医療法人を設立するときに、多くの医師・歯科医師の先生が迷うのが、
「社員と理事は何が違うのですか?」
「妻や子どもを社員・理事にできますか?」
「理事は3人必要ですか?」
「監事は税理士にお願いすればいいですか?」
「MS法人の社長を理事にしても大丈夫ですか?」
「分院長は理事にしなければならないのでしょうか?」
といった社員・理事・監事などの人的構成です。
医療法人では、株式会社とは異なる独特のガバナンス制度が設けられています。
特に注意したいのが、
「社員」=従業員ではない
ということです。
社団医療法人における「社員」は、社員総会を構成し、医療法人の重要事項を決定する立場です。
一方、「理事」は医療法人の業務執行を担う役員です。
そして「監事」は、理事の業務執行や医療法人の財産状況を監査する立場にあります。
この3者は役割がまったく異なります。
さらに医療法人では非営利性・独立性が重視されるため、
- 理事長の親族
- MS法人の役員
- 医療法人と取引している会社の役員
- 顧問税理士
- 顧問公認会計士
- 顧問弁護士
などを誰でも自由に役員へ選任できるとは限りません。
実際、大阪府は2026年7月更新の案内で、医療法人と取引関係にある営利法人の役員について、医療法人役員への就任は原則認められないとしています。また監事について、理事の親族や医療法人と取引・顧問関係にある者の就任は適当ではないとしています。
兵庫県ではさらに具体的に、理事と三親等以内の親族や、その医療法人の顧問である税理士、公認会計士、弁護士等を監事に就任させることは原則認められないとしています。
つまり医療法人の人的構成は、
「人数だけそろえればいい」
というものではありません。
本記事では、医療法人・クリニック関係の行政手続きを専門的に取り扱う行政書士の立場から、
- 医療法人の社員とは何か
- 社員と従業員の違い
- 社員と理事の違い
- 理事・理事長の役割
- 監事の役割
- 社員・理事・監事は何人必要か
- 院長は理事にしなければならないか
- 分院長は理事になるのか
- 配偶者・子ども・親族を選任できるか
- 税理士を監事にできるか
- MS法人関係者を社員・理事・監事にできるか
- 医療法人M&A・承継で社員が重要になる理由
- よくある失敗
まで、2026年最新の公的情報を踏まえて詳しく解説します。
医療法人の社員・理事・監事について相談したい先生へ
医療法人設立で非常によくあるのが、
「とりあえず家族や知人で人数をそろえました」
というケースです。
しかし、これはおすすめできません。
医療法人設立後、社員は社員総会で法人の重要事項を決定し、理事は実際に法人の運営を行います。
さらに将来、
- 分院を開設する
- 理事長を変更する
- 子どもへ承継する
- 第三者へ医療法人を譲渡する
- 医療法人M&Aを行う
となった場合、設立時に誰を社員・理事にしたかが大きく影響することがあります。
「妻を社員にして大丈夫?」
「親を監事にできる?」
「税理士に監事を頼んでいい?」
「MS法人の社長を理事にしたい」
といった疑問がある場合は、人数を確定する前に専門家へ相談することをおすすめします。
医療法人の「社員」とは?
まず一番重要なところから説明します。
医療法人の社員は「従業員」ではない
一般企業では、
「社員=会社で働いている従業員」
という意味で使われます。
しかし、社団医療法人の「社員」は全く意味が違います。
社員とは、
社団医療法人そのものを構成するメンバー
です。
そして社員によって構成される最高意思決定機関が社員総会です。
東京都も医療法人の社員について、従業員とは異なり、社員総会において法人運営の重要事項について議決権等を行使する者と説明しています。さらに、実際に法人の意思決定に参画できない者を名目的に社員へ選任することは適当ではないとしています。
医療法人の社員は登記事項ではありませんが、社員総会を構成する重要な存在です。
社員の入社・退社を行う場合には、定款に基づく手続きや社員名簿の管理が必要になります。
具体的な変更方法については「医療法人の社員変更完全ガイド」で詳しく解説しています。
社員・理事・監事の違いを簡単に比較
まず全体像を表で整理します。
| 区分主な役割主な会議・権限 | ||
|---|---|---|
| 社員 | 医療法人の構成員 | 社員総会で重要事項を決定 |
| 理事 | 医療法人の業務執行を担う役員 | 理事会で業務執行を決定 |
| 理事長 | 医療法人を代表する理事 | 法人を代表し業務を総理 |
| 監事 | 法人の業務・財産状況等を監査 | 理事会への出席、監査報告等 |
| 職員 | 医療法人に雇用され勤務する人 | 法人内部で業務を行う |
このうち、
社員と職員は全く別物
です。
また、
社員=理事
でなければならないわけでもありません。
同じ人が社員と理事を兼ねるケースは多いですが、法律上・制度上の役割は別です。
医療法人の社員は何を決める?
社員は社員総会に出席し、医療法人に関する重要事項を決定します。
具体的には、
- 理事・監事の選任
- 役員の解任
- 定款変更
- 事業計画
- 予算
- 決算
- 医療法人の重要な資産処分
- 分院開設
- 医療法人の解散
- 合併等
など、医療法人の根幹に関わる事項について意思決定することになります。
そのため、
「名前だけ社員」
という状態は望ましくありません。
東京都も、社員は実際に法人の意思決定へ参画できる者であることが必要で、名目的な選任は適当ではないと明示しています。
社員は何人必要?
医療法人設立実務では、原則として3名以上としている自治体が多く見られます。
例えば東京都は、医療法人社団の設立者について、通常は設立者全員が成立後の社員となるため3名以上必要と案内しています。
大阪府も、社員総会という合議体を構成するため少なくとも3名以上必要としています。
兵庫県も、設立時の社員を原則3名以上としています。
神奈川県の医療法人設立手引でも、原則として社員3名以上とされています。
したがって、新たに社団医療法人を設立する場合には、
社員3名以上
を基本に考えておくのが実務的です。
なぜ社員は3人必要なの?
理由の一つは、社員総会を合議体として適切に機能させるためです。
社員が2人しかいない場合、
1対1
に意見が分かれてしまう可能性があります。
兵庫県の2026年Q&Aでも、社員を原則3名以上としている理由について、2名では議決が割れる可能性等があることを説明しています。
医療法人は継続的に社員総会を開催して重要事項を決定する法人です。
したがって、設立時だけ人数をそろえるのではなく、
「今後、この3人で重要事項を決め続けられるか」
まで考える必要があります。
社員になるために医師免許は必要?
原則として、社員全員が医師・歯科医師である必要はありません。
例えば、
- 院長
- 配偶者
- 成人した子
- 親
- 他の医師
- 信頼できる第三者
などで構成するケースがあります。
大阪府も、出資・拠出者以外の者でも社員になれると案内しています。さらに自然人だけでなく、営利を目的としない法人については社員となり得る旨を示しています。
ただし、
誰でも名前だけ借りればよいわけではありません。
その人物が社員として医療法人の意思決定に現実に参加できることが重要です。
社員と基金拠出者は同じ?
必ずしも同じではありません。
これは前回の記事でも解説した重要なポイントです。
基金を拠出した人と、医療法人の社員は法律上別の立場です。
大阪府も、
- 拠出者は通常社員として入社する
- 拠出者以外も社員として入社できる
と説明しています。
つまり、
「基金を出した人=必ず社員」
でもなければ、
「基金を出していない人=社員になれない」
でもありません。
基金を多く出した社員ほど議決権が強い?
株式会社的な発想で医療法人を考えると、ここを誤解しやすくなります。
株式会社の場合、
「株式を多く保有している人ほど議決権が大きい」
という仕組みが基本です。
しかし社団医療法人は、株式会社と同じ株式制度ではありません。
したがって、
「理事長が基金を2,000万円出したから、他の社員より絶対的に強い」
という構造にはなりません。
医療法人設立時には、
資金を誰が出すか
と、
社員として誰に意思決定へ参加してもらうか
を別々に検討してください。
医療法人の「理事」とは?
理事は、医療法人の業務執行を担う役員です。
大阪府は理事について、
医療法人の常務を処理する者
と説明しています。
社員が社員総会で法人の大きな方向性・重要事項を決めるのに対して、理事は理事会を通じて具体的な法人運営に関与します。
理事は何人必要?
医療法上、医療法人には原則として、
理事3名以上
を置かなければなりません。
併せて、
監事1名以上
が必要です。
大阪府もこの原則を医療法第46条の5第1項に基づくものとして案内しています。
東京都も同様に、医療法人には理事3人以上・監事1人以上が必要としています。
一人医師医療法人なら理事1名でいい?
これはよくある誤解です。
「一人医師医療法人」=理事が1人でよい
という意味ではありません。
一人医師医療法人という呼称は、医師・歯科医師が常時1人または2人勤務する診療所を開設する医療法人などを指して使われてきたもので、役員数が1人という意味ではありません。
原則は、
理事3名以上+監事1名以上
です。
ただし医療法には、一定の場合に都道府県知事の認可を受けて理事数を1名または2名とする仕組みがあります。
申請先自治体の取扱いを確認する必要があります。
理事は社員でなければならない?
必ずしも、
理事=社員
である必要はありません。
社員と理事は制度上別の立場です。
例えば、
- 院長:社員兼理事長
- 配偶者:社員兼理事
- 父:社員
- 勤務医:理事
という構成も制度上は考えられます。
ただし、誰を社員・理事にするかは、自治体の審査、法人の実態、利害関係等を踏まえて検討する必要があります。
医療法人の理事長とは?
理事長は医療法人を代表する役員です。
大阪府も、理事長について法人を代表し、業務に関する裁判上・裁判外の行為をする権限を有するとしています。
通常、医療法人の対外的な代表者になります。
理事長の就任・退任・交代には、理事としての地位だけでなく、理事長選任、変更登記、行政への届出など複数の手続きが関係します。
具体的な手続きについては「医療法人の理事長変更完全ガイド」をご覧ください。
理事長は医師・歯科医師でなければならない?
原則として、医師または歯科医師である理事の中から理事長を選任します。
大阪府もこの原則を明示しています。
ただし、医療法上は都道府県知事の認可を受けることで、医師・歯科医師ではない理事を理事長とする例外制度があります。
大阪府も、非医師・非歯科医師の理事長について都道府県知事の認可制度があると案内しています。
しかし、これは通常のクリニック医療法人化で一般的に使う仕組みではありません。
院長は理事にしなければならない?
非常に重要です。
原則として、
医療法人が開設する病院・診療所等の管理者は理事に加えなければなりません。
大阪府も、医療法人が開設するすべての病院・診療所等の管理者について、原則として理事へ就任しなければならないと明示しています。
したがって、理事長自身が院長・管理医師である場合、
院長=理事長
となるケースが一般的です。
分院長も理事にしなければならない?
原則としてそう考える必要があります。
医療法人が、
- 本院
- 分院A
- 分院B
という3診療所を開設している場合、それぞれの管理者について原則として理事に加える必要があります。
つまり分院を増やすほど、
管理者たる理事
が増える可能性があります。
ここは分院開設計画で非常に重要です。
例えば定款で理事の定数を、
「3名以上5名以内」
としている医療法人がすでに理事5名で運営しており、新しい分院長を理事へ追加する場合、先に役員定数を変更するための定款変更が必要になるケースがあります。
東京都も、診療所新設に伴う定款変更の確認事項として、役員定数の変更が必要ではないか確認するよう案内しています。
したがって分院開設では、
「物件と管理医師が決まったから申請する」
だけでは足りません。
現在の理事数と定款上の役員定数まで確認することが重要です。
医療法人の監事とは?
監事は、医療法人の業務執行を監視する重要な役員です。
主な仕事は、
- 医療法人の業務を監査する
- 医療法人の財産状況を監査する
- 毎会計年度、監査報告書を作成する
- 不正行為や重大な法令・定款違反を発見した場合に報告する
- 理事会に出席する
- 必要に応じて意見を述べる
などです。
大阪府も医療法第46条の8等に基づく監事の職務として、これらを具体的に案内しています。
つまり監事は、
「年に1回ハンコを押してもらう人」
ではありません。
医療法人の理事・監事には任期があり、同じ人物が引き続き就任する場合でも重任手続きの確認が必要です。
任期満了・重任・変更登記については「医療法人の役員任期・重任完全ガイド」で詳しく解説しています。
監事は理事と兼任できる?
できません。
医療法人の監事は、その医療法人の理事・職員を兼ねることができません。
大阪府も医療法第46条の5第8項に基づき、この点を明示しています。
監事は理事を監督する側です。
理事本人が監事も兼ねれば、自分自身を監査することになってしまうためです。
監事はクリニックの職員でもいい?
原則としてできません。
例えば、
- 事務長
- 看護師
- 医療事務
- 常勤勤務医
など、その医療法人の職員となっている人を監事にすることはできません。
監事には法人から一定の独立性が必要です。
配偶者・子ども・親を社員にできる?
親族が社員になること自体について、一律に禁止する医療法上のルールではありません。
実務上、
- 配偶者
- 成人した子
- 父母
- 兄弟姉妹
などが社員となる医療法人もあります。
ただし、重要なのは、
本当に社員総会へ参加し、法人の意思決定を行える人物なのか
という点です。
単純な名義貸しはおすすめできません。
配偶者・子どもを理事にできる?
これも一律禁止ではありません。
例えば、
- 理事長:院長本人
- 理事:配偶者
- 理事:成人した子
という構成が認められるケースはあります。
ただし、親族だけで役員を固めた構成について、自治体が法人運営の実態や各役員の役割を確認する場合があります。
また、理事になれば単なる「人数合わせ」ではなく、医療法人の役員として責任を負います。
本人に就任意思があり、理事としての職務を果たせることが前提です。
親族を監事にできる?
ここは社員・理事と大きく異なります。
監事については、親族関係が問題になりやすいです。
例えば大阪府は、医療法人の理事の親族を監事にすることは適当ではないと案内しています。
兵庫県はさらに明確で、
理事と三親等以内の親族(姻族を含む)
について、監事への就任を原則認めないとしています。
したがって、
「院長の妻を監事にすれば簡単」
とは考えない方がよいでしょう。
監事候補者を決める際は、申請先都道府県の最新手引を必ず確認してください。
税理士を監事にできる?
この質問は非常に多いです。
結論として、
「税理士だから監事になれる」と一律に判断することはできません。
特に問題となるのは、その税理士が、
当該医療法人の顧問税理士かどうか
です。
例えば兵庫県では、医療法人の顧問である公認会計士・税理士・弁護士等について、監事への就任を原則認めないと明示しています。
大阪府も、医療法人と顧問関係にある個人・法人の代表者について、監事就任は適当ではないとしています。
なぜ顧問税理士を監事にすると問題になる?
監事は医療法人の財産状況や業務を独立した立場から監査する人です。
一方、顧問税理士は法人から依頼を受け、
- 会計
- 税務
- 決算
- 税務申告
などに関与します。
つまり、自らが会計・税務面で日常的に関与している医療法人を、監事として客観的に監査することには独立性上の問題が生じ得ます。
そのため自治体によっては顧問税理士の監事就任を認めない、あるいは適当ではないとする運用があります。
税理士なら誰でも監事になれない?
そういう意味ではありません。
問題なのは、
税理士という資格そのもの
ではなく、
医療法人との関係性・独立性
です。
例えば医療法人と顧問契約も取引関係もなく、監事として独立した監査が可能な税理士であれば、検討できるケースがあります。
ただし自治体によって取扱いが異なるため、事前確認が必要です。
顧問弁護士は監事になれる?
税理士と同じ考え方です。
顧問弁護士は医療法人との顧問関係を有するため、監事としての独立性が問題になります。
兵庫県では顧問弁護士についても、顧問税理士・公認会計士と同様に監事就任を原則認めないとしています。
したがって、
「専門家だから監事として適任だろう」
というだけでは判断できません。
MS法人とは?
MS法人とは「メディカルサービス法人」などと呼ばれ、医療法人やクリニックと取引する株式会社等の営利法人を指す実務上の呼称です。
例えば、
- 不動産賃貸
- 医療機器賃貸
- 医療材料販売
- 経営支援
- 広告・マーケティング
- 事務代行
- 人材関連
などを行うことがあります。
MS法人自体が直ちに問題なのではありません。
問題になるのは、
医療法人とMS法人の人的・資本的・取引上の関係が強すぎて、営利法人が医療法人を実質的に支配しているような構造になっていないか
という点です。
MS法人の社長を医療法人の理事にできる?
非常に慎重に検討すべき論点です。
例えば大阪府は、
医療法人と取引関係にある営利法人の役員が医療法人の役員へ就任することは原則認められない
と案内しています。
神奈川県の医療法人設立手引でも、医療法人と関係のある特定の営利法人の役員について、医療法人役員との兼務をしないよう求めています。
兵庫県の役員変更届の記載要領でも、当該医療法人と取引関係にある営利法人等の役職員は理事・監事へ就任できないと案内しています。
したがって、
MS法人代表者 → 医療法人理事
という構成は、単に本人が信頼できるという理由だけで決めるべきではありません。
MS法人の従業員を理事にするのは?
これも同様に注意が必要です。
自治体によっては、
取引関係にある営利法人の「役員」だけでなく「役職員」
を対象として制限する運用があります。
兵庫県は、取引関係にある営利法人等の役職員について理事・監事へ就任できないと案内しています。
つまり、
「MS法人の社長はダメそうだから、その会社の従業員にすればいい」
という形式的な対応は危険です。
実質的な関係性が確認される可能性があります。
MS法人の社長を社員にするのは?
社員と役員ではルールが同じではありません。
ただし、社員は医療法人の最高意思決定機関である社員総会を構成します。
そのため、特定の営利法人関係者が医療法人の社員として強い影響力を持つ構造については、医療法人の非営利性や独立した意思決定という観点から慎重な検討が必要です。
特に、
- MS法人代表者
- MS法人役員
- MS法人従業員
だけで医療法人の社員構成の多数を占めるような場合には、形式だけでなく実質的支配関係まで検討すべきです。
社員について役員と同じ一律の兼務禁止規定があると単純化するのではなく、
申請先自治体に具体的な取引関係・人的関係を開示して確認する
のが安全です。
MS法人関係者を監事にできる?
さらに難しいと考えるべきです。
監事には医療法人からの独立性が求められます。
大阪府は、医療法人と取引関係にある個人・法人の代表者について監事就任は適当ではないとしています。
そのため、医療法人と継続的に取引しているMS法人の社長などを監事候補にするのは避けた方がよいケースが多いでしょう。
医療法人と取引する会社の社長は理事になれる?
MS法人という名称を使っていなくても考え方は同じです。
例えば医療法人が、
- 株式会社Aから建物を借りる
- 株式会社Bから医療機器を借りる
- 株式会社Cへ事務代行を委託する
という場合、それらの企業の役員を医療法人の理事や監事に入れる場合には注意が必要です。
重要なのは会社の名称ではなく、
「医療法人とどのような取引関係にあるのか」
です。
医療法人の役員になれない人は?
役員については、法人を役員にすることはできず、一定の欠格事由に該当する者も役員になることができません。
東京都の医療法人運営資料でも、役員になれない者として法人などを挙げています。
また大阪府も役員について、
自然人に限られる
と案内しています。
つまり、
「株式会社○○を医療法人の理事にする」
といったことはできません。
役員になるのは法人ではなく個人です。
理事・監事の任期は?
医療法人の役員の任期は、
2年を超えることができません。
ただし再任は可能です。
大阪府も医療法第46条の5第9項に基づき、役員任期は2年を超えることができず、重任は可能と案内しています。
したがって、
「一度理事にしたから永久にそのまま」
ではありません。
任期満了のたびに適切な選任手続きが必要になります。
理事を変更したら何をする?
役員変更があった場合には、社員総会等での選任手続きのほか、都道府県への役員変更届等が必要になります。
大阪府も理事・監事の重任を含めて役員変更届の対象としています。
また理事長変更の場合には登記事項にも関係するため、
- 社員総会
- 理事会
- 役員変更届
- 変更登記
- 登記完了関係届出
などを整理する必要があります。
社員を変更した場合は?
社員は役員とは異なるため、単純に「役員変更届」を出すものではありません。
社員の入退社については、定款に従って社員総会等で適切な手続きを行い、社員名簿を更新します。
東京都も、社員の入社には社員総会で適正な手続き・承認が必要であり、退社についても定款上の手続きを経る必要があると説明しています。また社員名簿を備え、変更の都度更新することを求めています。
医療法人M&A・承継では「社員」が非常に重要
医療法人の承継を考える場合、社員の仕組みを理解しておくことは非常に重要です。
株式会社のM&Aなら、
株式譲渡
によって会社の支配権を移す方法が一般的です。
しかし持分の定めのない医療法人には、株式会社のような株式はありません。
そのため医療法人の承継では、
- 既存社員の退社
- 新社員の入社
- 理事・監事の変更
- 理事長変更
などを組み合わせて、医療法人の運営主体を変更していくことがあります。
つまり、
医療法人の「社員」は、将来のM&A・事業承継でも極めて重要な存在
なのです。
医療法人を子どもに承継するときは?
例えば父親が理事長で、将来的に医師である息子へ医療法人を承継したい場合、
単純に、
父 → 息子へ医療法人を相続
という考え方ではありません。
具体的には、
- 社員構成
- 理事構成
- 理事長変更
- 基金
- 診療所管理者
- 法人資産
- 個人所有不動産
などを整理していきます。
そのため、将来的に親族内承継を考えている先生は、医療法人設立時の社員構成から長期的に考えておくことをおすすめします。
社員・理事・監事をどう選べばいい?
設立時の一例として、
典型的な家族中心型
- 社員:院長
- 社員:配偶者
- 社員:成人した親族
- 理事長:院長
- 理事:配偶者
- 理事:成人した親族
- 監事:独立性のある第三者
という構成が考えられます。
ただし、これがすべての医療法人に最適という意味ではありません。
将来分院を出す場合の構成
例えば将来的に分院展開を予定するなら、
- 理事長:本院院長
- 理事:配偶者等
- 理事:第三者等
- 将来:分院長を理事へ追加
という形を想定しておくこともできます。
この場合、
定款上の理事定数に余裕を持たせるか
という点まで設立時に考えておくと、後の分院開設がスムーズになる可能性があります。
「人数合わせ」で役員を選ぶと何が危険?
例えば、
「理事があと1人足りないから大学時代の友人にお願いする」
「監事がいないから妻の父親に頼む」
という決め方をすると、後に問題になる可能性があります。
役員は、
就任承諾書に名前を書くだけの人ではありません。
理事には法人運営上の責任があります。
監事には業務・財産を監査する責任があります。
社員も、法人の重要事項を決定します。
したがって、
「実際には何もしてもらわないから」
という前提で人選するべきではありません。
よくある失敗① 社員と職員を混同する
「スタッフが10名いるので社員は足りています」
という話ではありません。
医療法人の社員とクリニックの従業員は完全に別です。
よくある失敗② 一人医師医療法人だから理事1名でいいと思う
原則は理事3名以上・監事1名以上です。
一人医師医療法人という名称とは別の問題です。
よくある失敗③ 妻を監事にする
配偶者を理事にすることと、監事にすることは考え方が違います。
監事には独立性が求められるため、理事の親族を監事にすることについて自治体が制限していることがあります。
よくある失敗④ 顧問税理士を当然のように監事にする
顧問税理士は法人の会計・税務に関与しているため、監事としての独立性が問題になります。
申請先自治体の取扱いを確認してください。
よくある失敗⑤ MS法人の代表者を理事にする
医療法人と取引関係にある営利法人の役員について、理事・監事への就任を制限する自治体があります。
役員候補者の勤務先・役職・取引関係まで確認する必要があります。
よくある失敗⑥ 分院長を追加したら理事定数を超えた
分院管理者は原則として理事になります。
分院開設時には現在の理事数と定款上の定数を確認してください。
よくある失敗⑦ 医療法人M&Aで社員を軽視する
株式会社の感覚で、
「理事長を変えれば経営権が移る」
と考えるのは危険です。
社団医療法人では社員総会が重要な意思決定機関です。
M&A・承継では社員構成まで確認する必要があります。
自治体によって取扱いが違う点に注意
医療法人制度は医療法に基づく全国共通制度ですが、実際の設立認可・役員変更等では都道府県ごとの運用があります。
例えば2026年時点でも、
大阪府
- 社員は少なくとも3名
- 取引関係にある営利法人の役員は医療法人役員への就任を原則認めない
- 理事の親族、取引・顧問関係者の監事就任は適当ではない
と案内しています。
兵庫県
- 社員は原則3名以上
- 理事は原則3名以上5名以内
- 監事1名以上
- 理事と三親等以内の親族は監事として原則認めない
- 顧問税理士・公認会計士・弁護士等も監事として原則認めない
- 取引関係にある営利法人等の役職員は理事・監事へ就任できない
という運用を示しています。
神奈川県
医療法人設立手引では、
- 社員は原則3名以上
- 医療法人と関係のある特定の営利法人の役員との兼務をしない
よう案内しています。
したがって、
「以前、別の県でこの役員構成で通った」
からといって、他県でも同じとは限りません。
医療法人の社員・理事・監事に関するFAQ
Q1. 医療法人の社員とは従業員ですか?
違います。
社員は社団医療法人の構成員で、社員総会を通じて法人の重要事項を決定します。
従業員・職員とは別の立場です。
Q2. 医療法人の社員は何人必要ですか?
設立実務では原則3名以上としている自治体が多く、東京都・大阪府・兵庫県・神奈川県も3名以上を基本とする案内をしています。
Q3. 社員は全員医師でなければなりませんか?
いいえ。
社員全員が医師・歯科医師である必要はありません。
Q4. 妻を社員にできますか?
一律に禁止されているわけではありません。
ただし実際に社員総会へ参加して法人の意思決定に関与できることが重要です。
Q5. 子どもを社員にできますか?
成人した子などが社員となることは制度上考えられます。
単なる名義貸しではなく、社員として法人運営に参画できることが重要です。
Q6. 社員と理事を兼ねられますか?
はい。
社員兼理事となるケースは一般的です。
ただし社員と理事は制度上別の立場です。
Q7. 理事は何人必要ですか?
原則3名以上です。
一定の場合には都道府県知事の認可によって1名または2名とできる制度があります。
Q8. 監事は何人必要ですか?
原則1名以上です。
Q9. 理事長は医師でなければなりませんか?
原則として、医師または歯科医師である理事から選出します。
都道府県知事の認可による例外制度はあります。
Q10. 院長は理事にする必要がありますか?
医療法人が開設する病院・診療所等の管理者は、原則として理事に加える必要があります。
Q11. 分院長は理事にする必要がありますか?
原則として、分院の管理者も理事に加える必要があります。
分院開設前に理事定数も確認してください。
Q12. 妻を理事にできますか?
配偶者であることだけを理由に一律禁止されているわけではありません。
ただし理事として実際に職務を果たすことが前提です。
Q13. 妻を監事にできますか?
申請先自治体によっては認められない、または適当ではないとされる可能性が高いため注意が必要です。
例えば兵庫県では理事と三親等以内の親族について、監事就任を原則認めていません。
Q14. 顧問税理士を監事にできますか?
自治体によっては認められません。
兵庫県は顧問税理士・公認会計士・弁護士等について監事就任を原則認めないと明示しています。
顧問関係のない独立した税理士とは区別して考える必要があります。
Q15. 顧問弁護士を監事にできますか?
同様に独立性が問題になります。
申請先都道府県へ事前確認することをおすすめします。
Q16. MS法人の社長を理事にできますか?
医療法人と取引関係にあるMS法人の場合、非常に注意が必要です。
大阪府等では、医療法人と取引関係にある営利法人の役員について医療法人役員への就任を原則認めない運用があります。
Q17. MS法人の従業員なら理事にできますか?
役員でなければ必ず問題ないとはいえません。
兵庫県のように取引関係にある営利法人等の「役職員」について理事・監事への就任を認めない運用もあります。
Q18. 株式会社を医療法人の理事にできますか?
できません。
医療法人の役員は自然人である必要があります。
Q19. 理事と監事を同じ人が兼ねられますか?
できません。
監事はその医療法人の理事・職員を兼ねることができません。
Q20. 監事に役員報酬を払えますか?
監事も医療法人の役員であり、適切な手続きを経て役員報酬を定めることは制度上検討できます。
ただし報酬額の適正性、法人の定款、社員総会決議等を確認する必要があります。
Q21. 理事の任期は何年ですか?
2年を超えることはできません。
ただし再任は可能です。
Q22. 理事長を変更すれば医療法人を譲渡できますか?
理事長変更だけで医療法人の承継が完了するとは限りません。
社員・理事・監事・基金・法人資産・診療所の管理者等を総合的に整理する必要があります。
Q23. 社員は後から変更できますか?
可能です。
定款に定められた手続きを行い、社員名簿を更新する必要があります。
Q24. 理事は後から変更できますか?
可能です。
社員総会等で選任し、都道府県への役員変更届等を行います。
Q25. 将来分院を出す場合、設立時の理事構成まで考えた方がいいですか?
はい。
分院管理者は原則として理事となるため、将来の分院数と定款上の理事定数を設立時から考えておくことをおすすめします。
医療法人の人員構成でお悩みの先生へ
医療法人設立で重要なのは、
「社員3人、理事3人、監事1人をそろえる」
ことだけではありません。
本当に重要なのは、
「その人たちで設立後も適切に医療法人を運営できるか」
です。
例えば、
- 配偶者を社員にする
- 親を理事にする
- 税理士を監事にする
- MS法人社長を理事にする
- 勤務医を理事にする
- 分院長を理事へ追加する
という場合、それぞれ確認すべきポイントが違います。
また、現在は問題がなくても、
分院開設
や
医療法人承継・M&A
の段階で、設立当初の社員・役員構成が問題になることがあります。
当事務所では、医療法人・クリニック関係の行政手続きを専門分野として、
医療法人設立
→ 診療所開設
→ 保険医療機関指定
→ 役員・社員変更
→ 理事長変更
→ 分院開設・定款変更
→ 医療法人承継・M&A
まで一連の手続きをサポートしています。
「誰を社員・理事・監事にすればいいか分からない」
「MS法人との関係がある」
「税理士を監事にしていいか知りたい」
「将来的に分院を出したい」
「子どもへ医療法人を承継したい」
という先生は、役員構成を確定する前にご相談ください。
【医療法人設立・社員・役員構成について相談する】
まとめ|社員・理事・監事は「人数合わせ」で決めない
最後に、医療法人の社員・理事・監事について重要なポイントを整理します。
- 医療法人の「社員」は従業員ではない
- 社員は社員総会を構成し法人の重要事項を決定する
- 設立実務では社員3名以上が基本
- 理事は原則3名以上
- 監事は原則1名以上
- 理事長は原則として医師・歯科医師である理事から選ぶ
- 診療所の管理者は原則として理事に加える
- 分院長も原則として理事になる
- 社員と理事は別の立場だが兼任は可能
- 監事は理事・職員を兼任できない
- 親族を社員・理事にすることは一律禁止ではない
- 親族を監事にする場合は自治体の審査基準に注意する
- 顧問税理士・公認会計士・弁護士は監事として認められない自治体がある
- 取引関係にあるMS法人等の役職員を理事・監事にする場合は特に注意する
- 役員任期は2年以内
- 分院開設前には定款上の理事定数を確認する
- 医療法人M&A・承継では社員構成が非常に重要
- 自治体によって役員・監事に関する運用差がある
- 「他県で認められたから大丈夫」とは限らない
- 設立後5年・10年の分院・承継まで考えて人員構成を決める
医療法人設立で大切なのは、
「認可を取るために誰の名前を借りるか」
ではありません。
「将来までその医療法人を適切に運営できるガバナンスをどう作るか」
です。
社員・理事・監事を適切に設計することは、医療法人設立だけでなく、将来の分院展開、事業承継、M&Aにもつながる非常に重要なポイントです。
参考となる公的情報・一次情報
本記事は、医療法、厚生労働省及び各都道府県が公表する医療法人関係資料を基に、2026年8月時点の制度・運用を整理しています。
医療法人の役員について、医療法上は原則として理事3名以上、監事1名以上を置くこととされ、役員任期は2年を超えることができません。診療所等の管理者は原則として理事に加える必要があります。大阪府はこれらの制度を2026年7月27日更新の「医療法人の構成員(社員、役員、評議員、職員)」で整理しています。
東京都は、社員について社員総会で法人運営の重要事項について意思決定する者であり、実際に法人運営へ参画できない者を名目的に選任することは適当ではないとしています。
兵庫県の2026年3月版「医療法人設立認可申請手引」では、理事と三親等以内の親族、医療法人の顧問税理士・公認会計士・弁護士等について、監事への就任を原則認めないと明示しています。
医療法人の役員・社員に関する運用は都道府県によって異なる部分があるため、実際の設立・変更手続きでは、必ず主たる事務所所在地を管轄する都道府県の最新手引・審査基準をご確認ください。
※本記事は一般的な制度・行政実務を解説するものであり、特定の候補者が社員・理事・監事へ就任できることを一律に保証するものではありません。特に親族、MS法人・取引先関係者、顧問専門家等を候補とする場合は、申請先行政庁への個別確認をおすすめします。
