安定して運営できる財産的基礎があるかを審査していきます。
また、この「必要な資産」の具体的な運用は都道府県によって異なります。
例えば大阪府では、2026年6月時点で、運転資金として**「医業費用2か月分相当額または1,000万円のいずれか高い方」**の現金拠出を求めています。したがって、「医療法人には1,000万円必要」という情報は、全国一律の法定最低額ではなく、自治体ごとの審査基準・運用と区別して理解する必要があります。
本記事では、医療法人・クリニック関係の行政手続きを専門的に取り扱う行政書士の立場から、2026年最新の公的情報を踏まえて、
- 医療法人設立には最低いくら必要なのか
- 基金とは何か
- 基金と資本金の違い
- 運転資金はいくら必要なのか
- 現預金以外に何を拠出できるのか
- 医療機器を法人へ引き継げるのか
- 医業未収金はどうなるのか
- 借入金・リースは引き継げるのか
- 医療法人化前に資金をどう準備するのか
- 都道府県ごとの違い
- 設立時にありがちな失敗
まで詳しく解説します。
医療法人設立の資金・基金について相談したい先生へ
医療法人の設立財産は、
「とりあえず通帳にお金を入れておけばよい」
というものではありません。
法人化後の診療を安定して継続するには、
資産・負債・医業未収金・設備・借入金・リース・家賃・人件費・診療報酬の入金サイクル
まで含めて資金計画を作ることが重要です。
また、申請する都道府県によって資産要件や審査上の取扱いが異なるケースもあります。
「自分の場合、基金はいくらにすればよいか」
「預金だけで法人化できるのか」
「医療機器を法人へ移すべきか」
「借入金をどう処理すればよいか」
とお悩みの場合は、医療法人設立認可申請の準備段階から専門家へ相談することをおすすめします。
医療法人設立には最低いくら必要?
まず、最も多い質問から回答します。医療法人に関する質問にも、分かりやすく答えます。
医療法人の結論
結論|全国一律の「最低○○万円」という基準はない
補足情報
医療法人設立について、
「1,000万円必要」
「2,000万円必要」
「運転資金2か月分必要」
など、さまざまな情報を見かけます。
しかし、医療法人設立のための最低資本金として全国一律の金額が法律で定められているわけではありません。
医療法では、医療法人について、その業務を行うために必要な資産を有しなければならないという考え方が採られています。
つまり重要なのは単純な金額ではなく、
「この医療法人が設立後も継続して医療機関を運営できるだけの財産的基礎があるか」
という点です。
その具体的な審査方法や必要となる運転資金については、都道府県の手引・審査基準等を確認する必要があります。
なぜ「医療法人設立には1,000万円必要」と言われるのか?
この疑問も非常に多くあります。
理由の一つとして、自治体によって具体的な運転資金基準が設けられていることがあります。
例えば大阪府では、医療法人設立時の運転資金について、
医業費用2か月分に相当する額または1,000万円のいずれか高い方
の現金を拠出する取扱いを公表しています。さらに、法人設立後に金融機関から借りる予定のお金は、この運転資金には算入できないとされています。
例えば、
毎月の医業費用が400万円なら、
2か月分=800万円
となるため、大阪府では1,000万円の方が高くなります。
一方、
毎月の医業費用が800万円なら、
2か月分=1,600万円
となるため、1,600万円が基準となります。
したがって、
「大阪府なら誰でも1,000万円あればよい」
という意味でもありません。
さらに重要なのは、この大阪府の取扱いをそのまま東京都、兵庫県、神奈川県、福岡県などに当てはめてはいけないということです。
医療法人設立では、
全国共通の医療法上のルール
と
各都道府県の審査実務
を分けて考える必要があります。
医療法人の「基金」とは?
医療法人設立を調べていると、必ずと言ってよいほど登場するのが**「基金」**です。
基金とは、簡単に説明すると、
医療法人の活動の原資となり、財産的基礎を維持するために拠出される金銭その他の財産
です。
厚生労働省は基金について、持分の定めのない社団医療法人に拠出された金銭その他の財産であり、医療法人が定款に従って拠出者に返還義務を負うものと位置付けています。
現在新たに設立される社団医療法人では、基金制度を採用した「基金拠出型医療法人」が多く利用されています。大阪府も、近年設立される医療法人の多くが基金制度を採用していると案内しています。
基金と株式会社の資本金は何が違う?
「基金=医療法人の資本金」と説明されることがあります。
イメージをつかむための説明としては分かりやすいのですが、法律上は株式会社の資本金と同じものではありません。
比較すると次のようになります。
| 項目医療法人の基金株式会社の資本金 | ||
|---|---|---|
| 法人 | 主に基金拠出型医療法人 | 株式会社 |
| 主な目的 | 法人活動の原資・財産的基礎の維持 | 会社の事業資金 |
| 拠出者 | 医師・歯科医師その他の者等 | 株主 |
| 株式 | なし | あり |
| 配当 | 医療法人は剰余金配当禁止 | 条件を満たせば可能 |
| 返還 | 定款・法令上の条件の下で可能 | 原則として自由な返還ではない |
| 経営権との関係 | 基金額=議決権ではない | 株式数と議決権が連動する場合あり |
特に重要なのが、
基金をたくさん出した人ほど医療法人で強い議決権を持つわけではない
ということです。
医療法人の社員総会では、原則として社員は一人一票の議決権を有します。
したがって、
「理事長が基金を1,000万円出し、別の社員が基金を出していないから、理事長が100%オーナー」
という株式会社的な発想は適切ではありません。
医療法人では、
基金を誰が出すか
と
誰を社員にするか
は別の問題として考える必要があります。
基金は必ず必要?
基金制度そのものは、すべての医療法人で一律に採用しなければならない制度ではありません。
厚生労働省の通知でも、社団医療法人は基金を募集できる旨を定款で定めることが「できる」とされています。
ただし、実務では基金制度を採用した持分なし医療法人として設立するケースが多くあります。
したがって、
「基金制度を採用するか」
「基金をいくらにするか」
「誰が拠出するか」
については、申請先自治体の手引や将来の法人運営を踏まえて決定する必要があります。
基金はいくらにすればいい?
ここも重要です。
「基金は必ず1,000万円」とは限らない
基金についても、
全国一律の「最低基金額1,000万円」という法律上の規定があるわけではありません。
実際には、
- 法人設立時に必要となる運転資金
- 医療法人へ移す資産
- 都道府県の審査基準
- 月々の医業費用
- 法人化直後の資金繰り
- 診療報酬の入金時期
などを確認した上で金額を決めます。
したがって、
「ネットで1,000万円と見たから基金1,000万円」
という決め方はおすすめしません。
医療法人設立では「運転資金」が重要
医療法人設立で、実務上非常に重要なのが運転資金です。
なぜなら医療法人化した翌日から、
- 医師・看護師等の給与
- 社会保険料
- テナント賃料
- 医薬品費
- 医療材料費
- リース料
- 水道光熱費
- 広告費
- 外注費
などが発生する一方、診療報酬は診療したその日に全額入金されるわけではないからです。
そのため、法人設立直後に十分な現金がないと、
「売上はあるのに給与や家賃を払えない」
ということになりかねません。
医療法人設立認可審査では、単なる形式的な財産額ではなく、法人化後の事業計画・予算と資産の整合性が重要になります。
医療法人設立時の運転資金は借入金でもいい?
これも自治体の取扱いを確認する必要があります。
少なくとも大阪府では、医療法人設立後に金融機関等から借りる予定の資金を、設立時に必要な運転資金へ算入することはできないと明示されています。
設立者等からの拠出・寄附によって運転資金を確保することが求められています。
したがって、
「医療法人を作った後に銀行から1,000万円借りる予定だから、設立時の預金はほとんどなくても大丈夫だろう」
という考え方は危険です。
設立認可を申請する段階で、どのような財産を法人へ拠出するのか整理しておく必要があります。
医療法人には現金だけを拠出する?
いいえ。
医療法人へ引き継ぐ財産は、現金・預金だけとは限りません。
例えば大阪府では、引継ぎ可能な資産として次のようなものを案内しています。
| 財産評価の考え方の例 | |
| 現金・預金 | 残高証明書の金額の範囲 |
| 土地・建物 | 不動産鑑定評価等 |
| 建物附属設備 | 減価償却後の簿価 |
| 保証金 | 契約内容に基づく返還可能額等 |
| 医療用機械・備品 | 減価償却後の簿価 |
| 什器・備品 | 減価償却後の簿価等 |
ただし、実際に何を拠出・引継ぎ対象とするかは、申請する自治体や個別案件によって確認が必要です。
医療機器は医療法人へ引き継げる?
個人クリニックで所有している医療機器は、条件を整理したうえで医療法人へ引き継ぐことを検討できます。
例えば、
- CT
- MRI
- X線装置
- 超音波診断装置
- 内視鏡
- 歯科ユニット
- CAD/CAM
- 美容レーザー
- 医療脱毛機
- 手術設備
などです。
ただし、
「クリニックに置いてあるから院長の所有物」
とは限りません。
まず、
誰が所有しているのか
を確認する必要があります。
医療機器を引き継ぐときのチェックポイント
医療機器については、少なくとも次の事項を確認します。
① 院長個人が購入したものか
購入契約書、請求書、固定資産台帳等を確認します。
② リースではないか
リース会社所有の機器を、院長個人の財産として法人へ拠出することはできません。
③ 割賦購入ではないか
所有権留保が付いていないか確認が必要です。
④ 借入金で購入していないか
医療機器取得に紐づく借入金が残っている場合には、資産だけでなく負債の引継ぎについても検討が必要です。
⑤ 現在の簿価はいくらか
取得時の新品価格ではなく、減価償却後の帳簿価額等を確認します。
500万円を超える現物拠出は注意
金銭以外の財産を基金として拠出する場合には、一定の場合、専門家による価額証明等が必要になります。
厚生労働省の基金に関する通知では、金銭以外の財産について、その価額が相当であることについて弁護士、公認会計士、税理士等の証明が必要になる仕組みが定められています。一定の場合には例外があります。
大阪府でも、金銭以外の拠出財産の価額総額が500万円を超える場合、または負債を引き継ぐ場合には、弁護士、公認会計士、税理士等による証明を求めています。不動産の場合は不動産鑑定士の鑑定も必要とされています。
高額な医療機器を所有しているクリニックでは、特に注意したいポイントです。
個人クリニックの借入金は医療法人へ引き継げる?
ケースによっては可能です。
ただし、
「個人の借金なら何でも法人に移せる」
というわけではありません。
例えば大阪府では、医業に必要な拠出財産を取得した際に生じた負債について、その借入金で取得した土地・建物・医療機器等とともに、現物拠出財産の価額の範囲内で法人へ引き継ぐ取扱いを示しています。
一方、個人診療所の単なる運転資金に係る負債については、同府は引継ぎ不可としています。
したがって重要なのは、
「その借入金で何を取得したのか」
です。
借入金を法人へ引き継ぐ場合の具体例
例えば、
医療機器購入代金3,000万円
借入残高1,500万円
というケースを考えます。
この場合、
「医療機器という資産」
と
「その医療機器を取得するための借入金」
に明確な対応関係があります。
このような場合には、自治体の審査基準、金融機関の承諾、資産評価等を確認しながら、資産と負債を法人へ引き継ぐ方法を検討します。
一方、
「開業後の赤字を補填するために借りた500万円」
などは性質が異なります。
借入金は、
借入目的・取得資産・現在残高・金融機関との契約
を必ず確認してください。
銀行の承諾なしに借入金を法人へ移せる?
通常、金融機関との調整が必要です。
行政上、
「この借入金は医療法人へ引き継ぐことができる」
という整理が可能だったとしても、
銀行との金銭消費貸借契約が自動的に医療法人名義へ変わるわけではありません。
債務引受、借換え、契約変更など、金融機関側の手続きが必要となる場合があります。
したがって医療法人設立では、
行政書士だけでなく、金融機関・税理士等との連携
が重要になります。
リース契約はどうなる?
CT、MRI、美容医療機器、複合機などをリースしているクリニックも多いでしょう。
リース契約についても、
個人契約 → 医療法人契約
への切替について、リース会社へ確認する必要があります。
大阪府は、一定のリース資産に係る負債について、引継ぎ対象となり得ることを案内しています。
ただし、契約そのものの承継にはリース会社側の承諾や再審査等が必要になる場合があります。
医療法人設立直前になって確認するのではなく、早めにリース会社へ相談することをおすすめします。
テナントの保証金は法人へ引き継げる?
テナント型クリニックでは、
- 敷金
- 保証金
- 建設協力金
などを差し入れているケースがあります。
これらについても財産として取り扱える場合があります。
大阪府では保証金等について、原則として契約書に記載された金額を基準とし、償却条項がある場合には退去時に実際に返還される金額を踏まえる考え方を示しています。
ただし、それ以前に重要なのが、
賃貸借契約そのものを医療法人へ引き継げるか
という問題です。
保証金だけを法人へ移して、賃借人が院長個人のままでは、法人開設の審査上整理が必要になることがあります。
医業未収金はどう考える?
医療法人化する場合、資産の中でも特に金額が大きくなりやすいのが医業未収金です。
保険診療では、
診療
↓
レセプト請求
↓
審査
↓
入金
という時間差があるため、法人化時点で個人診療所側に多額の診療報酬未収金が残っているケースがあります。
医業未収金を法人側へどのように扱うかについては、申請先自治体の手引・審査実務、会計・税務処理を踏まえて整理する必要があります。
特に、
「誰が診療したことによって発生した債権なのか」
と
「誰の口座に入金されるのか」
を曖昧にしないことが重要です。
法人化日をまたぐ診療報酬については、行政手続きだけでなく税理士とも連携して処理を決めてください。
医療法人の基金は誰が出す?
一般的には、理事長となる医師・歯科医師本人が基金を拠出するケースが多いでしょう。
しかし制度上、基金の拠出者については、社員・理事と必ず一致する仕組みではありません。
厚生労働省の通知でも、基金の募集、申込み、割当て等について独立した手続きが定められています。
ただし、
- 第三者
- 関連法人
- MS法人
- 取引先
- 出資者的立場の者
から資金を入れる場合は注意が必要です。
医療法人には非営利性が求められるため、資金提供者が医療法人を実質的に支配するような仕組みになっていないか、法人運営全体を確認する必要があります。
基金を出した人に利息を払える?
原則として、基金の返還に係る債権に利息を付けることはできません。
大阪府も基金返還について「基金の返還に係る債権には利息を付することができない」と案内しています。
したがって、
「1,000万円を基金として入れて年3%で運用してもらう」
というような投資商品ではありません。
基金は後から返してもらえる?
一定の条件を満たせば返還することは可能です。
ただし、
好きなタイミングで自由に返還できるわけではありません。
大阪府の案内では、基金返還には定時社員総会での決議が必要であり、貸借対照表上の純資産額等を基礎とした返還可能額の制限があります。さらに基金を返還した場合、その金額に相当する「代替基金」を計上しなければならず、この代替基金は取り崩すことができません。
これは医療法人の財産的基礎を維持するための仕組みです。
したがって、
「法人を作るときだけ一時的に1,000万円入れて、すぐ自分に戻せばいい」
という考え方はできません。
基金返還と「利益剰余金を自由に受け取ること」は別
ここも誤解されやすいポイントです。
基金を一定条件下で返還できることと、
医療法人の利益を理事長へ配当できること
は全く別です。
医療法人は剰余金の配当が禁止されています。
基金返還は、あくまで拠出された基金について法令・定款に従って行われるものです。
「法人で利益が出たから、その分基金として自分に返してもらおう」
という制度ではありません。
医療法人設立前に通帳へ一時的にお金を入れればいい?
おすすめできません。
医療法人設立では、預金残高を確認するために金融機関の残高証明書等を提出することがあります。
その際、
「申請のためだけに一時的に借りた資金ではないか」
「実際に法人へ拠出できる資金なのか」
という点が重要です。
残高証明を取得した翌日に資金を元へ戻すようなスキームでは、設立後の運転資金が確保されません。
医療法人設立の目的は、
残高証明書を作ることではなく、法人設立後の診療を安定して継続できる財産を準備すること
です。
医療法人設立時に資産ゼロでもいい?
基本的に、業務を行うために必要な資産を持たずに医療法人を設立するという考え方は適切ではありません。
医療法人は、開設する診療所等の業務を行うために必要な施設・設備等の資産を有する必要があります。
大阪府も、診療所等の業務を行うために必要な施設・設備等の資産と、それに見合う財産の拠出が必要と明示しています。
具体的にいくら必要かは個別案件・自治体によって異なるため、申請先の基準を確認してください。
医療法人設立の資金計画|簡単なモデルケース
例えば、次のような個人クリニックを考えます。
| 項目月額 | |
| 人件費 | 350万円 |
| 家賃 | 80万円 |
| 医薬品・材料費 | 150万円 |
| リース等 | 50万円 |
| その他経費 | 120万円 |
| 合計医業費用 | 750万円 |
仮に大阪府の現在の基準を当てはめると、
750万円 × 2か月=1,500万円
となります。
1,000万円より1,500万円の方が高いため、同府の運転資金基準では1,500万円が目安となります。
ただし、この計算をそのまま他県の申請に利用できるとは限りません。
これはあくまで、
自治体によっては、このレベルまで具体的に運転資金を審査する
ことを理解するための例です。
資産が多ければ審査で有利?
単純に、
「預金5,000万円あるから必ず認可される」
というものではありません。
医療法人設立では、
- 資産
- 予算
- 事業計画
- 診療実績
- 医業費用
- 人員
- 契約
- 負債
などの整合性が重要です。
例えば月額医業費用が300万円程度の診療所で、突然1億円を基金として拠出する計画になっていれば、
「なぜそれほど多額の基金が必要なのか」
という説明が必要になることも考えられます。
重要なのは、
多ければよいのではなく、事業計画に対して合理的か
ということです。
医療法人設立で財産について確認すべきチェックリスト
法人化を検討する場合には、まず次の項目を確認してください。
- 現在の普通預金・定期預金
- 法人化時に拠出できる現金額
- 毎月の医業費用
- 診療報酬の入金サイクル
- 医業未収金
- 医療機器の一覧
- 医療機器の所有者
- 医療機器の帳簿価額
- リース契約
- 借入金残高
- 借入金の使途
- テナント保証金
- 土地・建物
- 個人所有不動産を法人へ貸すのか
- 法人化後に必要となる設備投資
この一覧を作るだけでも、法人化に必要な財産の全体像がかなり見えてきます。
医療法人設立でよくある失敗
失敗①「1,000万円あれば大丈夫」と思い込む
全国一律のルールではありません。
必ず申請先自治体の最新基準を確認してください。
失敗② 基金と資本金を同じだと思っている
基金には独自の返還ルールがあり、基金額と医療法人の議決権が比例する仕組みでもありません。
株式会社と同じ発想で考えないことが重要です。
失敗③ 医療機器の所有関係を確認していない
リース、割賦、借入、院長所有、第三者所有などを整理してください。
失敗④ 借入金なら何でも法人へ移せると思っている
借入目的と取得資産との関係を確認する必要があります。
失敗⑤ 残高証明書だけ用意すればよいと思っている
重要なのは法人化後に実際に利用できる運転資金です。
失敗⑥ 税理士と行政書士の役割を混同する
税務上の資産移転・譲渡・減価償却等については税理士、医療法人設立認可申請における財産構成や必要書類については行政書士と、それぞれの専門分野を連携させることが重要です。
都道府県によって医療法人設立の資産基準は違う?
はい。
医療法人制度そのものは医療法に基づく全国共通制度ですが、
設立認可の申請方法、審査資料、運転資金の考え方などについて都道府県ごとの運用差があります。
例えば大阪府は、前述のとおり具体的な運転資金基準を公表しています。
東京都も2026年6月版の「医療法人設立の手引」を公開しており、2026年度第1回受付分から設立認可の仮申請についてオンライン提出が可能となっています。
兵庫県も2026年度から医療法人設立認可申請の電子申請を開始し、2026年3月版の設立手引・Q&Aを公開しています。
つまり医療法人設立では、
数年前のブログ記事ではなく、申請年度・申請自治体の最新手引を確認する
ことが非常に重要です。
医療法人の資金設計は「設立後」から逆算する
医療法人の基金額を決めるときに、
「認可を取るため最低いくら必要か」
だけを考えるのはおすすめしません。
むしろ、
法人化後にどれだけ資金が必要になるか
から逆算すべきです。
例えば、
- 半年後に新しい医療機器を購入する
- 1年後に分院を出す
- スタッフを追加採用する
- テナントを増床する
- 美容医療機器を導入する
という計画があるなら、その資金計画も考えておきます。
医療法人設立時に将来の分院展開まで検討しておくことで、後の資金調達や定款変更も進めやすくなります。
将来、分院を出す場合は基金を多めにした方がいい?
必ずしも、
「分院予定がある=最初から基金を極端に多くする」
必要はありません。
基金制度を採用している医療法人では、設立後に追加で基金を募集する仕組みもあります。
厚生労働省通知では、医療法人が基金を募集する場合、募集総額、現物財産の内容・価額、払込時期等をその都度定める制度が示されています。
したがって、
設立時の資金
と
将来の分院投資資金
を分けて考える方法もあります。
ただし定款、社員総会等の手続き、会計処理などが必要となるため、事前に専門家へ相談してください。
医療法人設立の資産・基金に関するFAQ
Q1. 医療法人設立には最低1,000万円必要ですか?
全国一律の法定最低額として1,000万円が定められているわけではありません。
ただし、大阪府のように「医業費用2か月分または1,000万円のいずれか高い額」という具体的な運転資金基準を設けている自治体があります。
申請先自治体の最新基準を確認してください。
Q2. 基金はいくら必要ですか?
全国一律の最低基金額が定められているわけではありません。
必要な運転資金、法人へ引き継ぐ資産、都道府県の審査基準等を踏まえて決定します。
Q3. 基金と資本金は同じですか?
同じではありません。
株式会社の資本金と似た役割を持つ部分がありますが、基金には返還制度があり、基金額と社員の議決権が比例する仕組みでもありません。
Q4. 基金は将来返してもらえますか?
一定の法令・定款上の条件を満たせば返還可能ですが、自由に返還できるものではありません。
社員総会決議や返還可能額の制限等があります。
Q5. 基金に利息を付けられますか?
基金返還に係る債権へ利息を付けることはできません。
Q6. 現金以外でも基金にできますか?
金銭以外の財産を基金として拠出する制度があります。
ただし、財産評価や専門家による証明等が必要になる場合があります。
Q7. 医療機器を医療法人へ引き継げますか?
条件を満たせば検討できます。
ただし、所有関係、簿価、借入金、リース・割賦の有無等を確認する必要があります。
Q8. 個人クリニックの借入金も医療法人へ移せますか?
取得した医療機器等と紐づく借入金など、一定の場合には引継ぎを検討できます。
ただし、運転資金目的の借入金等は取扱いが異なる場合があります。
自治体・金融機関双方への確認が必要です。
Q9. リース契約は法人名義へ変更できますか?
リース会社との契約変更・承継手続きが必要になる場合があります。
早めにリース会社へ確認してください。
Q10. テナントの保証金は資産になりますか?
契約内容によっては法人へ引き継ぐ財産として扱うことを検討できます。
償却条項等がある場合には、返還される金額を確認する必要があります。
Q11. 医業未収金は法人へ引き継げますか?
取扱いは自治体の審査実務や税務処理等を踏まえて個別に検討する必要があります。
法人化日前後の診療報酬の帰属も含め、税理士等と整理することをおすすめします。
Q12. 法人設立後に基金を追加できますか?
基金制度を採用した医療法人では、法令・定款上の手続きを行って追加募集する方法があります。
将来の設備投資や分院展開と合わせて検討できます。
Q13. 家族から基金を出してもらえますか?
基金の拠出者と社員・理事は必ず一致する仕組みではありません。
ただし、実際の資金関係、法人運営、税務等について確認する必要があります。
Q14. MS法人から資金を入れることはできますか?
形式的な可否だけで判断することはおすすめしません。
営利法人との資金・取引関係が医療法人の非営利性や独立した意思決定に影響しないかを含めて確認する必要があります。
Q15. 一番簡単なのは現金だけで医療法人を設立する方法ですか?
財産評価という意味では現預金の方が整理しやすい場合があります。
しかし、医療機器・借入金・保証金等を個人に残す方が合理的とは限りません。
税務・金融・行政手続きを総合的に判断してください。
医療法人設立の資産・基金でお悩みの先生へ
医療法人設立で、
「基金をいくらにすればいいですか?」
という質問には、本来、一律の答えはありません。
まず確認すべきなのは、
- どの都道府県で設立するか
- 毎月の医業費用はいくらか
- 現在の預金はいくらか
- 医業未収金はいくらか
- 医療機器を誰が所有しているか
- 借入金はいくら残っているか
- リース契約があるか
- テナント保証金があるか
- 法人化後に設備投資を予定しているか
- 将来分院を出す予定があるか
です。
これらを整理することで、
「いくら基金を用意すればよいか」
だけではなく、
「どの資産を法人へ移し、どの負債を引き継ぎ、法人化後のキャッシュフローをどう設計するか」
まで見えてきます。
当事務所では、医療法人・クリニック関係の行政手続きを専門分野として、
医療法人設立
→ 診療所開設
→ 保険医療機関指定
→ 施設基準
→ 分院設立・定款変更
→ 役員・理事長変更
→ 医療法人承継・M&A
まで一連の手続きをサポートしています。
医療法人化をご検討中で、
「基金はいくら必要?」
「借入金があるけれど法人化できる?」
「医療機器を法人へ移した方がいい?」
「自分の県ではいくら運転資金が必要?」
とお悩みの医師・歯科医師の先生は、医療法人設立認可申請の直前ではなく、できるだけ早い段階でご相談ください。
【医療法人設立について相談する】
まとめ|基金額だけでなく「法人化後の資金繰り」まで考える
医療法人設立の資産・基金について、最後に重要なポイントをまとめます。
- 全国一律の「最低資本金○○万円」という制度ではない
- 基金についても全国一律の最低額が決められているわけではない
- 都道府県によって具体的な運転資金基準が異なる
- 大阪府では医業費用2か月分または1,000万円のいずれか高い額を運転資金として求めている
- 現預金以外に医療機器・保証金等を引き継げる場合がある
- 現物財産は評価・専門家証明が必要になる場合がある
- 借入金は取得資産との関係を確認する
- 運転資金目的の借入金と設備取得目的の借入金は性質が異なる
- リース契約・賃貸借契約は相手方との調整も必要
- 基金額と医療法人の議決権は比例しない
- 基金返還には法令・定款上の制限がある
- 基金には利息を付けられない
- 設立後に追加基金を募集する仕組みもある
- 資産・負債・事業計画・予算の整合性が重要
- 法人化後の分院展開まで考えて資金設計することが重要
医療法人設立において本当に重要なのは、
「認可を取るために通帳へいくら入れるか」ではありません。
「法人化した翌日から、安定して診療所を経営していける財産構成になっているか」
です。
基金、現預金、医療機器、医業未収金、借入金、リース等を総合的に整理し、医療法人設立後から将来の分院展開・承継まで見据えた資金計画を作ることをおすすめします。
参考となる公的情報
本記事は、厚生労働省「医療法人の基金について」、医療法・医療法施行規則、各都道府県が公表している医療法人設立関係資料等を基に、2026年8月時点の情報として作成しています。
厚生労働省は、基金について、持分の定めのない社団医療法人の活動原資を調達し、その財産的基礎を維持する制度として整理しています。
大阪府は2026年6月17日更新の「医療法人の財産」で、拠出財産、運転資金、資産・負債の引継ぎ、基金制度・基金返還について具体的な取扱いを公表しています。
東京都は2026年6月版の医療法人設立手引を、兵庫県は2026年3月版の一人医師医療法人設立認可手引等を公開しています。申請にあたっては、必ず主たる事務所所在地を管轄する都道府県の最新手引・審査基準をご確認ください。
※本記事は一般的な制度・実務上の考え方を解説するものであり、個別の医療法人設立認可の可否や税務処理を保証するものではありません。個別案件については申請先行政庁、行政書士、税理士、金融機関等への確認が必要です。
