【2026年最新版】医療法人M&Aのデューデリジェンス完全ガイド|買主が確認すべき30項目・行政DD・持分・社員・許認可まで

「医療法人を買収したいのですが、何を確認すればいいですか?」

「株式会社のM&Aと同じデューデリジェンスで大丈夫でしょうか?」

「決算書と契約書だけ確認すれば医療法人M&AのDDは十分ですか?」

「社員名簿や過去の社員総会議事録まで確認する必要がありますか?」

「保険医療機関指定や施設基準もM&A前にチェックするのでしょうか?」

「出資持分・基金・MS法人との取引はどこまで確認すべきですか?」

医療法人M&Aで、買主が最も時間をかけるべき工程の一つが**デューデリジェンス(DD)**です。

厚生労働省の「医療施設の合併、事業譲渡に係る調査研究」では、デューデリジェンスについて、

買収対象法人の価値やリスクを適切に評価するために行う調査

と整理され、

  • 事業DD
  • 法務DD
  • 財務DD
  • 税務DD
  • 人事DD
  • 不動産DD
  • 環境DD

などが例示されています。

しかし、医療法人M&Aではこれだけでは不十分です。

なぜなら医療法人は、

医療法に基づく非営利法人

であり、

法人運営そのものが、

  • 定款
  • 社員総会
  • 理事会
  • 理事長
  • 医療法人所管行政庁

の監督下にあるだけでなく、

各クリニック・病院についても、

  • 開設許可
  • 管理医師
  • 保険医療機関指定
  • 施設基準
  • 公費指定
  • 医療機能情報
  • X線等の設備関係

など、多数の行政手続きが重なっているからです。

厚生労働省の医療法人M&A調査では、社団医療法人におけるM&Aのクロージングについて、出資持分等の移転だけでなく、経営権の移転は社員の入退社によって行われると整理されています。

つまり、

「持分を買ったから医療法人を取得した」

とは必ずしもいえません。

また、

「理事長を変えたからM&A完了」

とも限りません。

医療法人M&Aでは、

財産権

と、

ガバナンス

と、

医療行政上の許認可・届出

をそれぞれ調査する必要があります。

そこで本記事では、通常のDDに加えて、

「行政DD」

という観点から、医療法人M&Aで買主がクロージング前に確認すべき30項目を詳しく解説します。



目次

医療法人M&Aを検討している買主の方へ

医療法人M&Aで最も危険なのは、

「法人格さえ取得できれば、今までと同じように診療できる」

と思い込むことです。

例えばM&A後に、

  • 理事の任期が数年前に切れていた
  • 社員名簿と実際の社員が一致していない
  • 分院が定款へ正しく記載されていない
  • 管理医師が理事になっていない
  • 保険医療機関の届出内容と現在の法人代表者が一致していない
  • 施設基準の届出内容が現況と合っていない
  • MS法人への高額な業務委託契約が残っている
  • 旧理事長個人所有の不動産が医療法人所有だと思っていた

と判明すると、

買収価格だけではなく、

M&A後の事業継続そのもの

に影響する場合があります。

したがって医療法人M&Aでは、

財務DD

法務DD

税務DD

労務DD

行政DD

を一体として実施することをおすすめします。



医療法人M&Aのデューデリジェンスとは?

デューデリジェンスとは、買主がM&A契約を締結・実行する前に、対象法人について詳細な調査を行うことです。

厚生労働省の医療法人M&A調査でも、DDは買収対象法人の価値やリスクを適切に評価するための調査と位置付けられています。

目的は大きく3つあります。

① 本当に買ってよい医療法人か確認する

② M&A価格が適切か確認する

③ クロージング後に発生するリスクを把握する

です。


医療法人M&Aでは「行政DD」が重要

一般企業M&Aでは、

  • 財務
  • 税務
  • 法務
  • 労務

のDDが中心です。

しかし医療法人の場合には、それに加えて、

医療法人行政と医療機関行政が適切に処理されているか

を確認する必要があります。

本記事では、この調査を分かりやすく、

行政DD

と呼びます。

行政DDでは、

医療法人そのもの

と、

法人が開設する病院・診療所

を分けて確認します。


医療法人M&AのDDを5分野に分ける

全体像を整理すると次のようになります。

分野主な確認内容
法人・行政DD定款、社員、役員、許認可、行政届出
財務・税務DD決算、債務、税務、持分、基金
事業DD患者、売上、診療科、医師依存度
法務DD契約、訴訟、MS法人、不動産
人事労務DD医師、看護師、職員、残業・退職

特に医療法人では、

法人・行政DD

を最初に行うことをおすすめします。


医療法人M&Aで買主が確認すべき30項目

ここから具体的に解説します。


① 現行定款

最初に確認すべきなのが現行定款です。

確認するのは、

  • 法人名称
  • 主たる事務所
  • 開設している診療所・病院
  • 附帯業務
  • 社員資格
  • 社員総会
  • 理事定数
  • 監事定数
  • 役員任期
  • 理事長選出方法
  • 持分
  • 基金
  • 解散時残余財産

などです。

東京都の2026年版「医療法人運営の手引」でも、定款変更時には現行制度に適合しているか、役員定数等に変更がないかなどを確認するよう案内しています。


② 過去の定款変更認可

現在の定款だけでは不十分です。

過去に、

  • 分院追加
  • 分院廃止
  • 診療所移転
  • 法人名称変更
  • 理事定数変更
  • 附帯業務追加
  • 持分なし移行

等が行われている可能性があります。

そのため、

過去の定款変更認可書

と、

現在の定款

が連続しているか確認します。


③ 現在の社員名簿

医療法人M&Aで非常に重要です。

社員は通常、登記簿からは分かりません。

そのため、

社員名簿

を必ず取得・確認してください。

医療法人の経営権は社員総会のガバナンスと密接に関係し、厚生労働省のM&A調査でも、社団医療法人の経営権移転について社員の入退社によるものと整理されています。


④ 過去の社員総会議事録

社員名簿だけでは、

その社員が適法に加入したのか

までは分からないことがあります。

そこで、

  • 社員入社
  • 社員退社
  • 理事選任
  • 監事選任
  • 定款変更
  • 重要財産処分

等について、過去の社員総会議事録を確認します。

東京都は2026年版運営手引で、社員総会・理事会議事録について、実際に法人内で意思決定済みであることを確認する必要があると案内しています。


⑤ 理事・監事の構成

現在の、

  • 理事
  • 理事長
  • 監事

を確認します。

登記事項証明書だけではなく、

役員変更届

や、

役員名簿

まで確認してください。

厚生労働省の医療法人運営管理指導要綱では、理事・監事・理事長等の法人機関が適切に構成されているかが確認事項とされています。


⑥ 役員任期

非常に見落とされやすいポイントです。

医療法人の役員任期は2年を超えることができません。

そのため、

現在登記されている理事長が、本当に有効な任期中なのか

を確認します。

過去に重任手続きが漏れている場合、M&Aクロージング前に是正が必要になる可能性があります。


⑦ 理事長の登記

理事長は医療法人の代表者です。

確認するのは、

  • 現在の理事長
  • 就任日
  • 重任日
  • 登記日
  • 過去の理事長変更

などです。

M&A後の新理事長就任に当たり、過去の重任登記が未処理であることが判明すると、司法書士との調整が必要になります。


⑧ 管理医師と理事の整合性

医療法人が開設する病院・診療所等の管理者は原則として理事へ加える必要があります。

厚生労働省の運営管理指導要綱でも、法人が開設する病院等の管理者が理事へ加えられているかが確認事項となっています。

したがって、

各院の管理医師一覧

と、

理事名簿

を突合します。


⑨ 医療法人が開設する全診療所・分院

対象法人が実際に何院運営しているか確認します。

例えば、

定款:

本院
分院A

実際:

本院
分院A
分院B

となっていたら問題です。

逆に、

定款には分院Bが残っているが、

実際には数年前に閉院済み、

というケースもあります。


⑩ 診療所の開設許可・開設届関係

各診療所について、

  • 開設許可
  • 開設届
  • 変更届
  • 廃止関係

等が適切に処理されているか確認します。

特に、

  • 移転
  • 名称変更
  • 管理者変更
  • 診療科変更

の履歴がある場合には注意します。


⑪ 保険医療機関指定

保険診療を行うクリニックなら非常に重要です。

各院について、

  • 保険医療機関指定
  • 医療機関コード
  • 名称
  • 所在地
  • 開設者
  • 法人代表者
  • 管理者

等を確認します。

関東信越厚生局は、保険医療機関の指定申請事項に変更があった場合、速やかな届出が必要と案内しています。


⑫ 保険医療機関の変更届履歴

例えば、

  • 理事長変更
  • 管理者変更
  • 法人名称変更
  • 診療所名称変更

等が過去にあった場合、

厚生局側の届出も適切に処理されているか確認します。

医療法人の役員変更だけ済ませ、

厚生局が旧理事長のまま

という状態は避ける必要があります。


⑬ 施設基準

保険診療収入へ直接影響するため非常に重要です。

現在算定している施設基準を一覧化します。

例えば、

  • 在宅療養支援診療所
  • 医療DX関係
  • 外来感染対策
  • 時間外対応
  • 各種専門加算
  • 歯科施設基準

などです。

厚生局では保険医療機関の指定・施設基準等について各種申請・届出制度を設けています。


⑭ 施設基準の実態充足

届出書があるだけでは足りません。

実際に、

現在も要件を満たしているか

を確認します。

例えば、

「常勤医師○名」

を前提とする施設基準なのに、その医師が既に退職している、

という場合には算定リスクがあります。


⑮ 出資持分

持分あり医療法人なら最重要項目の一つです。

確認するのは、

  • 出資者
  • 出資額
  • 持分割合
  • 過去の持分譲渡
  • 相続
  • 放棄
  • 払戻し

です。

持分譲渡と社員変更は別問題なので、

出資者名簿と社員名簿を別々に確認

します。


⑯ 持分評価額

持分あり医療法人を取得する場合、

設立時の出資額だけを見てはいけません。

長年の利益蓄積・不動産含み益等によって、現在の持分価値が大きく上昇している場合があります。

M&A価格、税務上の時価、売主の譲渡所得等について税理士・公認会計士等と確認します。


⑰ 基金・基金返還請求権

持分なし基金拠出型医療法人の場合には、

  • 基金残高
  • 基金拠出者
  • 基金返還請求権者
  • 過去の譲渡
  • 代替基金

等を確認します。

旧理事長が退社しても基金返還請求権が旧理事長へ残る場合があるため、

M&A後の財産関係

を整理します。


⑱ 事業報告書等の提出状況

医療法人は毎会計年度、事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、監査報告書等を作成・届け出る制度があります。

厚生労働省は事業報告書等・経営情報等の報告について現在も医療法人経営情報データベースシステム(MCDB)等を案内しています。

過年度の未提出がないか確認してください。


⑲ 関係事業者との取引報告

MS法人等との取引がある場合、特に重要です。

厚生労働省は、一定の関係事業者との取引について、医療法人の事業報告書等の一部として報告する制度を設けています。

DDでは、

決算書の金額

だけでなく、

関係事業者との取引報告

も確認すると、関連当事者取引を把握しやすくなります。


⑳ MS法人との契約

医療法人M&Aでは非常に重要です。

例えば旧理事長が所有するMS法人から、

  • 建物
  • 医療機器
  • 人材
  • 広告
  • 事務代行
  • 経営支援

等を提供しているケースがあります。

M&A後にその契約を終了すると、

医療法人単体では事業が成立しない

可能性があります。


㉑ 不動産の所有関係

診療所の土地・建物が、

  • 医療法人所有
  • 理事長個人所有
  • MS法人所有
  • 第三者所有

のどれなのか確認します。

医療法人のM&Aだからといって、

診療所不動産まで当然に取得できるわけではありません。


㉒ 賃貸借契約

テナント型クリニックなら、

  • 契約期間
  • 賃料
  • 更新
  • 解約
  • 敷金
  • 保証金
  • 名義
  • M&A・代表者変更条項

等を確認します。

理事長変更や経営権変更を貸主への通知・承諾事項としている契約もあり得るため、個別契約を確認します。


㉓ 借入金・個人保証

医療法人の借入金について、

  • 金融機関
  • 残高
  • 金利
  • 返済条件
  • 担保
  • 個人保証

を確認します。

特に旧理事長が個人保証している場合、

M&Aによって自動的に保証が外れるわけではありません。

金融機関との事前調整が重要です。


㉔ 医療機器・リース

高額機器について、

  • 医療法人所有
  • リース
  • MS法人所有
  • 理事長個人所有

を確認します。

CT、MRI、レーザー、歯科ユニット等について、

対象法人の資産だと思っていたら実はリースだった

ということがないよう確認します。


㉕ 行政指導・立入検査・是正事項

重要な行政DD項目です。

過去に、

  • 都道府県
  • 保健所
  • 厚生局

から、

指導・照会・是正依頼等を受けていないか確認します。

厚生労働省の医療法人運営管理指導要綱でも、医療法人の組織・運営・業務等について行政による確認項目が体系化されています。


㉖ 医療事故・訴訟・患者クレーム

法人そのものを承継するM&Aでは、

過去の法人リスクが残る

ことを前提に調査します。

  • 医療訴訟
  • 損害賠償請求
  • 医療事故
  • 大型クレーム
  • 弁護士対応案件

を確認します。

医療事故保険・賠償責任保険の契約内容も確認してください。


㉗ 医師・歯科医師の雇用・業務委託

医療法人の価値は医師人材に大きく依存します。

確認するのは、

  • 常勤医師
  • 非常勤医師
  • 雇用契約
  • 業務委託
  • 勤務日
  • 報酬
  • 退職予定

です。

M&A後に現院長・主要勤務医が全員辞めるなら、

現在の売上を維持できるとは限りません。


㉘ 看護師・スタッフの労務

  • 雇用契約書
  • 就業規則
  • 給与
  • 残業
  • 有給休暇
  • 社会保険
  • 退職金
  • 未払残業

等を調査します。

財務DDで未払残業債務が見落とされないよう、労務DDと連携してください。


㉙ 売上・患者・院長依存度

事業DDです。

確認するのは、

  • 患者数
  • 新患数
  • 再診率
  • 保険・自費割合
  • 診療科別売上
  • 医師別売上

です。

特に重要なのが、

現理事長が退職した後も売上が残るか

です。

美容・歯科・自由診療等では院長個人への依存度がM&A価値へ大きく影響する場合があります。


㉚ クロージング後に必要な行政手続き

最後に、

M&Aした翌日から何をするか

までDD段階で整理します。

例えば、

  • 新社員入社
  • 旧社員退社
  • 新理事・監事選任
  • 新理事長選出
  • 理事長変更登記
  • 役員変更届
  • 登記事項変更届
  • 管理医師変更
  • 厚生局変更
  • 銀行変更
  • 公費関係

です。

ここまで設計して初めて、

行政DDがクロージング設計につながります。


30項目を一覧で見る

No.DD項目重要度
1現行定款★★★
2過去の定款変更★★★
3社員名簿★★★
4社員総会議事録★★★
5理事・監事★★★
6役員任期★★★
7理事長登記★★★
8管理医師・理事★★★
9本院・分院一覧★★★
10開設許可等★★★
11保険医療機関指定★★★
12厚生局変更履歴★★★
13施設基準★★★
14施設基準実態★★★
15出資持分★★★
16持分評価★★★
17基金★★☆
18事業報告書★★☆
19関係事業者取引★★★
20MS法人契約★★★
21不動産★★★
22賃貸借★★★
23借入・保証★★★
24医療機器★★☆
25行政指導★★★
26医療事故・訴訟★★★
27医師契約★★★
28労務★★★
29患者・収益力★★★
30クロージング後手続き★★★

行政DDで最初に取り寄せたい10資料

時間が限られている場合、まず次を確認してください。

1. 現行定款

2. 定款変更認可書一式

3. 現社員名簿

4. 直近数回の社員総会議事録

5. 役員名簿・役員変更届

6. 履歴事項全部証明書

7. 診療所開設許可・届出関係

8. 保険医療機関指定関係

9. 施設基準一覧

10. 直近の事業報告書等

この10点だけでも、対象法人の行政状態がかなり見えてきます。


なぜ「履歴事項全部証明書だけ」では足りない?

医療法人では、

社員が通常登記事項ではない

ためです。

例えば登記簿を見れば、

理事長A

ということは分かっても、

社員総会を、

A・B・C

が構成しているのか、

D・E・F

が構成しているのかは分かりません。

厚生労働省のM&A調査が医療法人の経営権移転を社員の入退社によるものとして整理していることからも、社員確認が重要であることが分かります。


持分100%取得だけではDDは終わらない

持分あり医療法人で、

売主Aが出資持分100%

だったとしても、

社員が、

A
B
C

なら、

Aの持分を買っただけでB・Cの社員資格が消えるわけではありません。

したがって、

財産権DD

と、

ガバナンスDD

を分けます。


持分なし医療法人でもDDは必要?

もちろん必要です。

むしろ持分なし医療法人では、

誰が社員なのか

がより重要になります。

出資持分という分かりやすい財産権がないため、

社員・理事・理事長というガバナンスを明確に確認してください。


基金返還請求権を忘れない

基金拠出型医療法人では、

「持分がないから財産権DDは不要」

ではありません。

旧理事長等に、

基金返還請求権

が残っている可能性があります。

M&A後に旧オーナーとの財産関係を完全に切り離したい場合には、その処理まで確認します。


行政DDでよく見つかる問題① 社員名簿が古い

例えば社員名簿に、

  • 10年前に死亡した人
  • 既に退社した元理事
  • 連絡の取れない人物

が残っているケースです。

まず実際の社員資格を整理します。


よく見つかる問題② 役員任期切れ

同じ理事長が長期間続いているため、

重任手続きをしていない

ケースです。

M&A前に過去の議事録・届出・登記を整理する必要があります。


よく見つかる問題③ 分院管理医師が理事ではない

管理医師変更後に役員変更を忘れているケースです。

厚生労働省の運営管理指導要綱でも、病院等の管理者が理事へ加えられているかが確認されています。


よく見つかる問題④ 定款と実態が違う

例えば、

定款:Aクリニック

実態:Bクリニック

となっているケースです。

過去の名称変更・移転時の手続きを確認します。


よく見つかる問題⑤ 厚生局届出だけ古い

法人側では理事長を変更したのに、

保険医療機関側では旧代表者情報が残っているケースです。

関東信越厚生局は指定申請事項変更時には速やかな届出を求めています。


よく見つかる問題⑥ 施設基準の人員要件不足

届出当時は要件を満たしていても、

医師・看護師退職等によって現在は要件を満たしていない可能性があります。

これは保険診療収入にも影響し得るため、買主にとって重要です。


よく見つかる問題⑦ MS法人への高額支払い

例えば、

医療法人売上3億円

に対して、

MS法人へ毎年8,000万円の業務委託料、

というケースです。

M&A後にMS法人契約を終了できるのか、実際の業務内容に見合った契約なのか確認します。

関係事業者との一定の取引については医療法人の事業報告書等で報告する制度があります。


よく見つかる問題⑧ 診療所不動産が医療法人所有ではない

買主が、

「土地建物込みで医療法人を買う」

と思っていたところ、

実際は旧理事長個人所有、

というケースです。

不動産は必ず登記事項証明書等で確認してください。


よく見つかる問題⑨ 個人保証

医療法人の銀行借入を旧理事長が個人保証しているケースです。

クロージング時に、

  • 保証解除
  • 新保証
  • 借換え

等を金融機関と調整します。


よく見つかる問題⑩ 主要医師が退職する

現在の利益が、

売主医師1人の診療

によって生み出されている場合があります。

売主がクロージング翌日に退職すれば、売上が大きく低下する可能性があります。

財務数値だけでは見えないため、事業DDが重要です。


行政DDで問題が見つかったらM&Aを中止する?

必ずしも中止とは限りません。

問題は、

そのリスクをクロージング前に是正できるか

です。

例えば、

役員変更届漏れ

なら、

クロージング前に適切な是正を検討できます。

一方、

重大な行政処分リスクや、

保険請求の大規模な問題がある場合には、

M&A価格・契約条件そのものを見直す必要があるかもしれません。


DD結果をM&A契約へ反映する

DDは、

問題を発見して終わり

ではありません。

例えば問題が見つかったら、

クロージング前提条件

「売主がクロージング前に役員変更届を完了する」

表明保証

「対象法人に未開示の行政処分・指導が存在しない」

補償

「クロージング前の特定問題について売主が一定範囲で補償する」

など、最終契約へ反映することを検討します。

契約条項については弁護士と連携してください。


行政DDとクロージングをつなげる

理想的な流れは、

DD

問題点一覧

クロージング前是正事項

最終契約

社員・役員変更設計

クロージング

登記・行政届出

です。

行政DDが独立した調査で終わらず、

クロージング手順書

までつながることが重要です。


医療法人M&Aのクロージングで確認すること

例えば社団医療法人を法人ごと承継する場合、

新社員加入

社員総会

新理事・監事選任

新理事会

新理事長選出

旧社員・旧役員の退社・退任

理事長変更登記

役員変更届

厚生局等の変更

という流れを検討します。

実際の順序は現行定款・M&A契約等に合わせて設計してください。


医療法人M&Aの行政DD FAQ

Q1. 医療法人M&AでもDDは必要ですか?

必要です。

厚生労働省のM&A調査でも、DDは買収対象法人の価値・リスクを評価するために行う調査と整理されています。


Q2. 決算書だけ確認すれば十分ですか?

不十分です。

医療法人では定款、社員、役員、許認可、保険医療機関指定等も確認する必要があります。


Q3. 行政DDとは何ですか?

本記事では、医療法人・医療機関について、定款、社員、役員、開設許可、保険指定、施設基準、各種届出等が適切に処理されているか確認する調査を「行政DD」と呼んでいます。


Q4. 医療法人の経営権は登記簿を見れば分かりますか?

登記簿だけでは十分ではありません。

社員は通常登記事項ではなく、社団医療法人では社員総会のガバナンスが重要です。


Q5. 社員名簿は必ず確認しますか?

M&Aでは特に重要です。

厚生労働省のM&A調査でも、医療法人の経営権移転は社員の入退社によるものとして整理されています。


Q6. 出資持分100%を買えば社員名簿を見なくてもいいですか?

おすすめできません。

出資持分と社員資格は別です。


Q7. 持分なし医療法人では何を確認しますか?

特に社員・理事・理事長等のガバナンスを確認します。

基金がある場合には基金返還請求権も確認します。


Q8. 役員任期もDD対象ですか?

はい。

役員重任漏れがないか確認します。


Q9. 分院長が理事かどうかも確認しますか?

はい。

法人開設の病院・診療所等の管理者は原則として理事へ加える必要があるため、管理医師一覧と理事名簿を突合します。


Q10. 保険医療機関指定も確認しますか?

必須に近い重要項目です。

現在の開設者、代表者、管理者等との整合を確認します。


Q11. 理事長変更を厚生局へ届けていなかったら?

現在の届出内容を確認し、クロージング前または後に適切な是正手続きを検討します。

関東信越厚生局は指定申請事項変更時に速やかな届出を求めています。


Q12. 施設基準もDDしますか?

非常に重要です。

施設基準収入がM&A後も維持できるかを確認します。


Q13. 届出書があれば施設基準は問題ありませんか?

現在も実際に要件を満たしているか確認する必要があります。


Q14. MS法人も確認しますか?

確認すべきです。

医療法人と関係事業者との一定の取引については報告制度も設けられています。


Q15. 事業報告書は確認できますか?

DDでは売主から直近数年分の事業報告書等を提出してもらうことをおすすめします。

医療法人は毎会計年度、事業報告書等を所管行政庁へ届け出る制度があります。


Q16. 不動産登記も確認しますか?

必要です。

診療所建物が医療法人所有とは限りません。


Q17. 個人保証も確認しますか?

確認してください。

旧理事長の個人保証をM&A後どう処理するか金融機関と協議します。


Q18. 医療事故も対象ですか?

法務DDの重要項目です。

過去・現在の訴訟、請求、保険等を確認します。


Q19. M&A後も主要医師が残るか確認しますか?

非常に重要です。

現在利益を生んでいる医師が退職すると、M&A後の収益が変わる可能性があります。


Q20. 売主理事長が管理医師なら?

売主退任後の新管理医師を確保できるか確認します。


Q21. DDで問題が見つかったら買えませんか?

問題の内容によります。

クロージング前是正、価格調整、表明保証等で対応できる場合もあります。


Q22. 行政DDは行政書士へ依頼できますか?

医療法人の定款、社員・役員、定款変更、開設許可、管理者、保険医療機関指定等の行政手続きに関する調査・確認については、医療法人・医療手続きを取り扱う行政書士へ相談できます。

法務DDは弁護士、財務・税務DDは公認会計士・税理士、労務DDは社会保険労務士等と連携して進めることが重要です。


買主向けDD資料請求リスト

実際に医療法人M&AのDDを開始する場合、例えば以下の資料を依頼します。

法人関係

  • 現行定款
  • 過去の定款変更認可書
  • 履歴事項全部証明書
  • 社員名簿
  • 役員名簿
  • 社員総会議事録
  • 理事会議事録
  • 役員変更届

医療機関関係

  • 各院の開設許可・届出
  • 管理者関係資料
  • 保険医療機関指定
  • 厚生局変更届
  • 施設基準一覧
  • 公費指定一覧

財産関係

  • 出資者名簿
  • 基金関係書類
  • 不動産資料
  • 医療機器一覧
  • リース契約
  • 借入金一覧

財務・税務

  • 過去3~5期程度の決算書
  • 事業報告書
  • 税務申告書
  • 固定資産台帳
  • 関係事業者との取引資料

契約・人事

  • 賃貸借契約
  • MS法人契約
  • 医師契約
  • 従業員名簿
  • 就業規則
  • 訴訟・紛争資料

売主側もM&A前に「セルフDD」を行う

DDは買主だけのものではありません。

売主もM&A開始前に、

セルフDD

を行うことをおすすめします。

例えば、

「社員名簿が古い」

「役員重任が抜けている」

「分院管理医師が理事になっていない」

という問題を買主から初めて指摘されれば、

買主の不信感

につながります。

先に発見して適切に是正しておけば、交渉をスムーズに進めやすくなります。


売主側セルフDDで特に確認する10項目

  1. 現行定款は最新か
  2. 社員名簿は正しいか
  3. 役員任期は切れていないか
  4. 理事長登記は最新か
  5. 全分院が定款と一致しているか
  6. 管理医師は全員理事か
  7. 厚生局届出は最新か
  8. 施設基準を現在も満たしているか
  9. MS法人契約は説明できるか
  10. 持分・基金関係は整理されているか

この10項目だけでも先に整理すると、M&Aの透明性は大きく高まります。


医療法人M&Aで「行政DD」を行う意味

医療法人M&Aでは、

決算書がきれいで利益が出ている

だけでは安心できません。

なぜなら、

法人の利益を生み出している前提となる、

医療法人としてのガバナンス

と、

医療機関としての許認可・保険診療体制

が適切でなければ、買収後の事業継続に影響するからです。

厚生労働省は、医療法人の健全な運営確保のため、事業報告書等の届出制度や運営管理指導の枠組みを設けています。

だからこそ、医療法人M&Aでは、

財務DDの横に「行政DD」を置く

ことが重要です。


医療法人M&Aを検討している買主・売主の方へ

医療法人M&Aで本当に確認すべきなのは、

「いくら儲かっているか」だけではありません。

買主側は、

その利益を生んでいる医療法人・診療所が、クロージング後も適切に運営できる状態なのか

を確認する必要があります。

そのためには、

定款

社員

理事・理事長

持分・基金

診療所開設

管理医師

保険医療機関指定

施設基準

MS法人・不動産・契約

まで確認する必要があります。

当事務所では、医療法人・クリニック関係の行政手続きを専門分野として、

医療法人行政DD
→ 現行定款確認
→ 社員・役員確認
→ 持分・基金関係確認
→ 開設許可・保健所関係確認
→ 保険医療機関指定確認
→ クロージング前是正事項整理
→ 社員・役員変更設計
→ 理事長変更
→ 司法書士との登記連携
→ 保健所・厚生局等のクロージング後手続き

までサポートしています。

「医療法人を買いたい」

「M&A仲介会社から案件を紹介された」

「買収前に行政面だけ専門家へ確認してほしい」

「売却前に自法人の問題点を整理したい」

「社員・持分・基金の関係がよく分からない」

「クロージング日にどの議事録を作ればよいか分からない」

という場合には、最終契約締結前のDD段階からご相談ください。

【医療法人M&A・行政DDについて相談する】


まとめ|医療法人M&Aでは「財務DD+行政DD」が重要

最後に重要なポイントを整理します。

  1. DDは買収対象法人の価値・リスクを評価する調査
  2. 医療法人でも財務・法務・税務・人事等のDDが必要
  3. さらに医療法人特有の行政DDが重要
  4. 現行定款を確認する
  5. 過去の定款変更履歴を確認する
  6. 社員名簿を確認する
  7. 社員は通常登記簿だけでは確認できない
  8. 医療法人の経営権と社員構成は密接に関係する
  9. 社員総会議事録を確認する
  10. 理事・監事を確認する
  11. 役員任期切れを確認する
  12. 理事長登記を確認する
  13. 管理医師と理事名簿を突合する
  14. 全本院・分院を確認する
  15. 開設許可・届出を確認する
  16. 保険医療機関指定を確認する
  17. 厚生局変更届を確認する
  18. 施設基準と現在の実態を確認する
  19. 持分ありなら出資持分を確認する
  20. 持分評価を確認する
  21. 基金拠出型なら基金返還請求権を確認する
  22. 事業報告書等を確認する
  23. 関係事業者との取引を確認する
  24. MS法人契約を確認する
  25. 不動産・賃貸借を確認する
  26. 借入金・個人保証を確認する
  27. 医療機器・リースを確認する
  28. 行政指導・医療事故・訴訟を確認する
  29. 医師・職員・患者・収益力を確認する
  30. DD段階でクロージング後の行政手続きまで設計する

医療法人M&Aで重要なのは、

「買えるかどうか」

だけではありません。

本当に確認すべきなのは、

「買った翌日から、その医療法人・クリニックを問題なく運営できるか」

です。

財務DDで、

いくらの価値があるか

を調べ、

法務DDで、

どんな契約・法的リスクがあるか

を調べ、

行政DDで、

医療法人・医療機関として適切な状態なのか

を確認する。

この3つを組み合わせることが、医療法人M&Aを安全に進める重要なポイントです。


参考となる公的情報・一次情報

本記事は、厚生労働省「医療施設の合併、事業譲渡に係る調査研究」「医療法人運営管理指導要綱」「医療法人における事業報告書等の様式について」、東京都「医療法人運営の手引(令和8年4月版)」、地方厚生局の保険医療機関指定関係資料等を基に、2026年8月時点の制度・行政実務を整理しています。

厚生労働省の医療法人M&A調査では、デューデリジェンスを買収対象法人の価値・リスクを適切に評価するための調査とし、事業・法務・財務・税務・人事・不動産・環境等を例示しています。また社団医療法人のM&Aにおける経営権移転について、社員の入退社により行われると整理しています。

厚生労働省の医療法人運営管理指導要綱では、社員総会、理事・監事、理事長、病院・診療所等の管理者など、医療法人の組織・運営について行政上確認すべき事項が体系的に示されています。

東京都の「医療法人運営の手引(令和8年4月版)」では、社員総会・理事会議事録について法人内で実際に意思決定済みであることを確認する必要があることや、定款・役員定数等の確認事項が案内されています。

厚生労働省は、医療法人について毎会計年度の事業報告書等・経営情報等の報告制度を設け、2026年4月以降も医療法人経営情報データベースシステム(MCDB)等による報告を案内しています。

また、関係事業者との一定の取引については事業報告書等の一部として報告する制度が設けられており、MS法人等との関連当事者取引を確認する際の重要な資料になります。

地方厚生局は、保険医療機関の指定申請事項に変更が生じた場合に速やかな届出を求めており、2026年現在も保険医療機関指定・変更・オンライン資格確認等について各種申請・届出制度を案内しています。

※本記事でいう「行政DD」は、医療法人M&Aにおいて定款・社員・役員・医療機関許認可・保険医療機関指定等の行政面を調査するという実務上の整理です。具体的な法務DDは弁護士、財務・税務DDは公認会計士・税理士、労務DDは社会保険労務士、医療法人・医療機関の行政手続きについては医療法人業務を取り扱う行政書士等と連携して実施してください。


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この記事を書いた人

カミーユ行政書士事務所 代表・行政書士 井上卓也
慶應義塾大学卒業後、東証プライム上場企業を経て行政書士事務所を開業。300社以上の実績。医療法人関係、補助金申請に専門特化。趣味は週7日の筋トレ。

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